第13話 今さら自己紹介・・・

女性はいいよなぁ・・・


僕はそう思った。なぜなら、男は女性と違って変なプライドみたいなもの・・・

そう、例えば人に弱さをみせないとか、見栄を張るとか、そういうものがあって人前で思い切り泣くことができないから。思い切り泣いてしまえば気持ちがすっきりするから、すべてをリセットして再び前を向いて歩きだせる。でも、男は時の流れの変化からだろうか?人前で泣くことはみっともないことだ!恥だ!と言う風潮になってしまっていて、女性のように思いっきり人前で泣くことができなくなってしまった。だから男はストレスだけがゴミの山のように胸に積もったままで生きていくことになる。平安時代の男性は、散りゆく桜の花びらを眺めて涙することが男性貴族の美徳だったというのに・・・まぁ、それは遠い昔の話になるけど。あと僕が気づいていたのは歌謡曲とかでも、女性よりも圧倒的に失恋への未練の歌を歌っているのは男性歌手が多いといこと。しかも、その歌詞は泣いていない。僕も彼女のように思いっきり泣けたらどれだけ楽になれるだろう?僕はどこで泣けばいいんだろう・・・?僕には、今の僕にはそんな泣き場所すらない。しかたないか・・・


すると、シャワーを終えた彼女が新しいパジャマを着てリビングに現れた。彼女は僕の顔をみると照れくさそうに微笑んだから、僕はそんな気まずそうな彼女に気をつかって何事もなかったかのように微笑み返した。すると彼女は僕に小さなピンク色の可愛い舌先をチョコンと出した。僕は、かわいいなぁ・・・と思った。なんかこの子には僕が今まで苦手だった「年下の女の子」のイメージをひとつひとつ果物の皮を剥くように払拭してくれる能力があるようだ。僕は思った。この子とならきっとうまくやっていけるって。

「年下の女の子」相手にこんなにも自然体でいられるのは初めてだった。きっと「年下の女の子」を苦手だと僕の脳のしわに刻まれていたんだろうな。

僕は今までつき合った「年下の女の子」とは、どこかに目に見えない「相性」の悪さが隠れていて嫌な思いをしてきたから、そんな僕のつまらない「固定観念」が、「年下の女の子」は危険だ!と警鐘をならしていたんだろう。

でも、彼女に対しては僕の頭の中で「警鐘」は鳴り響かなかった。むしろ僕に安らぎをくれた。彼女とはもうずっと以前から知り合いのように思えた。男女の仲は、無理せずお互い自然体でいられるのがいい。僕たちの距離は何の緊張感も、警戒心もなく確実に近づいている。この先どうなるのか楽しみになった。

と同時に僕はもっと彼女のことを知りたくなった。好きになった相手のことを知りたがるのは恋愛の摂理だ。

そんなこと、男として当然の心理だよな。誰だって好きな人ができたらそう思うだろ?僕は磁石で引き寄せられるように彼女に惹かれていった。彼女との出会いを「一夜限りの恋」にしたくなかった。僕は彼女の服を一枚ずつ脱がせて、その美しいであろうヌード姿にしていくようにこれから優しく質問して、彼女のことをもっと知っていこうと思った。


リビングのソファーでくつろいでいると、

「コーヒーしかないけど、飲む?」

「うん、ありがとう」

「アイスでいいよね?」

「うん、ブラックでいいよ」

「今煎れるからちょっとまっててね」

「あぁ。そんなに慌てなくていいから」

そう言うと彼女はキッチンにいって、コトコトとコーヒーを淹れている。僕は煙草が吸いたくなったけど、彼女の香りが広がっているこの部屋に煙の臭いはふさわしくないと思ったから、

「ねぇ、ちょっとベランダ借りていい?」

「あ、もしかして煙草?」

「うん」

「ちょっと待ってて」

彼女は洒落た陶器の灰皿を持ってきてくれた。きっと来客用だろう。彼女が煙草を吸わないのはその真っ白な歯を見ただけでわかっていたから。喫煙しない人には煙草の匂いがどれほど嫌なものなのか、僕もわかっていたから、

「ここで煙草吸っていいの?」

「うん、いいよ」

「匂い気になるでしょ?」

「慣れてるから平気だよ、気にしないでいいよ」

僕はこの「聖地」を汚すようで躊躇ったけど、朝は煙草が吸いたくてたまらなくなるから彼女の言葉に甘えてタバコに火をつけた。

煙は部屋中に広がっていき、たちまちリビングを満たしていた彼女の優しい香りを打ち消していってしまった。僕は心の中で申し訳ない気持ちになった。できることなら煙草なんてやめてしまいたい。でも体中の血液がニコチンを要求してくる。今は禁煙活動が盛んで、どこもかしこも禁煙禁煙とうるさいけれど、もともと煙草は身体に害があることがわかっていたんだから、それを知りながら売った「国」の責任じゃないか?今さらになって、たばこ税増税とか、禁煙を呪文のように唱えるのは僕から言わせればこの上なく無責任だ。そこまで禁煙させたいなら、一発で禁煙できる薬か何か開発しろよって言いたくなる。

淹れたてのコーヒーの香りが僕の煙草の匂いと、そんなつまらないことを考えていた僕の気持ちをかき消してくれた。彼女が氷の音をカランカランと鳴らしながら、淹れたてのコーヒーを持ってきてくれた。そして僕の横にチョコンと座ると、目覚まし代わりになるかわいらしい微笑みで僕にグラスを手渡してくれた。僕は普段インスタントしか飲まないから、こんな本格的にドリップされたコーヒーには憧れる。僕は喫茶店で飲むコーヒーのように味わって飲んだ。やっぱり鼻孔に広がるドリップされたコーヒーの香りはインスタントでは真似できないな・・・そして煙草とコーヒーの相性は最高だ。彼女が僕の腕に手を添えて勢いよく聞いてきた。


「ねぇ、アナタの名前教えて?私はサワだよ。22歳になったばっかりなの」      「そう言えばまだ名前教えてなかったね、僕は・・・カズマだよ、もう46だよ・・・」

「えぇ~!40過ぎに見えない!てっきり30そこそこかと思ってた!」

「見た目がガキっぽいからね」

僕はグラスの中の小さくなった氷を口に入れてキャンディーのようになめまわした。

「それにしても、よくこんなオッサンに声かけたね?」(疲れた自嘲が私を心配させる)

「う~ん、あの時は別に年齢なんて気にしてなかったからかな?それに危ないところだったし・・・それに、どこかとても悲しそうに見えたから、かな・・・?」

「そうかぁ・・・でも、いつもあんな感じで逆ナンしてるの?」

「それがね、聞いて!自分でも不思議なの!」

「何が不思議なの?」

「信じてもらえないだろうけど・・・知らない人に声かけたの初めてなんだよ?」

彼女はそう言うとうつむいて、グラスの中の氷をストローでくるくるとかき回した。

まぁ、これだけかわいい彼女だから普通にナンパされることはよくあるだろうなぁ・・・

僕は彼女が逆ナンすることが初めてかどうかなんてどうでもよかった。そんなこと聞くのは野暮ったいことだと思ったから。

「へぇ、そうなんだ?慣れた感じだったから、しょっちゅうやってるのかと思ったよ」

「違うよ!ほんとに初めてだよ!信じてくれる?」

「うん、わかった。信じるよ。そんな気分の時もあるもんね」

「よかったぁ~!」

彼女は胸を撫で下ろしたようで、そのとびっきりの微笑みを僕にむけると、そっと僕により添ってきた。彼女の洗いたての髪の香りが僕を安心させる。


(サワ・・・か・・・いい名前だな・・・)


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