第10話 逆お持ち帰り?

冬の始まりを告げるように、外には冷たい風が吹いていた。私はそんな風の音で目を覚ました。隣をみると、昨日出会った彼がぐったりと眠っている。昨日あれだけ悪酔いして吐いちゃったんだから、そうとう疲れてるんだろうなぁ・・・しばらく起きそうにないわね。微かに顔色が青みがかっているのが心配だけど・・・きっと起きたらお腹減ってるんだろうな、今のうちになにかご飯でも作っておいてあげよっと!

私は静かにベッドから降りてキッチンへと向かい、冷蔵庫を開けて中を見渡した。やっぱり・・・食べ物らしいものは何にも入っていなかった。最近撮影ばかりで忙しくて買い物なんてしてなかったなぁ・・・それに洗濯物もかなりたまってるし・・・お部屋の掃除もしてないから、フローリンの隅っこにはホコリがたまってる。


(わぁ、最低の最悪!今日まで撮影で忙しかったからなぁ・・・あとで掃除しなきゃ!)


とりあえず彼が目を覚ましたらきっとお腹減ってるだろうから、下のコンビニで何か適当に買ってこよっと!あ、でも、私が留守の間にこの子が起きたら、きっと心配するだろうなぁ、そしたらかわいそうだよね。まだこの時間じゃファミレスの宅配サービスもやってないし・・・どうしよう?とりあえず今あるのはお水くらい・・・あ、コーヒーもあった。あとは・・・

私は背伸びをしてキッチン中の棚や冷蔵庫を開けて、彼のために何か食べ物になるようなものを探してみたけど、やっぱりまともなものは何にもなかった。もうお昼を過ぎているから、そろそろあの子も起きるかもしれない。どうしよう・・・

さっとコンビニへいくかどうしようか迷ったけど、あの子をこのウチに一人きりにするのは起きた時に私がいないとかわいそうだから私は冷蔵庫の中のお水を飲んだ後、あの子のことが気になってすぐに寝室へ戻った。まだ彼は生きてるのか死んでるのかわからないくらいに眠っていた。人間って、こんなにも眠れるものなのねぇ~。そんな彼の寝顔をみていたら、


(・・・かわいい・・・)


胸の中で蝶が飛んでいるかのようにこそばゆくなるのを感じた。明らかにこの子は私よりずっと年上。きっとアラサーくらいかも。そう言えばまだ、名前も知らない。それに・・・この子、結婚はしているのかしら?そうでなければ彼女はいるのかしら?私は彼の両手の薬指をみてみた。よかった~、指輪は両方の薬指にはなかった。もっといろんなお話しておけばよかったなぁ。あのお店に誘わないで、居酒屋に行ってお話しながら食事すればよかったなぁ・・・でも、昨日の夜はどうしても、あのお店のお肉が食べたい!って私のお腹がうるさかったんだもん・・・あれ?もしかして私、「お持ち帰り」しちゃった?成り行きとは言えナンパみたいになっちゃったのも初めてだったし、この子をみたときに何か不安定で危なっかしかったから、カラダが勝手に動いて何にも考えなしに誘っちゃったんだっけ・・・

酔ってフラついているこの子を見つけた時に、あまりにも脆くて儚げで悲しそうにみえたし・・・そして純粋で優しい人だと思ったから・・・それなのにあんなに、とても悲しそうで寂しそうだったのはなんでだろう?人にはいろんな理由があるから無理に効かない方がいいかな?

やっぱり彼は優しかった。その証拠にうちに来ても私にイヤらしいことしなかった。私もたまにナンパされるけどH目的のいやらしい男ばかりでウンザリする。だけどこの子は違った。こんな男の人に出会ったのは生まれて初めてかもしれない。この子には「危険」なんてものは初めから感じなかった。それどころかこの子が持っている純粋さと優しさに私は惹かれたのだから。今はとても寂しそう。彼が心の底から笑顔をみせてくれないのが私には気になって仕方なかった。私はこの子に本当の笑顔になってもらいたい。私なら彼を本当の笑顔にすることができるとそう思った。だからきっと私はこの子を本能的に誘ったんだわ。きっとそんなところかも・・・

私は別世界で眠っているような彼の横に腰かけ、一人で自問自答をしていた。考えれば考えるほど不思議なことだらけ・・・人生っていろいろあるから面白いのよね・・・

楽しいこと、嬉しいこと、逆に、悲しいこと、辛いこと・・・私もいろんな経験してきたけど、いつも「独り」だった。


今の私は、ある人達からはチヤホヤされてるけど、それは「愛」からくるもんなんかじゃないのはすぐにわかった。でも、そんなこと気にしていたらこの「仕事」なんてつとまらないから。私はとにかくみんなの前では「笑顔」でいればいいだけだった。「笑顔」でいれば人間関係は偽りでも円滑にまわるもの。これがいつの間にか私が学んだ「渡世術」になっていた。そう割り切ってないと「人間」って息苦しくて生きていけないんじゃないの?「仕事」も「恋愛」も。ねぇ・・・そう思わない?私は眠っている彼に問いかけた。もちろん、独り言。

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