5 つんでれヴィーナス


「ヴィーナスさんが、助けて欲しいそうです」


 フロートシップに乗り、ワシントンに向かっていると、ミヤビから念波が届いた。


「今、どこにいるんだ?」

「ここは、ラス・ベガスの近くのグランドキャニオンです。マーサーポイントってところの石垣でできた塔の上にいます」


「今、カルガリーの上空だ。そこまで3時間くらいだけど、大丈夫か?」

「たぶん。今はヴィーナスさんの悪魔が、他の悪魔たちと戦ってるんですが、もうすぐ「服従」スキルが無効になるそうです」


 ……ミヤビも念波が通じるということは、ヴィーナスの呪縛が解けたんだろう。


「ヴィーナスはどうなんだ?」

「平気な素振りをしてますが、とても怖がっているようです。父上に助けてほしいって思ってます」

 ・・・神使だから、人の感情も読み込めるんだろう。


「ヴィーナスの悪魔たちもかなり強いと思うが、なぜ苦戦しているんだ?」

「相手に、メドゥーサやドラキュラ、フランケン、狼男がいるということもあるですが、先の戦いで悪魔や魔物たちが魔核を取り込んで増強したことが大きいですね。こちらの上級悪魔についていたほとんどの中級悪魔が寝返っています」


「なるほどな。もう少ししたらそっちに着くから踏ん張っていてくれ」

「分かりました。父上」


 碧衣が運転を変わり、猛スピードでグランドキャニオンまで飛んできた。


 私のスピードだと3時間はかかるところを、時速500kmで約2時間で来てしまった。

 グランドキャニオンに近づくにつれ、我々が乗っているフロートシップからでも赤いグランドキャニオンの大地がドス黒く染まっているのが分かる。


 グランドキャニオンの谷底には、悪魔や魔物たちが渦を巻いて群がっていた。

 グランドキャニオンの岩肌を侵食しながら這い上がり、ヴィーナスがいる塔に近づいていく。


 羽がついている悪魔は、飛び上がってくるが、それを次々「傲慢の悪魔 プライド」や「憤怒の悪魔 ラース」たちが大きな鎌を振り回し、力で打破していく。


「暴食の悪魔 グラトニー」は襲い来る悪魔たちを貪っている。


「色欲の悪魔 ラスト」が悪魔たちの上に魔法陣を描き落とすと、悪魔や魔物どおしで交尾を始めている。


「嫉妬の悪魔 エンヴィー」や「怠惰の悪魔 スロウス」が手を前に翳かざすと、輪のような波動が飛び、狂ったようにお互いを殴り合ったり、動きが怠慢になっていく。


 さらに「強欲の悪魔 グリード」が手を前に翳すと、悪魔たちの欲が霧のように吸い取られていく。欲がなくなった悪魔たちは、ただ上や下を向き虚ろな目をしている。

 ミヤビの話では、先の戦いでヴィーナスの命令によりこの悪魔たちは戦闘には参加していなかったらしい。この悪魔だけで、何十万にもなる悪魔たちを退けていることを考えると、もしヴィーナスの悪魔が Lip Magic Generations に攻撃を加えていたら一溜りもなかったかもしれない。


 我々がフロートシップから見ていると、ヴィーナスの悪魔たちの動きが止まった。

 たぶん、ヴィーナスの「服従」の効力が切れたのだろう。


 その悪魔たちはヴィーナスを襲ってくるのかと思ったが、ヴィーナスを一目見た後、微笑むようにして消えていった。


 ……悪魔は恐怖心を貪るものだ。ヴィーナスの心を見通したのかもしれない。


「ミヤビ これまでご苦労様。 私はここで死ぬわ。あなた一人だったら逃げられるでしょ」

「そんな訳にいきません。お父様がもう目の前まで来てます。もう少しの辛抱です」

 そんなヴィーナスとミヤビに悪魔たちが襲いかかろうとした瞬間、

 紅々李が紅々李刀の杖「ちはやぶる」を光らせ天使の羽で塔の上に降り立った。その「ちはやぶる」の光の玉に入ってきた悪魔たちは、蒸発するように消えていく。


「江戸川乱歩!」

 続いて連続の瞬歩技でティアリが悪魔たちを切り捨てていく。


 さらにそれぞれが、

「月下美人!」

「雷鳥!」

「不死鳥フェニックス!」

蟒蛇おろち!」

「風龍!」

「土龍!」

 悪魔や魔物に対して最も効果のある技を放った。


 それでも塔に飛びついてくる悪魔は私とヨウビが次々封印していった。


 悪魔たちは恐れおののいて、蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。


「お父さん!」

「ショウ! 何してたのよ! こんなに待たせて……」

 こんな強がりを口にしているヴィーナスだったが、目にはたくさん涙を浮かべていた。

「待たせて、ごめん」

「ショウのバカバカバカ~」と言って、キスしてきた。


 乙女達は『またか~』みたいな目で見ている。

「またライバル増えちゃったよ」日葵がため息混じりに口にする。


 ヴィーナスが、ひと安心したのか涙も収まり私の首筋に口を近づけようとした瞬間、


 ”バチッ”


 っと音が響いた。

「あら? また魔断使えるようね。残念」

「オレに服従のスキルは使えないよ」

「フフ ちょっと試しただけよ。これでやる気が出てきたわ。昔のようにね」


「ヴィーナス、Lip Magic Generations に入るか?」

「う~ん。それは遠慮しておくわ。私のスキルって集団行動向きじゃないのよね」

 みな一応に安心した顔をしている。


「あなたのお嬢さん方もそれは望まないでしょう。あなたの中にルシファーはいなくなったようだけど、幼いあなたもなかなか可愛いわよ。違う魅力があるわ」

「そうか。分かった。でもこれからデウスエクスマキナに会いにいくんだ。この上に浮かんでいるフロートシップにミヤビと一緒に乗ってくれ」

「何を話すのか興味あるわね。同行させてもらうわ。少しの間だけど皆さんよろしくね。それからさっきは助けていただいてありがとう」

 ヴィーナスは Lip Magic Generations のメンバーに向き直り頭を下げた。

 私の記憶の中でも、ヴィーナスが感謝の気持ちを形にするのは初めて見た気がする。


 ヨウビが運転してフロートシップが降りてくる。

 そして、フロートシップに乗り込み一路ワシントンへ向かった。


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