第37話 もうすぐ終わる旅
あれから更に約1年が過ぎた。
「ここに魔王様がいるのか?」
「……ん、間違いない」
2人がいる場所は岩山。辺には魔界に時々湧いている大きな湖が1つ。そして、周りには巨大な岩が無数にあり、その間には姿びっしりと詰まって生えている。
天気が快晴のせいか、まるで1つの幻想郷のような場所だった。
「ようやく補充できる。危なかった……さすがに魔王様の近くにいるやつは強いな。なかなか攻撃が通らねぇ」
土器で作った筒を『再構築』で形を変えた水筒に湖の水を入れつつ、喉が渇いたのか、ひたすら隣で飲み続けるユイに話しかける。
「……ふぅ……ようやく歩ける」
「ユイ、人の話はちゃんと聞こうな」
「……ん、強かった」
「聞こえてんじゃねーか!」
ユイ曰く、魔王様の所までの距離は、あと数日で着くところまで2人は歩いてきた。本来は半年で着くはずの距離が、1年もかかってしまったのには理由があった。
「……ケイ、今日もやる?」
「当たり前だ」
「……ん、今日も勝つ」
「いいや、俺が勝つ」
2人がここに来るまでに、芝生地帯を超え、砂漠地帯を超え、雪山地帯を超え、火山地帯を超え、豪雨が耐えない地帯を超え、様々な魔物達が集中して住む地帯を超えて来た。
その間もケイは当たり前のように夜に自分を追い込む訓練をしていた。のだが──、
「……初めの頃みたいに泣かせてあげる」
「いやいや、泣いてたのはお前だからな?」
ケイが夜に1人で修行している事がバレたのは、砂漠地帯の真ん中辺りを過ぎた頃だった。理由は、ユイがただの水分の含み過ぎ。
つまり──
「……トイレ」
辺りは砂だらけ。昼は常に暑く、夜は急に冷える。昼間にガッツリと水を飲んだため、夜になって寝ている時に急にしたくなったのが、ユイの目を覚まさせる原因となった。
「……あれ? ケイ?……ケイが、いない……」
辺りを見回りても近くにいる気配が無く、フェンリルが持つ嗅覚を頼りに吹き荒れる砂漠の中を微かな残り香で探し出した。
「……見つけた……ケイ、ケイ、ケイ!!!」
「ユ、ユイ!?」
抱きついた。辺りはトカゲや芋虫もどきのような気持ちの悪い魔獣たちの血で汚れているが、お構いなし抱きついた。
心配した、不安だった。方向があってるかどうかも、間違っているかもわからない中、1人で探し、確かにいるという安心感が、ユイの目から涙をこぼした。
一方、ケイは困惑していた。ユイが深く寝静まったのを確認しているから、修行を行っていたため、バレるとは思っていなかったのだ。
「……グスッ……グスッ……ケイ、ケイ、どうしていなくなったの?……心配したんだよ」
「それは……その……だな。修行してたんだ」
「……なんで?」
「今のままじゃ、お前に釣り合わねぇって思ったんだ。俺は、ユイ、お前と同等でありたい」
「…………だったら私もやる……ケイばっかり強くなってずるい」
涙をクイッと拭いながらユイは、この日から修行に参加した。朝方は移動して、夜は2人で研鑽に励む。いつでもどこでも常に一緒。
そうしている内に半年間で着く予定が、1年もかかってしまったのだ。
「ところでユイ、なんで目が覚めたんだ? いつもしっかりと寝てるのを確認してからやるのに……」
「……あ、あぁぁぁぁあ!! ケイ、こっち見ないで!」
すべきことを思い出したユイの体は、急に迫り来る「やつ」を必死に我慢して、お腹を押さてる。
足腰がガタガタと揺れ、落ち着きがないことからケイは察して一言。
「あぁ、そういう事か。大丈夫だ、ユイ。俺もお前と出会う前に漏らしたことがある。だから、だいじょ──」
「……ケイ、最低!」
女の子の触れてほしくない場面を踏んでしまったのか。この日を境にユイはデレを見せなくなった。
そして、歩いて行き、目の前に魔獣がいたら容赦なく殺しては、食べ、殺しては、食べを繰り返し、今に至るのである。
「なぁ、ユイ」
「……なに?」
「俺たちかなりの魔物を食べてきたよな?」
「……ん、全部完食した」
「だったらなんでこんなに技能と称号の差が出るんだろうな?」
首にぶら下げているプレートを確認する。
名前 ケイ
種族 半魔人
称号 『全てを喰らう者』『極めし者』『攻略者』『大陸の覇者』
技能 『異世界翻訳』『鑑定』『威圧(極)』『精密射撃(大)』『怪力(極)』『捕食』『再構築』
「見ろよ。何も変わってねぇ……というか、増えてねぇ……」
「……大丈夫、ケイは強い」
「いや、チートに言われてもなぁ……」
『鑑定』でユイを見る。赤い左眼がユイのステータスを表示させる。
名前 ユイ
種族 フェンリル(人狼種)
称号 『フェンリルの愛子』『勇者の力を受け継ぐ者』『覇者のパートナー』『素直になれない乙女』
技能 『悪食』『空爪(極)』『咆哮(大)』『気配察知(極)』『気配隠蔽(中)』『全魔法使用可(大)』『全魔法耐性(大)』『付加魔法(中)』『技能自動発動』『創造魔法』『合成魔法』『限界突破』
「……そんなに見つめないで」
「あ、いや、悪かった。そういえば、『創造魔法』ってこれまで使ってきたけど、使ったやつは?」
「……ん、少し見ていて……『創造魔法』! 『天歩』」
ユイの『創造魔法』はイメージによって作り出された『魔法』は、『創造魔法』が『天歩』に書き変わっていた。
「なるほど、そういう事か……あ、もう少しでパンツが──」
「……むぅ、エッチ!」
ケイの顔面に、ユイの蹴りが容赦なく入った。ちなみにピンクだった。
今日も2人は魔界を旅する。
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