3 カイロ(後編)


「――いきなり攻撃はないだろう。

 縄張りを荒らして悪かったとは思う。

 すぐ立ち去るから冒険者同士で闘うのはやめていただきたい」と

 前に出て、手を広げて敵意はないことを示し説得する。


冒険者の1人が物珍しいものを見るようにして、

「ごめん。魔物かと思って攻撃してしまった。その動物はどうしたんだい?」

「あっこれかい。これはうちらの仲間なんだ。ひどいことはしないでくれ」


「すごいな。パリパリ光ってるし、後ろの方は燃えてるぞ」

「明るくていいだろ」

「明るいってそういう意味じゃなく……確かに明るいな。それよりも迷ってしまったみたいなんだ。助けてくれないか?」


「いいけど、この先はどうなってるの?」

「もう少し先に行くと、大きな広間に出る。だが、そこには魔物がたくさんいて、うちらでは逃げ帰ってくるのが精一杯だった。逃げてくるときに道がわからなくなって、どの辺にいるのかまったく分からない。この迷路は初めてだし、1週間も彷徨ってる」


「うちらも今日はここで引き返すよ。今日は下見だからね。後ろ着いてきて」

 そう言って、来た道とは逆に戻っていく。

 また日葵が先頭で、美夜の後ろにはさっきの冒険者が3人付いて来た。

 一人は大怪我をして背負われている。


「薬はないのかい?」

「全部使ってしまった。もしよければ、薬を分けてくれないか? お代は帰ったら必ず払うよ」

「いいよ」


 怪我をしている部分に、まずキズナオールを噴霧する。

 そして体力回復用に体力補充グミを3人にあげた。


 体力が回復してきたようで

「すごいなこの薬! どこで売ってるんだ?」

「オレのお手製だよ。売ってはいない」

「是非、売ってくれ! どのくらいするんだ?」

「売ったことないからな~ 後で作り方教えてあげるよ」

「ホントか! 私はティアリっていう。今後もよろしく頼む」


 ティアリは、女性の冒険者だ。他の2人は男性で3人姉弟だという。

 クラスは3人ともB級。リーダーは一番上のお姉さんの『ティアリ』で、獅子族だ。

 白い肌に、オッドアイ(右目がブルー、左目がゴールド)で金髪の毛並みが美しい美人さんだ。その弟は『アフメス』、末っ子は『ジェフラー』だ。


 獅子族だけあって、筋骨隆々で腹筋がきれいに割れている。

 臍を出しているのでよく見える。


「さっき、うちの雷雷がカミナリを放ったとき、当たったように思ったけど、どうやって避けたの?」と日葵がティアリに聞く。

「それは秘密なんだ。奥義みたいなもんだからね」

 ――何かのスキルを使ったのかもしれないな。


 ツタンカーメンの部屋までたどり着いたところで、雷雷と炎炎をひょっこり瓢箪にもどす。

 それを見ていたティアリ達が驚いて

「その道具すごいね。どこで手に入れたんだい?」と聞いてきた。


「秘密っていいたいところだけど、エルフに貰ったんだ」

「エルフって、アトランティスに行ったのか!?」

「うん。ちょっと魔神世界に行く用事ができてね」

「魔神世界にも行ってきたのか! すごいな。いろいろ聞いてみたいな」

 ――まずったかな~ ちょっと言い過ぎちゃったぞ。


「ちょっと、これ以上はこっちもいろいろ教えてもらわないとダメよ!」

 瑠璃が制止する。

「そうだよね。分かった。こちらが一つ教えたら、そっちも一つ教えるってことでどう?」

「それならいいわよ」


 そんな会話をしながらツタンカーメンの部屋から外に出てきたら、お昼過ぎに会った隊長さんが慌てて寄って来て

「あ~良かった。無事だったんですね」と迷路で会った3人に頭を深く下げて挨拶してきた。


「心配させて申し訳ない。この方たちに助けていただいた」

「他の兵士はどうしたんですか?」

「全て命を失った。亡骸も持ってこれなかった。本当にすまない」

「それは彼らの使命ですから。本望だったと思います。王女様が無事だったのが何よりです」

「でも、だから王女様がこんな危険なところに入ってはダメなんですよ」


 ――王女? ってことはこの国の王女と王子様なのか?


「うちらも冒険者だ。危険だからといって何もしないわけにもいかない。でも、まぁそうだな。明日はこの者たちと行く。心配するな」

 ……って、一緒に行くとか言ってないけど……


 末っ子のジェフラー王子が、私たちの方を向いて手を合わせウィンクしている。 そんなやりとりの後、とりあえず、ホテルまで戻ることにした。

 ティアリ王女たちも一緒のホテルに泊まるそうだ。


 その晩、夕食をティアリ王女達と一緒に食べに近くのレストランに行った。

 ティアリ王女がお礼にご馳走してくれるそうである。

 ティアリ王女が店に入ると、いきなり貴賓席のある部屋に通された。

 王女が手をパンパンって鳴らすと、次々料理が運ばれてくる。


 ハマム・ムハッシという鳩の丸焼きに、ご飯が詰まった料理やナスとポテトのトマトのシチュー料理ムサアーやシシカバブなどだ。

 その他地中海が近いためか魚介類もたくさん出てきた。

 乙女達も喜んで頬張っている。


 さて、質問タイムだ。でも、ここは瑠璃に任せよう。

 こういうのは得意そうだ。

「瑠璃。質問と回答は任せるから。何でも答えていいよ」

「任せて! お兄ちゃん。 じゃ、最初の質問はティアリ王女さんからでいいよ」

 瑠璃は、シシカバブをペロッと一口食べて、催促した。


 ティアリ王女が

「じゃ、お言葉に甘えて……魔神世界にはどうやっていくんだい?」


「エルフの長老に会って、世界樹を通してもらうの。

 では、こちらから質問するね。 ティアリ王女さんはどうして冒険者をやってるの?」

 瑠璃は、シチューをゴクンと飲んで質問した。


「それは、王家の谷であるものを探すためさ」

 ――ふ~ん。あるものね~


「今度はこっちの番だな。エルフの長老にはどうやって会うんだい?」

「アトランティス大陸に行って、一番大きな世界樹まで行くと会えるかもしれない。でも、エルフの長老は気難しいから、簡単には別世界には行けないわよ。

 次の質問ね。何を探してるの?」


「そ、それは、できれば伏せておきたかったが、「死者の書」だ。

 じゃ、エルフの長老からどうやって許可をもらったんだい?」

「いろいろあるけど、このチームのリーダー、うちの兄が前世でエルフと知り合いだったことが大きいかな」

 ――ノブやライトのことは言わないようだ。


「そうか。前世か。なかなか厳しいな。」

「じゃ続けて質問よ。ティアリ王女のスキルは何?」


「これはまた、言いたくないことを質問される。でも約束だからなぁ。

 私のスキルは「瞬歩」。あなたのスキルは何だい?

 あっ、違う質問するはずだったのに……」


「私のスキルは「水」よ。もう言っちゃったからダメ~ 「瞬歩」について詳しく教えて」

「瞬歩はすばやく移動できる技なんだ。一気に間合いを詰めたり、危険を察知したときに離れたりできる」

 瑠璃の目がキラリと光る。


 ――なるほど、それで雷雷の攻撃を避けることができたのか。


 それから、龍神世界のことや王家の谷などについて情報交換を行った。


*********************************


 部屋に戻ってから瑠璃が

「お兄ちゃん。王女のスキルは絶対にものにしないとダメね」

「瞬歩か?」

「そう。このスキルがあると、闘いが圧倒的に有利になるわ。

 闘いは間合いがすごく大切なの」


「そうだな。いかに自分の間合いにするかで勝負が決まるといっても過言ではない」 美夜が肯きながら付け足す。


「ってことは、あのティアリ王女とキスするってことか!」

 と美夜がかぶりを横に振る。

「もう今更だにゃん。何人だろうと覚悟してたニャン」


「でも、王女がオレのこと好きにならないとスキルはもらえないぞ。

 それに王女とキスするとか恐縮するな」

「そこが問題よ」と瑠璃が頬杖をついて悩んでいる。


「明日、一緒に王家の谷に行ってみようよ」紅々李が提案する。

「そうだね。まぁ成り行きで何とかなるんじゃないの」と日葵が肯定する。

「うちらも協力するよ」碧衣と蓮月が顔を見合わせていった。

 ――これもチームワークといえるのかな? ちょっと複雑な心境だ。


 翌日、ティアリ王女ら3人が朝食を摂っているところに偶然を装って姿を現した。


「昨日はいろいろ情報を教えてもらって助かったよ」

「いや、それはこっちのセリフだよ。こちらこそ助けていただいてありがとう。

 もし良ければ、一緒に探検してくれないか? 

 君らの話を聞くと、かなりの実力者のようだし、一緒にいってもらうと助かる。

 昨日兵士に言った手前もあるしな」


 ――やったね。第一段階は成功だ。

「もううちらの秘密もばれちゃったし、関係ないからな」

 ティアリ王女の弟のアフメス王子も一緒に行って欲しいようだ。


 馬車に乗り、王家の谷まで移動する。

 昨日の門兵のところまで行き、馬車を降りる。


 早速、昨日の隊長が王女たちのところにやってきて、

「王女様、王子様もうやめてください。王女様が遭難したら大変なことになります」

「心配するな。今日はこの者たちが一緒に行ってくれることになってる」

 とティアリ王女は言うが、


 隊長は困り顔で、

「そんな、こんな若造と一緒に行ってどうなるもんでもないでしょう。昨日はたまたま運が良かったからです」


「そんなことはない。この者たちは見かけ以上に強いぞ」

 ――まぁな。隊長さんが心配するのもなんとなく分かる気がする。


 私は、ギルド会員証を広げてメモ欄を隊長に見せた。

「えっ、A級! これは失礼しました。こんな若造なんて言ってしまって……」

「うちら全員A級なんだ。王女さんたちは守ってみせるよ」


「自分の身は自分で守るよ。ただ方向音痴でね。道に迷わないようにだけしてもらえればいい」


 そんなやりとりの後、我々はティアリ王女達と一緒に昨日と同じツタンカーメンの墓から王家の迷宮に入っていった。

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