第66話 称号の力
「ほざくな! こんなものすぐに振りほどいて……グググ……」
ヴァルドラゴンは頑張って『おすわり』の状態から抜け出そうとしているが、決してケイが掛けた『称号』の力には勝てなかった。
「さて、もう、気が済んだろ。10分ぐらいたったか?」
「グヌヌヌ……まだだ!」
「……称号の力は絶対。あなたじゃ、ケイの称号には勝てない」
諦めないヴァルドラゴンにユイが説明混じりにトドメを刺しにかかっいる。そこを邪魔する愚か者が1人。未だに奴隷服を身にまとい、ケイとユイの後ろにちょっと涙目で隠れいるフミが尋ねる。
「あの〜『称号』ってなんですか?」
「お前……空気読めよ。今、ユイのかっこいい所なのに」
「……フミ、悪い子? アホの子?」
「ふ、2人にして酷いですー!……はぁ、それでなんなんですか?」
2人は、フミの言動に呆れながらも説明する。
『称号』とは、その人物の人生の全て。その人が行い、成し得たことの実績、経験、人柄、人物像など。
そして、『称号』にはそれぞれの持つ効果があり、規模が大きければ大きいほど効果は絶大。
「……と、言うこと」
「はぁ〜。なるほど。じゃあ、ケイさんの『称号』はなんなのですか?」
フミの率直に聞く質問。
「そんなの言えるわけ──」
「……『魔王の使者』『極めし者』『大陸の覇者』」
「はぁ……どうして言っちゃうのかな? ユイ?」
「……ん、ケイの自慢は私の自慢」
胸に手を当て、誇らしげにユイは語る。それよりも驚きを隠せないのは必死に抜け出そうとしていたヴァルドラゴンだった。
「ま、ま、魔王の使者……だと!? そんな訳あるか!」
「黙れ、『ふせ』」
「こ、こんなことって……ケイさん……あなた一体……」
今度は強制的にヴァルドラゴンを地べたに押し付ける。どれだけ力を込めても覆すことの出来ない絶対的な命令。ヴァルドラゴンは、この時点で自身が持つ『竜王』では、『魔王』には勝てないと悟った。
「これには制限があってな。その1、言葉を交わせる物。その2、魔物であることだ。その3、自分より弱いものにしかかからない。さて、自称 竜王。この意味がわからんお前ではあるまい」
「ま、ま、待ってくれ!」
ケイは背中からホーンラビットキングの角を取り出し、『再構築』でいつも通りハンマーに変える。まさに鬼に金棒。ヴァルドラゴンにとって、1歩1歩近づく音は死の宣告に等しかった。
だが、その足はピタリと止まる。
「ユイ? 離してくれ。こいつは喧嘩を売ったんだぞ?」
ケイの服を後ろから摘んで止めるユイ。
「……待って、こいつ飼いたい」
「は、はい?」
ユイの唐突な発言に、フミが頭に”?”を思い浮かべる。
「よし、わかった。飼おう」
「……ん、ありがとう」
「え……? え、え、えぇぇぇぇぇぇえ!? こ、こんなあっさりー!?」
あまりにもあっさりと決まりすぎて、フミには目眩が起き、倒れた。
「命拾いしたなぁ〜? 自称、竜王?」
「グヌヌヌ……覚えて──」
「……めっ! 大人しく! じゃないと、殺すよ?」
「こ、これは……まさか!? で、伝説に聞くフェンリル!?」
ケイの殺気に続き、ユイの殺気でとうとうヴァルドラゴンも白目を向けた。
こうして、ケイ達は馬よりも早い足を手に入れた。
その頃、王室にて……。
「女王様……我々はいつまで警備をすれば……?」
「うるさい! とにかくあと1週間だ! 1週間だけ乗り切れば悪夢は消える。こっちは毎日毎日同じ夢を見てるんだ! 『絶対回避』の何かけて何がなんでも避けてる! 全員、気を抜くなと伝えろ!」
「「はっ!」」
鈴木は兵士を寝室から出させ、1人きりになった途端、頭を抱える。
「くっそ! くっそ! くっそ! 何をしても夢が変わらない! あと1週間! 何とかしないと……助けて、井上……。い、いや、ここは私1人でなんとかしてみせる!」
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