10 世界樹の森


 原住民の篝火も見えなくなり、月が辺りを薄暗く照らす。

 樹海が月の光を反射し、木の上の葉が青く輝いている。

 その上をエルフとともに飛んで行く。……深夜0時を回っていた。


 我々の羽が、風を切る音以外は聞こえない。

 この世のものとは思えないほどの大樹海の荘厳な風景といくつもの星の瞬きが、とても幻想的だ。

「まったく魔物いないのにゃ」

「世界樹の森に近づくほど、魔物はいなくなるよ。エルフもそれなりに強いからね。魔物よりもやっかいなのは、むしろ人間かな(念波)」

 紅々李が尋ねる

「羽もないのに飛べるっていうのは、それもスキルですか?」

「スキルの一種かもしれないけど、これは風の精霊の力さ(念波)」


「きみらのスキルもすごいね。火に水に風 ……雷、闇、月、光、吸収と反射、

 しかもLip magicって見たこともないスキルまである。 皆、まだ完全に開花してないけどね(念波)」


 ――風? 光? 月? ……誰だろう?


「さ、もうすぐ世界樹の森が見えてくるよ(念波)」

 樹海を抜け、理路整然とした木立が並ぶ平地に出る。

「今日は、ここで休もう(念波)」と言って、エルフは大地に降り立った。

 我々もあとに続く。

 そこには、煉瓦でできた平屋があった。


 平屋には誰もおらず、エルフのライトが扉を開け、中に入る。壁にあるスイッチを押すと蓄光されていた光が、発光石を通して明るくなった。

「この発光石は、ノブからもらったんだぜ(念波)」

「ノブと貿易してるんですね」

「そうだ。エルフだって楽に暮らしたいからな。自然を壊すものや有害なものでなければ、売ったり、買ったりしている(念波)」

「さっきから、不思議だったんですが、口は使わないんですか?」

「口は使うぞ。 水や汁を飲むためにな。

 世界樹になる前のエルフは根があるわけではないから、口から水分を補給しないといけない。でも動物のように声帯がないから、口から音は出ない。

 植物同士なら念波で話ができるんだが、動物の念波は我々には届かんのだ(念波)」

「口から食べ物は摂らないんですか?」

「動物は不便だな。我々は光合成をするから普段は食べ物は必要ない(念波)」


「今日は疲れただろ。明日は朝日とともに出発だ。そうすれば明日の夕方にはエルフの街に着くだろう。

 ここは、雨風を凌ぐための家だから何もないが、その辺の藁の上で寝てくれ。

 エルフも太陽のないところで活動するのは疲れるんだ。じゃ、おやすみ(念波)」

 と言って、3秒もしないうちに即行で寝てしまった。

 ハヤッ。確かに光合成してるんだったら、夜は疲れるよな。

 今日は変な鳥や部族に絡まれるし、少し疲れた。

 皆も思い思いに藁で寝床を作り、寝る準備をしている。


 明日はエルフの長老に会えるだろうか。

 いろいろな考え事が思い浮かぶが、明日のことは明日に任せよう。

 皆、今日はありがとう。おやすみ……


――★☪★――


 次の朝、朝日とともにライトにたたき起こされる。眠い目をこじ開け、魚の干物を口に頬張りながら、飛び立つ。

 明るいところで、空から見て分かったが、樹木は世界樹だった。

 世界樹は端にあるものほど幼く、これから行く中心部に向かうほど太く高くなっていく。

 この木1本1本が、エルフだったとは俄かに信じがたいが、人の形に見えなくもない。


 ちらほら、エルフの人影も見えるようになり、世界樹の世話をしている。

 お昼を過ぎる頃には、街の形が見えるようになり、一際大きい世界樹がそびえ立っているのが分かる。

 その大きな世界樹は、街の真ん中にあった。


「エルフの街はひとつだけなんですか?」と瑠璃が聞く。

「いや大きな街は10ぐらいあるよ。世界樹も2000年くらい経つとその周りに街ができるんだ。小さな町も含めれば100くらいはあるかな。

 世界樹は1本の木だけで大きくなってるわけではなくて、大きくなっていくとその周りにある世界樹と一緒になるんだ。あそこに見える世界樹は10本くらいの世界樹の集合体だな(念波)」


 だんだん街の近くになってくると、エルフの街の概要が分かってくる。

 世界樹の枝にぶら下がるような感じで、丸い家が出来ている。

 そのぶら下がった家は、揺れないように蔦で地面に固定されている。

 蔦は地面に根を張り、各家を囲むように葉を広げていた。共存共栄という感じだ。

 その家の近くを通ると、エルフが顔を出し、物珍しいものを見た感じで手を振ってくれる。我々も手を振り返す。


 ライトが事前に我々が通ることを知らせておいてくれたお陰だろう。

 こちらから見た感じ、そんなに嫌がられている感じもしない。

 これもライトのお陰かも知れない。


――◇◆◇――


 もう日が陰り夕日が落ちてきた。

「今日は私の家に泊まってくれ。長老に会うのは明日の明るい時間がいいだろう。

 暗い時に会うと機嫌が悪くなるからな。ここが私の家だ。皆くつろいでくれ(念波)」

 街の中心部から少し離れた割と大きめの丸い家に通された。

 家の中に入ると、多重構造になっていて、人間の家で言えば3階建てくらいの大きさだ。


 10人は住めるくらいの部屋がある。全ての部屋に綿が敷いてあり、歩くとフワフワしている。どの部屋も発光石で明るい。

 窓から外を見るとほとんどの丸い家が発光していてとても幻想的だ。

 エルフは、だいたい日が落ちて3時間もすると普通は寝るのだそうだ。

 早寝早起きは健康にいいからね。


 エルフは食事はしないそうだが、雨や曇が続いた時は栄養補充に果汁は飲むことがあるらしく、食事の変わりだと言って、果物をご馳走になった。

 あのトゲトゲの実もある。乙女達はあの味が癖になったらしく、匂いも気にすることなく美味しそうに食べている。私も癖になりそうだ。

 果物は、その辺にたくさん実っているから自由に食べていいと言われた(念波で)。


 明日はいよいよご長老様とご対面だ。

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