4 山賊

 今日も同じ御者の馬車で同じ道中を行く。御者とも知り合いになれたので、美夜が助手席に座り話をする。

「この辺は、あまり盗賊とか魔物は出ないのか?」

「ん? 出るよ。 壁の下よりは出ないがな。盗賊なんかは壁登ってくるし、空飛ぶ魔物もいるからな」

「昨日はどうだったんだ?」

「ん。全部やっつけた」

「強いんだな。おっちゃん」

「ん。姉ちゃんほどじゃねえよ。ねえちゃん、龍人族だろ。龍人族相手に喧嘩売るやつなんざ、冒険者でもあんまりいねえな」

「まあな。でも、オレはまだ若いからな。もっと修行しないといけない」

「ん。まあがんばれ」

 なんて、会話をしていたらしいが、中国語が分からない他のメンバーは分からない。


――◇□◇――


 昨日の場所に到着し、馬車を降りる。ここからは、また徒歩だ。

 今日は、フォーメーションH。こんな感じだ。


  クロ         美夜

  瑠璃 ショウ 紅々李 日葵

  碧衣         蓮月


 脇を固め、すぐに丸いフォーメーションOになれる体制だ。

 少し歩いていると、昨日のスライム川の前まで来た。すると、後ろの方から性懲りもなく、山賊が現れた。

「おいお前ら、昨日はよくもやってくれましたねー」

 どうしようこいつら。天然記念動物といってもなぁ。

 と考えていたら、山賊が

「是非、弟子にしてください!!」と、美夜に対して土下座をしてきた。

「うちらのリーダーは、こいつだ」と美夜が私に指を指す。

「えぇ~姉さんが良かったのに」とか後ろの方から聞こえる。

 オレも男とかむさくるしいし、いらねえよ。

 と思っていたら、お頭らしき男が、私に土下座してきた。中国にも土下座ってあるんだろうか?

「リーダーさん。是非弟子にして欲しいのです」と日本語で挨拶してきた。

 日本人なのかな? ちょっと驚き!


 話を聞いてみると、なんでも全員日本から来た冒険者らしい。本当かなと思って、ギルド会員証を見せてもらった。確かに全員持っている。

 ただリーダーはD級だったが、他は幹部級がEで、その他のほとんどがF。

 しかも3ヶ月後に更新するものが大多数で、2年9ヶ月その階級に留まっている者もおり、会員証を剥奪されるようだ。


 だからといって、弟子にして強くしてお金を払ってあげるほどお人好しじゃない。昇格できず、会費も払えないんだったら、潔く冒険者をやめるべきだとも思う。


 ここは適当にごまかそう。

「おれらは、これからあの山に行きたいんだが、このスライムが邪魔なんだ。このスライムの流れを俺らが戻ってくるまで、止めていてくれたら弟子のことを考えんでもない」と無理難題を言ってみた。

 あれだけのスライム、襲ってくるわけじゃないけど何時間も堰き止められるわけがない。


 お頭は少し考えていたが「分かった。やってみる」と言って、スライム川を山賊仲間と堰止めに行った。山賊100人くらいいるだろうか。なんとか堰止めている。

「がんばれよ~」とか言いつつ、堰止めている脇を通っていく。

 今日は、ジャンプしなくてよかったなぁ。まあ帰りまではもたないだろうけど。


 しばらく歩いていくと、昨日の火鼠が襲ってきた。パターンは分かったのでサクサク片付ける。魔核は拾わない。

 袋が余っていたら、帰りにでも拾うか――


 しかし、それが裏目に出る。

 魔核は、他の魔物が食べることで、強度を増すのだそうだ。

(これを知ったのは、馬車の御者に帰りに教わってからのことだ)

 我らが過ぎ去った後で、それを食べている魔物がいた。


 それは、「温泉タマゴン」だった。温泉タマゴンは普段は温泉に浸かって、プカプカ浮いている魔物である。動きも鈍く、殻も割れやすい。

 火鼠は、この温泉タマゴンを外敵から守るため見張っていたのだ。

 なぜって? いずれ、 六百里鑽頭号山のボスが食べるためである。

 火鼠が倒されたことで、近くに隠れていた温泉タマゴンが、火鼠の魔核を食べたことで動きは素早くなり、齧歯も食べたためカルシウムが補充され、殻が丈夫になってしまった。


 温泉タマゴンは、 Lip Magic Generations を飛ぶようなスピードで追いかけた。手も足もないので、飛んでいるんだろう。後ろから来る気配に蓮月が気が付く。

 少しして私もそれに気づく。魔物図鑑に載っていた温泉タマゴンだ! 


 喉が鳴る。……温泉タマゴンはとても美味なのだ。ぜひもって帰らないと。

 皆の目が光る。ただ、気をつけなければいけない。殻を割ってはいけない。


 卵の額にある(額なんてあるのか?と思うが)魔核を、殻を壊さないように慎重に削り取る正確な腕が必要だ。

 温泉タマゴンは黒光りする殻を回転させながら体当りしてくる。

 刃物は持っていない。体当りだけの攻撃だ。

 だが、回転しているのでなかなか正確に魔核に刀を当てられない。お腹に当たると、ボディブローを打たれた感覚だ。それなりに体力を削られる。

 しかもこちらは、殻を壊してはいけないと神経も削られる。


 心身ともに打撃を受ける。なかなかの強敵だ。カニグラタンより強いかも知れない。カニグラタンはあまり気を使う必要はなかった。

 紅々李と一緒にヒールを仲間にかけながらなんとか踏ん張る。


 今回は美夜は黙って見ている。

 下手に美夜が入ると全て台無しにしかねない。少し見ているように指示した。


 瑠璃が思いついたように「温泉!」と叫ぶと、温泉が吹き出し池ができた。

 それを見た温泉タマゴンは、反射的にハッと我に返り温泉に入って寛いでいる。

「瑠璃! よくやった!」瑠璃はドヤ顔をしていた。

 そこを2人1組で、一人が温泉タマゴンを羽交い締めにし、もう一人が短刀ですばやく魔核を刮ぎ落とした。


――●○●――


 魔核を失った温泉タマゴンを、お腹も空いていたし、1つ食べてみることにした。

 殻はかなり丈夫で、魔核を取り除いた穴から刀を入れ、テコの原理で上部だけ割ると、中は半熟で、黄身も壊れず残っていた。

 それぞれ、リュックに入っていたスプーンを取り出し食べてみる。

「う! 美味い!」なんだ、この円やかで奥深い味は――

 あの中華屋で食べたピータンより美味しいかも知れない(ピータンはあまり好きじゃないが)。みんな貪るように食べた。結局1人1個食べてしまった。


 リュックには残った温泉タマゴンを各自2個入れて持ち帰ることにした。

 今日はここまでだ。心身ともに疲れた。でも胃はとても満足している。帰ろう。

 帰路に着くと、またスライム川に遮られる。

 スライム川はなんと二つに分岐し、中に洲が出来ていた。


 その中洲では、あの山賊がその川を堰止めようと踏ん張っていた。

 すっかり忘れてたぞ……どうしよう。。。

 あまりいい加減なことは言うもんじゃないな。この場合どうなるんだろう?

 堰止めていたといえば、堰止めていたけど、スライムはただ二つに分かれてまた元のように戻ったに過ぎない。川の流れは止まっていない。

 しかも私たちは川を2回もジャンプしなければならない。……大したことないけど。


 ここは、半分は山賊の功もみてあげなければいけないところかもしれない。

 皆と相談し、山賊といえどもまだ冒険者なんだし、とりあえず山賊を連れてギルド会館に行くことにした。


――◇□◇――


 山賊には馬車はないから、当然走ってもらう。

「ついてこれなかったら、弟子にしない」と言うと、山賊はお腹もすいているだろうに、必死でついてきた。たぶん馬車で1時間ほどの距離だから20~30kmはあると思う。さすがに馬のスピードではキツイだろうから、人が走るスピードに落とすよう御者に頼んだ。

 それでも何がそうさせるのか分からないが、脱落者はいなかった。冒険者をやっているだけあって、体力だけはあるのかもしれない。


 だからと言って、弟子とか部下にするのは私のポリシーが許さない。

 せっかく美女に囲まれて旅してるのに……まぁそれでもせっかくここまで来たんだし、とても臭くなっている身体を洗ってもらおう。

 ギルド会館の温泉施設に行ってもらう。

 たぶん今日の温泉客はもう入れないだろうな。長年お風呂には入っていなかったみたいだし、お湯もかなり汚れるだろう。


 その間に、私たちはギルド会館の鑑定窓口に向かった。温泉タマゴンとその魔核を鑑定してもらったら、なんとドロップアイテム「温泉タマゴン(そのもの)」が1個20万円で魔核は1万円だった。

 全部でアイテムは16個、魔核は24個あったので、344万円である。

 魔核のポイントはD級で1個25P 全部で400P 1人50P 累計で703Pだ。


 しばらくして、温泉から上がってきた、山賊を見て驚いた。肌が綺麗になっていることもあるのだろうが、見違えた。


「お頭さんは、髪も長いし、女みたいだな?」

「え。女だよ」 あまり美人ではないが、純朴な顔をしている。

 よく見ると、その他の山賊も半数が女性で、半数が男性だった。

 馬子にも衣装というか、洗えば山賊には見えない。衣装はボロボロだが。


「お頭さんは、名前は?」

胡桃くるみ、山藤 胡桃 です」

「日本から来て、どうして山賊なんてやってるの?」


 これまでの経過を聞かされた。

「実は、私たち落ちこぼれなんです。普通だと20歳までに剣の腕前は上級になるじゃないですか。私たちは中級がほとんどで、初級も何人かいます。落ちこぼれ同士が、集まって冒険者になればなんとかなるかなって……日本だと、ほとんど上級だから私たちのいる場所なんてないんです。気後れしちゃうしね」

 まぁ日本では教育制度がしっかりしているし、冒険者でなくても腕はほとんどが上級だ。


「それで、中国になけなしのお金を使って渡って来たんだけど、ギルド会館に来たら言葉は分からないし、掲示板見てもチンプンカンプン。通訳雇うお金もないし、まあ冒険者なったんだし、魔物狩りでもしようって話になって北京の外に出たんです。そしたら、最初に来てた(後ろの仲間を指し)山賊に、襲われたんです」

 確かに言葉が分からないと、活動するのは厳しいな。


「でも、私たちは10人だったんですが、代表選にして何とか私は勝ったんです。それで、最初に来てた山賊の話を聞くと、私たちと同じような境遇で……。うまく、魔物を倒せる自信もなかったんで、一緒に狩りをすることにしたんです。その後にも、同じような境遇の人が来て、いつのまにかこんな大所帯になってしまったんです」

 落ちこぼれが集まったって感じか――少しは同情するけど――


「それで、あなた方を見かけて、同じような境遇かなって思って、 若くて弱そうだし、声掛けたら……あなた方は、得物も使わずに私たち山賊を倒してしまったんです」

 同じような境遇で声をかけたにしては、本当の山賊のようだったぞ。

 それに中国語で話しかけてきたし……

「中国語話していたし、中国語分かるんじゃないのか?」

「それは、チャイナ服着てたし、もしかしたら中国人かなって。もうここに来て2年になるし、片言なら中国語は話せるかな。でも全く、読むことはできない。漢字だから、何となく分かるんだけどさ。何とか今まで冒険者で細々やってきたんだけど、あと3ヶ月で昇格しないと、冒険者も廃業になってしまうんですぅ。山賊だけでは、いつ冒険者が通りかかるか分からないし、やっていけません。お願いです。ぜひ私たちのボスになってください」

 困ったな。事情は分かったけど、こんなに大勢仲間にするとかできないぞ。


「鵜呑みにするわけにはいかないが、だいたいの事情は分かった。でも我々も冒険者の駆け出しに過ぎない。弟子をとるとか、そんなレベルじゃないけど、同郷だし……少しくらいのアドバイスはできるかもしれない。少し、仲間で相談するから、飯でも食べて待っててくれないか。今日の飯代はおごるよ。3時間後またここで会おう」


――◇●□――


 3時間 Lip Magic Generations のメンバーで話し合い、結論を出した。

 山賊たちは、期待と不安の目で見ている。

「まず、君たちを弟子にすることはできない」……えぇ~と残念がる声が聞こえる。

「そして、山賊業は辞めてもらう」……なんで~と声が聞こえる。

「ただし、一週間だけお前らの教育・修行をしてやる」……1週間で何ができるって声が聞こえる。

「この条件が飲めなければ、ここからすぐ帰ってくれ」


 山賊たちは、喧々諤々と話し合いを始めた。

「分かりました。全て受け入れます。よろしくお願いします!」と山賊たちから頭を下げられた。どうせこのままだと、廃業するしかないし、とにかく教えてもらおうということになったらしい。


 ギルド会館には、会議室、研修室がある。ギルドの目的③は冒険者の治療及び教育と育成である。この山賊の冒険者を教育するという目的で、研修室を1週間借りることができた。


 午前中は、美夜が中国語の教育を行った。ついでにL・M・Gのメンバーも教わる。

 午後は、8班に分かれて、剣術の練習だ。全員上級だし、教え方は慣れている。

 教育とは、教え教えられ育てるもので、教え方が上手く、教わる方も意識が違えば(土壇場になれば)身の入り方が違う。

 1週間という短期間であればこそ集中でき、みるみる身についていった。…ことにする。

 1週間もたつと、簡単な中国語の読み書き、会話ができるようになった。

 剣術も上級まではまだまだだが、弱い魔物であればなんなく倒せるであろう。


 今までは、弱い魔物でも100人の総がかりで、1日2~3匹だったそうである。胡桃たち山賊は、山賊業を廃業し、冒険者を本格的に始める決心がついたようだ。

 明日は、いよいよ本番だ。私たちの後をついて来て、魔物を倒してみるようだ。

 本当はあまり付いてきて欲しくないんだけどね。

 ……まあ火鼠ぐらいまでだったらいいかな……

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