第45話 決着と駆け引き
「あらあら〜? 何かしら、これは?」
「……これは……ケイの『再構築』?」
「彼の? ユイ、どんな能力なの?」
「……えっと……重さは変わらないけど、形や大きさは自由。あと、ケイから離れると元の形に戻る。ケイは使い方が上手いからやっかい……勝てない……むぅ」
親子2人して、目の前に飛んできた球から聞こえる「出せ!!」という声を無視して会話を続ける。
「なるほどね……どれくらい戦ったの?」
「……200戦53勝147敗……むぅ……勝てない……ママ、悔しい」
「あらあら〜。ユイを圧倒するなんて……ユイの旦那さんは、思ってたより強いのね」
「……あ、元に戻る」
飛んできた球は、中でパリンッと音がした。そして、次の瞬間、「ぐぁぁぁぁぁぁあ!!!」と悲鳴に近い叫び声が聞こえた。元に戻ったホーンラビットの角が8本。おかしなことに全て燃えている。
「はぁっ、はぁっ、な、なんだこの技能は……!? 」
不死鳥は棘と棘の間から出てきた姿には、以前のような凛々しさは無く、小さな雛鳥のような容姿に変わっていた。
「8本か……1本辺り約50本の棘があると考えて、全部で約400から500本程の棘が一斉に襲いかかる気分はどうだ?……って、おいおい、まだ生きてんのかよ? いい加減に死ねよ」
「……あ、ケイ!」
青い炎に全身を包まれながら、ケイは魔王と護衛者達が集会する場所に帰ってきた。もちろん、いち早く反応したユイは、母親の頭から飛び降りて駆け寄る。
「おう、ユイ。勝ったぞ」
「…………して?」
「? どうした?」
ケイは顔を近づけた。そして、視界が揺らいだ。頬に強烈な痛みが走ったのか、ヒリヒリとする。真っ直ぐ見ると、ユイの目からは涙が零れていて、右手には移った炎で燃えていた。
「え?」
「……なんで……なんで、なんで、なんで! いつも! そうやって自分だけ傷ついて……ボロボロになって……私の気持ちも理解してくれないのに!!」
「ユ、ユイ……?」
ユイは、ぽかぽかとケイの胸を叩きながら泣き崩れる。燃え移るので、直ぐに離れようとするが、ユイがそれを許さなかった。
「お、おい! 離れろ!」
「……いや。ケイと同じがいい! 離さない! もう、ケイが気づくのは見たくない!」
ユイが抱きついたために、全身に火が回り、2人して青い炎に包まれた。
「ユイ!離れなさい!」
「……ママ! 口を出さないで!」
「はぁぁぁあ〜!?!? 娘が反抗期!?」
止めようとケイ達の元へ向かおうとした母親はショックで倒れた。
「……ユイ……俺が悪かった。ちゃんとお前の気持ちに気づいてやれなかった俺のミスだ。ごめんな」
重症の中、さらに強烈に抱きしめられたため、体中に痛みが走り、肉が焼け、血が溢れ出ており、意識も飛びそうなほど限界に達していた。だが、それでもユイのためにとケイは抱きしめ返した。
「……だったら、チューして」
「はぁ、わかっ──」
「ふはははは!!! 油断したな人間! しっかりと我が炎は返してもらったぞ!」
ユイの背後に現れたのは、雛鳥からケイと同じ高さ程の高さになった青い炎の不死鳥だった。近くにより、炎を吸収して、本来の10分の1程の大きさまで元に戻ったのだ。
全部を吸収したため、ケイとユイにはもう青い炎がなかった。
「……こいつ、殺──っケイ!? しっかりして!!」
ユイを抱きしめていた力が弱まり、膝がガクンと崩れ、倒れた。
「ふっ……ふふ……ふはは! 最後の最後で気絶とは! 我が直直にトドメをさしてやろう!」
「ッ!! させない!……ケイの変わりにお前を殺す!」
「もう、良い。そいつを直せ、フェニ」
「!? ま、魔王様!?」
一角獣。誰も寄せ付けない圧倒的な強さと気高さ、そして何より角から発する禍々しさと声の重さが、その場にいた全員に冷や汗をかかせた。
「お、お言葉ですが──」
「何度も言わせるな。死にたいのか?」
「……も、申し訳ございませんでした。どけ、小娘」
恐怖の支配者と言わんばかりの存在は、たった一言で全てを変える。魔王たる所以の1つだった。
「運がいいな、人間……『再生の炎』」
不死鳥はケイの全身を黄色い炎で包む。すると、あちこちにあった火傷はみるみる内に治る。焼けて筋肉が、ボロボロの血管が、溶けた皮膚が時間が戻るように治っていく。
「んっ!? お、おれは……」
「!!……ケイ!」
身体を起こし、辺りを見渡していると、いきなりユイが飛びついた。
「ユイ……か?」
「……良かった……良かった」
「一体、何が──」
話始めようとすると、ユイの両手がケイの頬を掴み、口が塞がった。前のようにねっとりとしたものだけではなく、一瞬。
時間にして、3秒もないだろう。だが、2人の感覚は何分、何時間としているような感覚だった。
「……生きてて、良かった」
「死にかけることぐらい何度もあるだろ」
「……むぅ、ケイはわかってない」
「おい、お前ら、ふざけるのもいい加減にしろ。魔王様の前だぞ」
無意識にだが、ケイはユイを守るように自分の方に寄せ付け、ユイも答えるように胡座をかいているケイの膝の上に座り、身を預けるように寄せる。そして、2人して魔王様を睨む。
「まずは見事だ。人間の身でありながら、第5位に勝利するのは見事であった」
「そりゃあ、どうも。それで? 要件はなんだ? 次はお前が俺と戦うか?」
「ふっ……ふはははは!」
魔王様の突然の笑いに守護者全員の冷や汗が加速すると共に、全員の頭に驚きが走った。
「「「「「「魔王様……笑った!?」」」」」」
「良いな……良いぞ、人間! 死を恐れぬとは……見事だ。いいだろう、人間界に行き、後に住む余達の領土を奪ってこい」
「はっ! 嫌だね。俺はお前の部下になったつもりはない。俺は復讐がしたいだけだ。領土を取るなら自分でいけ」
「ふははは!……なら、領土を奪った暁になんでも願いを叶えてやる」
「信じられねぇな。そんな約束」
「おい、調子に乗るなよ、人間。余を誰と心得る? 魔王に二言はない」
護衛者たちは魔王様に偉そうな態度を取るケイに関心しつつも、「お願いだから、怒らさせないで」と必死に祈っていた。
「……わかった。2年だ。2年で全ての領土を奪ってやる」
「ほぅ、大きく出たな。出来るのか、お前に」
「領土を奪う前に、俺の復讐が先だ。もう一度言う。俺はお前の仲間になった覚えはねぇからな」
「……いいだろう。それで手を打とう。まずは手筈を整え、準備するが良い。皆の者、聞いたな? 進撃は2年後だ。全ての準備を整えよ!」
「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」
魔王様の一言に、各守護者全員が、頭を下げ、同時に返事をする。もちろん、近くに居たユイの母親や不死鳥もしている。
「あぁ、人間、こっちへ来い。面白い称号を与えてやる」
「俺はケイだ。称号を与えるってなんだ?」
ケイは近づくと、魔王様は角を下げ、触らした。
「これでいい。行く魔法陣は──」
「手を貸さなくても、自分でやれる。お前は準備でもしとけ」
「……優秀だな。なら、全員が移動する時も力を貸せ」
「はぁ!?」
「願いを2つにしてやる。余達も人間界に行き、復讐したいと望んでいる。お前だけがしたいとは思うな?」
「……その言葉、忘れるな。あと、息くさい」
「よし、殺す。っと、その前にフェニ。こやつの身体を完璧に治してやれ」
交渉と段取りを決める前に、魔王様からの変な申し出に不死鳥も答える。
「気づいておらんのか?」
「?」
「お前の体は、死んでいるぞ」
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