第9話 何もかも忘れて今夜は眠ろう・・・

「ここにバスタオルおいておくからね」彼女が脱衣所で僕にそう言った。僕は身体中を洗い終えると、彼女が用意してくれた真っ白で柔らかいバスタオルで全身を拭き、カゴの中にあった新しい男物のパンツとTシャツに着替えた。


(なんで男物の下着があるんだろ?やっぱり、「オトコ」いるんだろうな・・・)


面倒だったからその先のことは考えなかったし、聞かなかった。

頭の痺れを止める薬が切れるのが怖いから今まで外泊は避けてきた。今日は不可抗力だけど。僕はズボンの後ろポケットに入っているスマホを取り出して画面をみた。誰からも連絡はなかった。彼女にバレないように僕は薬を飲んだ。

「パンツとTシャツもあるから着替えてね」(下のコンビニで急いで買ってきた物だけど)

「あぁ、ありがとう。ちょうどいいよ」

「そう?よかった。着替えたらこっちにおいで?」

「うん、今行くよ」


浴室から出ると、さっきいたリビングの隣の部屋から声が聞こえたので、僕はノックをすると、中から「いいよ」と返事が返ってきた。部屋のドアノブに手をあててドアを開けた。 

その部屋は彼女の寝室だった。彼女はすでにダブルのベッドの中にいる。独り暮らしなのにダブルベッドかぁ・・・タンスの上にはぬいぐるみたちがきれいに並べられている。

花のように白いカーテンの隙間からは微かに月の光りが漏れている。ほのかなピンクを基調としたその部屋は、彼女の優しく甘い香りと微かに彼女の体臭がする落ち着く部屋だった。彼女は掛け布団を広げ、僕に

「こっちにおいで?」

と、両手を広げるしぐさをして、僕にベッドに入るように言った。僕は困った。今日こんなコンディションじゃ「デキ」ないから・・・

でも彼女を待たせるわけにはいかないから、そっとベッドに近づき、彼女の微笑みに導かれていくようにベッドの中に入っていった。彼女の洗い立ての身体のいい匂いがする。

(やっぱり、肝心のチンコは勃たない・・・どうしよう!ピンチだ!どうしよう・・・)

そんなやましいことを考えている僕とは裏腹に、彼女は、

「・・・昨日は疲れたね・・・たくさん寝ていいからね・・・」

彼女は自分の胸の中に疲れ切った僕の顔が埋もれるように抱きしめてくれた。どうやら彼女にその気はないようだ、助かった。僕は彼女の小さな2つの膨らみの中に、「癒し」を感じた。彼女のその細い身体に右腕を回した。僕は彼女の胸の中で抱かれながら、静かに目を閉じた。僕の耳に、小さな花を揺らす微風のような彼女のかわいい寝息が聞こえてきた。 

カーテンの隙間から覗く月の光が彼女の寝顔を少しだけ明るくしている。(ハタチそこそこにしか見えない女の子がどうやってこんな広いマンションを買えたのか?仕事は?どうして僕なんかに声をかけてきて、自分の家に泊めたのか?いったいどうして?)考えれば考えるほど、不思議なことだらけだ。今日、いや、もう昨日か・・・いろんなことがありすぎた。さすがに僕も思考回路に限界がきた。余計なことを考えるのはもうやめよう、僕は彼女の胸の中に顔をうずめたまま、母親の乳房に甘える赤ん坊のように眠ることにした。

いつも財布の中に2日分の薬を忍ばせている。僕は障害が彼女にバレないように、さっき浴室で薬を飲んでおいた。それが効き始めてきて眠くなってきた・・・


(・・・もう、なにもかも忘れて今夜は眠ろう・・・何もかも・・・全部・・・)


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