第30話 ユイの母親を怒らした父親

 ケイとユイが旅だった数分後、ユイの母親は、帰ってきたが、怒り狂ってウロウロと周りを歩きながら敵を探しているユイの父親がの声を聞いた。


「あの小僧ぉ!!! どこ消えた!!!」

「はぁ、あなたって親バカよね〜。あたしもそうだけど……」

「なんだと!? 俺達の子が変なやつに連れ去られたのだぞ!」

「もう、ユイならつがい君と一緒に出ていったわ」

「なにぃ!? 番だと!? いつ決めた!!!」


 ユイの父親は、ケイとの決着がつかないまま、勝負を放り出したことにブチ切れていたが、なんの相談も無く、番となって連れ出したことにさらに怒りを膨大させていた。


「私が許可したわ」

「何を勝手な! 行くぞ息子達!」


「「「「ワォォォォン!!!」」」」と一斉に吠えて、何十匹かのフェンリルがユイの父親の元へと集まる。そして、ユイの父親を先頭に走り出そうとした時──、


「待ちなさい!」

「止めるな! 娘を取り返しに行く!」


 言うことを聞かないユイの母親がついにブチ切れた。今の今まで、お腹にはユイの次の女の子──つまり、次女を抱えているため伏せたの状態で座っていたが、この瞬間、立った。


「何をしている! 代々、フェンリルは女がリーダーなのだぞ。次の子が無事に生まれるように座っていろ。なーに、心配するな。娘は絶対に取り返す!」


 ユイの父親が全く論点がズレていることに気付かず、ドヤ顔で話し終える。そして、再び走り出そうとした時、地震が起きた。否、ユイの母親が軽く地面を叩いただけだ。


「な、何して──ヒィ!?」

「あなた……待ちなさいって……言ってるの、よ?」

「は、はぃぃぃぃい!!!」


 ユイの父親には絶対のルールがあった。それは自分を守るため、家族を守るために作ったユイの父親自身の掟。これを破ることは死を意味するからだ。

 その絶対ルールとは、


 1、娘、妻を愛でること。


 2、浮気はしない、困っていたら助けること。


 3、絶対に妻を怒らせない。


 そして、今、起きているのはユイの父親の絶対ルール「その3」に当てはる事だった。なぜ、フェンリルの女性がリーダーなのかは、至極単純。雄の誰よりも力強く、凶暴で、ここ奈落の底である魔界を滅べせるほどの強大な力を持っているからだ。



「ユイ達は幸せそうに出ていったわ。そもそもユイを追い出したのは私たち。そして、連れ戻してきてくれたのは、あのケイって子よ。彼がいなかったら今頃は……どこかに野垂れ死んでたかもしれないの。だから、彼には感謝はすれど、追いかける理由はないの。……おわかり?」

「は、は、はぃぃぃぃい!!!」


 ユイの父親の返事を聞くと、ユイの母親は、お腹のこのために再び伏せの状態に戻る。

 また、息子のフェンリル達も完全に萎縮してしまい、ユイの父親の後ろに1列に並んでおすわりしており、長い行列が出来ていた。


 この後、1週間、ユイの父親は貢物として、お腹には与える栄養分として、いつものご飯の倍以上を1人で見つけて捧げることによって、機嫌を取ったのであった。




 一方、ユイの母親が起こした地震はケイ達にも伝わっていた。


「うお!? じ、地震か!?」

「……違う、これはママのやつ」

「こんなこと出来るのか!」

「……これは、ちょっと動いたの。お腹に子供がいるからあまり力は出せないけど……これは……ママ……」

「だからか。通りであまり怖さを感じないわけか。いいか、ユイ。俺はお前の母親に託されたんだ。だから、何があっても守ってやる」


 ケイは心の中でユイの母親に「任せろ」と言わんばかりに力強く言う。そして、ユイの頭を撫でる。

 ユイもされるがままに頭を撫でて貰い、頭についている獣耳とお尻の付け根辺りから生えている尻尾が、無意識の内に左右に動く。


「……ん、ケイ」

「なんだ?」

「……ありがとう」

「おう。じゃあ、行くか!」

「……ん!」

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