3 魔窟 モン・スター・ミッシェル(前編)

 魔窟モン・スター・ミッシェルはサン・マロ港から約1時間かけて船で渡らなければいけない。魔窟は回りを崖でおおわれており、登るだけでも厳しいようだ。

 ただ、冒険者が集まるので、船がつけられるように整備されている。日中波が静かであれば1時間に1本、船が立ち寄るらしい。

 私たちは、都合よく馬車の御者が船も運転できるということだったので、小舟を貸し切り魔窟モン・スター・ミッシェルまで渡った。


 魔窟モン・スター・ミッシェルは遠くから見ると、モン・サン・ミッシェルと外観がそっくりである。しかし、大きさが違った。島の大きさが3倍あり、建物の大きさも3倍である。

 御者には船を港につけてもらい、浜にあった小屋で休んでいてもらうことにした。

 御者も元冒険者で、浜に来る大抵の魔物は退治できるというので心強い。


――~~舩~~――


 浜からすこし行くと、崖がある。まずはこの崖を攻略しなければならない。

 美夜が指笛をピーッと吹くと、炎駒が空から現れた。

 美夜にサン・モロ市場で買ったロープを渡し、崖の上の木に括りつけてロープを降ろしてもらう。

 蓮月や碧衣、日葵、クロは獣族なので、それぞれうさぎ、狐、狼、黒豹に変身し、崖をピョンピョン跳ねて登っていく。

 そういえば、蓮月や碧衣、日葵の獣姿初めて見たな。かわいい。


 ただ、どこかのアニメのように服がイリュージョンしていつのまにか着ているなんてことはなく、獣になると獣人に戻った時、裸になってしまうのであまり人前ではやらないらしい。今回は、変身していそいそと服をリュックに入れ、崖の上で元に戻ってからすばやく着るそうだ。

 獣のままだと魔物と勘違いされることもあり、通常は獣人で過ごすことが多い。獣族以外の紅々李、瑠璃、私は吊り下げられたロープを持ち、上へ登っていく。

 紅々李のパンツが見えてしまうので、もちろん、私が最初に登る。


 全て登りきったら、他の冒険者にここのルートは使って欲しくないので、ロープは外してリュックに入れておく。

 意地悪からではなく、冒険者の暗黙のルールがあり、

 ・近くの狩場に冒険者を見つけたら邪魔しないこと。

 ・その冒険者の狩場を犯さないこと。

 ・人工物を使ったら、できるだけ元の状態に復元すること。

 になっている。

 ただ、冒険者が危険な状態にある場合は、助けても良いことになっている。

 逆に言うと、助けなくても良い。冒険者なのだからある程度、命の危険性はあることを知っておかなければいけない。


 もし仮に冒険者が鉢合わせしてしまったら、話し合いである。狩りをお互いにする意思がある場合は、共同戦線をはるか、それぞれ単独行動を行うのが普通だが、その狩場を他の冒険者に渡したくないような場合は、くじやジャンケンで済めばいい方で、代表選の一騎打ちが一般的である。なお、生死は問わない。


 美夜は、少し様子を見てくると言って、炎駒に乗って上空から偵察を始めた。

 少し先に行くと、魔物スライムに出くわした。スライムはどこにでもいるなぁと思いつつ、襲ってくるわけではなかったが、薬の材料に欲しかったので、3匹ほど狩っておく。


 草をかき分け、少し奥に入るとゴブリンとマッシロルームが襲ってきた。

 ゴブリンは手に小型の剣を持っていて、20匹ほどの集団で行動しているようだ。

 マッシロルームはキノコ型魔物で、白い粉を吐き、辺りを真っ白に染める魔物だ。

 白い粉には催眠作用があり、吸い込むと意識が朦朧とし、寝てしまうと図鑑に書いてあった。


 我々は、忍者がするような首に巻きつけていたスカーフ状のマスクを顔の鼻の上まで引き上げる。マスクはフィルター加工がしてあり、微粒な物質を通さない。

 さぁ戦いだ。


 空から美夜が木の枝を飛ぶように降りてくる。いつものフォーメーションAだ。

 ゴブリンにはあの挨拶はしないらしい。(良かったぁ)

 最初にゴブリンと戦う。ゴブリンは小型で動きは素早いが、剣の腕前はさほどでなく、日本だったら初級から中級クラスというところか。


 容易く剣をいなし、倒していく。ただ、ゴブリンは数が多い。

 最初20匹くらいだと思っていたが、近くに巣穴があったらしく、次から次にと出てくる。だいたい50匹くらい倒しただろうか、じっと見ていたマッシロルームがゴブリンが減ってきたところで、白い息を吐いた。

 ゴブリンがパタパタと倒れて……というより寝ていく。

 寝ているゴブリンにマッシロルームがへばりつき、ゴブリンが白くなっていく。

 やがて、マッシロルームがゴブリンから生えてきて、ゴブリンが干からびてきた。

 なるほど、これがマッシロルームの攻撃方法なんだ。


 何の知識もないまま戦っていたら、あそこに寝ているのは俺たちだったかもしれない。……マッシロルームの栄養分にはなりたくないな。

 ただマッシロルームは、それ以上の攻撃は仕掛けてこない。マッシロルームを縦斬りすると、魔核とドロップアイテム「マッシュルーム」が転がっていく。


 倒したゴブリンとマッシロルームの魔核とアイテムを回収する。なお、ゴブリンのドロップアイテムは「陳腐な剣」で、実験用に10本ほどだけ回収して捨ててきた。


――△⊿⊿――


 その場所から、空から美夜が偵察してきたので、美夜の案内で先に進む。

 しばらく行くと、太陽がちょうど真上に来る頃、遺跡であろうか石造りの建物と階段が見えてきた。

 その手前には、芝生のような低い草で覆われている広場がある。その広場に足を踏み入れると、……魔物が現れた。


 世界三大珍味魔獣と言われるフォアグラー、キャビアン、トリュフポーク(豚)が一同に会している。特にこの中のフォアグラーはここでしか狩ることができない。この魔窟に来た1つの目的でもある。


 ちょうどお昼時だし、もってこいの食材いや魔物だ。みんなよだれを流している。それを見た魔物たちは少し慄いていた。

 前列にフォアグラー20匹、中列にキャビアンが10匹、一番後ろにトリュフポーク1匹が鎮座している。

 図鑑によるとフォアグラーの容姿は、アヒルやガチョウのような姿だが羽の前に腕があり、ビールジョッキを両腕に持って、なぜかグラサンしている。

 キャビアンは缶詰のような盾と缶詰を切るための刃物がついた槍を持ち、鮫のような凶暴な顔で鋭い歯があり、肌は鮫肌で硬そうだ。足や腕があるので、鮫というよりトカゲに近い印象だ。

 トリュフポークは、豚のようなトリュフではない。トリュフのような形をした豚の魔物だ。ただ、滅多にでない魔物で、その全容は明かされていない。


 このような隊列を組むということは、ある程度知識がある魔物であろう。


 出た!


 今日はクロがやるようである。フォーメーションAから少し間を開けながら横に広がっていき、

「うちら、Lip Magic Generationsにゃ。 略して L・M・G にゃん」といってピッとポーズをとる。私も腕を突き上げ、人差し指を上にあげ、決めポーズをとらされる。何でも1本指を上げるのは、俺らが一番だぞっていう主張らしい。


 トリュフポークの顔がひくついている。

 ……ここで笑えばいいのに、と私は陰ながら思う。……笑われれば、この恥ずかしいポーズも辞めるのではないだろうか?

 このポーズが戦闘開始の合図にでもなったかのように、フォアグラーはジョッキに注がれたビールを飲みながら、攻め込んでくる。ビールを飲んだためか、少しヨタヨタしている。

 我々が得物で応戦すると、ビールジョッキを盾がわりに使い、器用に攻撃を避ける。さすがC級の魔物だ。

 美夜がそれを酔拳と悟り、太極拳で応戦する。


 クロは真似して酔拳で戦っている。なぜかチャイナ服に着替えていた。

 ……クロは着替えが早いなぁ

 なんて思っているとフォアグラーは奥義とばかりに、ジョッキを両手いっぱいに広げコマのように回転しだした。

 ビールらしき液体が飛んできて目に入ると痛い。私が太刀で防ぐとカカカカンとジョッキにぶつかった音がする。


 攻めあぐねていると、薙刀を持った紅々李がフォアグラーの足をスパッと切る。フォアグラーはあらぬ方向に飛んでいき、自滅した。足が弱点のようである。

 弱点が分かれば、あとは簡単だ。

 紅々李の薙刀、日葵の槍、蓮月の蛇腹刀でサクサク倒していく。美夜とクロは修行とばかりに剣も持たずにフォアグラーを倒していった。


 私と瑠璃は後ろで、魔核とドロップアイテム「フォアグラ」を回収だ。

 ビールジョッキに残った液体も研究用に回収する。舐めてみたら、苦かった。

 フォアグラーが10匹程倒されたのを見て、中列のキャビアンが出てきた。

 盾と槍で普通の戦い方をしてくる。私は刀に反射をセットする。キャビアンもC級の魔物である。何をしてくるのか分からない。


 キャビアンに切りかかると、盾で防ぐ。すると、盾から粒状の黒光りした何かが飛び出してきた。それを刀で反射すると、フォアグラーの方に飛んでいって、小爆発を起こした。どうやら爆薬が仕込まれているようだ。

 槍もよく見ると、鋭い切っ先と刃の根元に返しが付いており、一度刺さると抜けない構造のようだ。盾と槍だけに注意していると、鋭い歯で噛み付いてくる。

 私が噛み付かれたのを見て、紅々李が素早くヒールしてくれる。傷口には念のためキズナオールを噴霧しておく。


 盾と槍を躱し、身体に切りつけても堅い鮫肌が致命傷を与えない。だが、刃物は研がれ、より切れ味を増していく。クロがフォアグラーを大方退治してきたところで、こちらの戦列に加わった。クロが素早く「漆黒」を発動する。

 私は紅々李と碧衣に「身体強化」の口づけをする。

 キャビアンは周りが見えなくなり、その場でじっとしている。気配を感じるとその方向に槍を向けてくる。


 身体強化された紅々李は、力を入れ薙刀を刺すと、鮫肌を突き抜いた。同じように碧衣は脇差で鮫肌を削っていく。鮫肌がむき出しになると、私の刀でも突き刺すことができた。


 日葵と瑠璃は魔核とアイテムの回収だ。キャビアンのドロップアイテムは「缶詰のキャビア」これもドロップアイテムなのか分からないが、缶詰切り用の刃物と鮫肌も回収しておく。大体片付いてきたところで、いよいよこの軍隊のボス、トリュフポークが立ち上がった。


 と思ったら、逃げ出した。豚足いや鈍足だったので、逃げられないようにすぐに周囲を取り囲んだ。刀で切りつけるが、黒いダイヤと言われるだけあって、皮膚が硬い。並みの刀だったら折れていたかもしれない。

 しかも、少しでも刀で傷が付くと、紅茶に似た強く高貴な香りが鼻をくすぐる。

 ――だめだ。これも精神攻撃の一種だ。この香りには逆らえなくなる。

 美夜に炎で倒してもらうと楽なのだが、それでは価値がなくなる。


 瑠璃の出番だ。

「瑠璃、水柱で攻撃だ!」

「分かったわ。「水柱!」」……トリュフポークが水の中でもがき苦しむ。

 やはり、トリュフポークは、エラ呼吸器官はないようだ。

 5分もすると動かなくなり、魔核とドロップアイテム「黒トリュフ」と「ロースハム」と「豚足」を残して蒸発してしまった。蒸発というより、水の中だったので多量の水泡となって消えた。


 結局、トリュフポークの本来の攻撃方法は掴めなかったが、我らにそんな余裕はない。お腹がすいたのだ。まずは食欲を満たすのが重要である。


――◆□◆――


 さぁ、お待ちかねの昼食タイムだ。

「缶詰のキャビア」を缶切り用の刃物で開ける。簡単にサクサク開いていく。

 まるでこのために、この刃物があったみたいだ。

 缶の蓋を開けると、中から黒い宝石と言われるキャビアが出てきた。皆で指を突っ込み、その宝石を口の中に入れてみる。

 口の中で爆発するような美味しさだ。本当に爆発していたりして……まぁ痛くはないから大丈夫だな。


 次は、釜戸に鍋を置き、木材に火を点け、水を沸かす。

 その辺の畑でとってきた、馬鈴薯や玉ねぎ、人参を入れ、採りたてのマッシュルームを入れてシチューを作る。そこに黒トリュフを香り付けに少しだけ削って入れる。

*畑なんてどこにあったっけ? とは思わないでほしい。この世界にはどこにでも畑はあるのだ。


 もう一品。ロースハムにフォアグラを乗せ、さらにキャビアを載せる。そこに黒トリュフだ。美夜に軽く火で炙ってもらって完成だ。

 これがフランス料理かどうか、定かでないが、とても美味しく頂いた。

 みんな満足したので、今日はこれで冒険を終了する。


 ロープを伝って(ロープはまた美夜が回収し)、港に戻ると魔物と戦っている御者がいた。ほとんどの魔物は倒されており、手助けはいらないようだ。

 ほとんどが海の魔物だった。戦い終わるのを待って、御者と一緒に船に乗り、サン・モロまで戻る。

 帰路の途中、海から眺める夕日がとても綺麗だ。

 日本海に沈む夕日や茜色の空も同じ色だったように思う。


 サン・モロ市にはギルドパリ支部の支店があるので、支店で今日の収穫を鑑定してもらう。なお、支店は支部ほど大きくはなく、鑑別2箇所と買取窓口と総合窓口が兼用で1箇所のみである。他の施設はない。


 合計:11500P(1人1437P) 369万円


 トリュフは、少し削って使ってしまったので、安くなっている。なお、端数は研究用にとってある。

 それにしても、陳腐な剣が5万円もするとは驚きだ。剣はなまくらでも剣なんだな。明日あそこを通ったら回収しておこう。


 *ギルド会員証メモ欄 9月20日 1437P 累計3337P


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★今日の成果内訳 合計:11500P(1人1437P) 369万円


マッシロルーム D級 魔核100個(1個35P、5千円) マッシュルーム 200個(200円/個) 計7000P  54万円

ゴブリン D級 魔核50個(1個45P、2千円) 陳腐な剣 2個(5万円/個)

 計  2250P 20万円

フォアグラー C級 魔核20個(1個60P、1万円) フォアグラ 15kg(3万円/kg) 1200P 45万円

キャビアン C級 魔核10個(1個75P、5万円) 缶詰のキャビア 8個(20万円/個) 計750P 210万円

トリュフポーク B級 魔核1個(1個300P) トリュフ0.8kg(1kg50万円) 計300P  40万円

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