第11話 一目惚れ?

時計は正午を過ぎていた。まだこの子は起きそうにない。よく見るとこの子ってずいぶんまつ毛が長いのねぇ、他の女の子たちが羨ましがりそうなまつ毛だわ。私はこの子のまつ毛にそっと触れてみた。すると彼はくしゃくしゃっと目をこすったので、びっくりした私は息を止めた。起こしちゃったらかわいそうだから。悪いことしたなぁ、と思っていたら、彼は何事もなかったかのようにかわいい寝顔のまま眠っている。


(あぁ~、びっくりしたっ!)


寝ている子にいたずらしちゃ悪いよね。「そうだ!」私は思いついたままリビングへ行って、バッグから化粧品のはいったポーチを取り出して、またベッドへと向かった。自分のウチなのに、こっそり物音をたてないように動き回っている自分が可笑しかった。そっと彼に近づいて彼に化粧をしていく・・・女の子なら1度は経験のある悪戯。私のイタズラゴコロに火がついた!

やっぱりこの子の長いまつ毛がどうしても気になってしかたなかったから、私はこの子を刺激して起こさないように、そっとアイラインをほどこした。次にビューラーっと!

次に気になったのは、この子のサラサラした髪の毛!彼の髪の毛を一束手に取ると、私の手から流れるように零れ落ちていった。私はそのサラサラと流れるような髪の毛にカチューシャを着けてみた。


(あらっ!この子けっこう似合うじゃない!かわいいっ!)


私はスマホを取り出して彼の化粧顔の写メをパシッっと撮影した。化粧された無邪気な寝顔がなおさらかわいくて愛おしくなった!抱きしめたい!

性格も優しいし、っていうか、昨日の時点でこの子が優しい人だって言うのはすぐにわかってたから。この子は優しいだけじゃなく、とても純粋な人。お人好しで人を疑うことを知らない人。人を騙すよりも騙される人。それはつまり、生きていることにとても疲れてしまう、とてもかわいそうな人。私はそっとこの子の手を握りながらサラサラした髪の毛を撫でていた。とても気持ちがいい。いくら見ても飽きのこないそのかわいい寝顔に見惚れていた・・・純粋で優しくて、儚く脆い人。私が守るべき大切な人・・・

その時、私はまたこの子を初めて見た時のことを思い出した。この子を見かけた時に、言いようがないほど今にも零れ落ちてしまいそうな寂し気で悲し気な顔をしていた・・・

まぁ、誰にでも、「悲しみ」や「苦しみ」はあるけど、気が弱くて純粋そうなこの子にそんな顔は似合わないと今さらながらに思った。この子の笑顔はきっと純粋で素敵な笑顔だと思う。なのに、どうしてそんな見ている私の胸が悲しく苦しくなるほどの悲しい顔をしてるの?あとで聞けるタイミングがあったら聞いてみようかな?それとも余計なお世話かな?だって、私たちは出会ったばかりで、お互いの名前さえ知らないし、今はまだ「友達」でも「恋人」でもないんだから。そう思うとこの子のことがさらに愛おしくなってきた。


(この子をどんなことからも私が守ってあげなくちゃいけない!)


そう私の母性本能が全身の奥底から囁いた。この子はきっと私がいないとダメな人間になってしまう。そう思うほど純粋で儚くて脆い人だから。

すると私は急に切なさで胸が絞めつけられて悲しい気持ちになった。もしかして、「恋」?私の「一目惚れ」?人は「恋」をすると、嬉しさの裏に苦しみが隠れている。だから私はこんなに苦しいの?自分でもまだ出会って間もないこの子に「恋心」を持っているのかどうかよくわからないのに・・・この胸の「苦しみ」はどこから来たの?


(この子を、私だけのものにしたい!)


そんな強烈な独占欲が私の心を浸食していく・・・


(この子は私のことをどう思っているんだろう?)


この子が目を覚ましたら、麦わら帽子で捕まえそこねた蝶々のように、私の知らない「どこか」へ飛び去るように帰ってしまうだろう・・・もう、2度とこの子に会えなくなるかもしれない・・・そんなのイヤだ!この子を放したくない!

そう感じた瞬間、急に言い知れぬ胸を突き抜けるような「寂しさ」が雪崩のように轟音をたてて、私の小さな胸の中で無限に広がっていた私の「恍惚」を埋め尽くしてしまった。

幸せな「恍惚」から、息ができないような「苦しみ」へと、私の心は咲き終わった花のように枯れていった・・・


・・・苦しい・・・


そう思いながらも私はこの子を見つめ続けていた。涙が・・・溢れてきた。

私はそんな「寂しさ」を吹き払おうとして、祈りをこめて彼の薄い唇に、そっとキスをした・・・この子を、思いっきり抱きしめたくて、しかったなかった・・・


(お願いだから・・・早く・・・早く、目を覚まして・・・)


時計の針だけが虚しく動いていた・・・


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます