12 子供

(1)薬草採取


 合宿はお化け大会だけではない。合宿なので、午前中は剣道のお稽古をする。午後は夕食まで自由時間だ。

 私はというと、山の中で薬草を採取をしている。


 この森の中や、幽霊屋敷の庭に、以前温室だっただろう場所に、珍しい薬草や毒草が生えている。きのこも薬に使えることがあるが見分け方が難しい。もう少し慣れないとダメだ。きのこの毒はかなり致死的だからだ。


 今日は、紅々李と日葵が一緒だ。先生にはあまり遠くに行かないように注意されていたが、薬草採取に夢中になり、少し山奥に来てしまった。でも迷わないように木に目印だけはつけている。

 すると、犬族の日葵が、何かを感じ取ったようだ。

――なにか、嫌なものが来る気配がすると――


 数分すると、影のような魔物が現れた。魔物学で習った「シャドウ」だ。

 皆、腰に差していた木刀を手に取る。

(薙刀や槍は持ち運びには向かないので、稽古場に置いてある)


 シャドウが爪を立てて襲ってくる。紅々李はなんとか避けたが、日葵が切られた。

 深い傷ではないが、腕から出血している。私は、薬草で作ったキズナオールを紅々李に手渡す。紅々李が日葵の手当にまわり、私が攻撃を仕掛けることにした。

 シャドウに木刀で斬りかかる。が、素通りした。

 シャドウが鋭い爪でさらに襲ってくる。木刀で攻撃を滑らせなんとか回避する。


 ガキッ! ……シャドウの爪が木に当たり、木の幹に鋭い爪痕が残されている。


 よし。浄化の剣だ。私は浄化のイメージをし、刀の峯に口をつける。

 紫紺の炎が燃え上がった。

 シャドウが襲いかかって来たので、爪を掻い潜りながら切った。

 

 ……つもりだったが、また素通りした。――なぜ? 魔物は浄化できないのか?

 シャドウは、黒い息を噴いた。浄化の剣で受ける。

 だめか? ――切れた!――ん? なぜ?


 考えている余裕はない。よし、次は反射の剣だ。

 反射のイメージをしながら、口づけをする。

 !……オーー。ちょっとビックリ!


 なんと紫紺と紅色の炎が蜷局を巻くように燃え上がっている。

 こんなこともできるのかぁ

 そう思っているところにシャドウが黒い息を噴いて襲いかかってくる。


「エイ!!」


 紫紺と紅色の炎が燃え上がっている木刀で切ると、黒い息は跳ね返り、なんとシャドウは黒い息に巻き込まれるように収縮し消えた。

 後には小さな魔石(魔核)が落ちていたので、拾っておいた。初めて知り合い以外との戦いだったが、切り抜けたようだ。


 紅々李も日葵をうまく手当してくれたみたいだ。(後で分かったことだが、キズナオールも少しは効いたみたいだが、実は紅々李は「ヒール」のスキルを持っており、こっそり傷の回復をしていた)


 こんなエピソードがあったが、先生に怒られると思い、3人の秘密にした。

 温泉宿に帰る途中、父から念波が届いた。


「子供が生まれそうだ。すぐ戻ってこい」



(2) 子供


 先生に、実家で子供が生まれることを話し、家に戻ることになった。この世界では、子供はとても重要で親はもちろんのこと子供も出産に立ち会うことになっている。


 家に帰ると、母が産気づいていた。……妹かな? 弟かな?


 この世界には、子供制度がある。

 この世界に人間などの種族は、1人につき1人だけ適齢期(種族によって違うが人族の場合、15~45歳)の間に子供を設けなければいけない。


 1人だけというのが重要で、人間も増えすぎても減りすぎてもいけないからだ。一番の問題は、水と食料は、無尽蔵にあるわけではなく、人が増えすぎて食料となる獣や魚を獲りすぎれば、その種が失われることもある。資源も同じだ。


 1人1人だけなので、夫婦になれば2人子供を作らなければいけない。一夫多妻(一妻多夫)であれば、その人数分である。藩主もある意味大変なわけだ。

 独身でも例外は認められず、子供は1人設けなくてはいけないことから、この世界ではシングルマザー、シングルファザーも多い。


 病気や障害があって子供が産めない、作れない場合もあるが、その場合は子供を作れる夫婦と契約を結び1人産んでもらう。その生まれた子供は成人するまで生みの親と過ごす事になっており、家業の手伝いは依頼人の元で行う。

 それまでの養育費は、依頼人が払うことになっている。


 成人後は基本的には、依頼人が引き取るが、成人すれば家を出てもいいことになっているので、依頼人とその子供の話し合いで決める。


 以上が正式なケースだが、裏取引もある。

 養育費(通常日本円で1000万円程度)も払えない人もいるであろう。

 例えばある種族では、種族を増やしたい場合に、養育費を払えない人族などと契約し、養育費を肩代わりした上で3人、4人とその種族を増やすことがある。


 それでは適齢期間中に子供を設けなかったら、どうなるか? 

 多大な罰金(1億円)を払う。払えない場合は懲役刑だ。子供を設けられないというのは、その国の力を損なうものであり、それだけ重い罪なのだそうだ。


 例外もあり、子供が病気や戦争等で亡くなってしまった場合である。

 子供が亡くなる前に、その子供が1人子供(親からすると孫)を設けていれば問題ない。適齢期の間に、孫のいない子供が亡くなった場合は、もうひとり子供を設けなければいけないが、その場合の養育費は国が全て負担する。


 問題は適齢期を過ぎてしまっていた場合だ。その場合は、国に届出を行い、国の施設である「子供育成院」が子供を作る仕事をする。これも立派な仕事である。

 子供が誤ってできてしまい、1人の親で2人・3人になってしまったら……


 勝手に増やすことも罪である。子供を殺めるなんてそんなことはできない。といって、黙って育てることも重大な犯罪である。もし、バレたら子供ではなく、親が罰金(1億円)を払うか、懲役刑となる。子供は、子供育成院に送られ、人口調整に利用される。

 ただ、通常はこれも裏取引により、子どもを作りたくない人などが活用される事が多いようだ。その依頼により子供を作ったことにするのだ。


 人口流通により人の増減がある場合も、子供育成院の仕事である。他の国の人と結婚し、人が流入流出する場合もあるが、冒険や長期旅行などで他の国に行ったり来たりすることもある。


 冒険者の場合は特別職で、多大な利益をもたらす事があるため、子供制度は適用されない。冒険しながら子どもを育てるのは無理があるためで、その場合も子供育成院が面倒を見る。しかし、適用されないため子供をたくさん生んでも罰せられない。この場合の人口調整も子供育成院が行う。子供が仮に増えすぎれば、公募で子供を産みたくない人を募集する。


 冒険者の情報(生死)は、ギルドから出身地の子供育成院に逐次連絡される。これを利用して、仕事をしない人がギルドに登録し冒険者になることもある。


 ただし、冒険者に登録されてから最低ランクのFランク(上からS、A、B、C、D、E、Fの7段階にランク付けされる。)からCランクへ各クラス3年以内で昇格しないと、冒険者資格は剥奪される。(FからEへ3年以内、EからDへ3年以内、DからCへ3年以内)


 最後に無垢な子供について、補足しておこう。

 子供制度とは関係ないが、無垢な子供は前世の記憶もなく迫害されるのではないかと思っている方もいるかもしれない。この世界では逆で、無垢な子供はとても貴重で、むしろ大事に育てられる。


 それは、無垢の子供の方が家業を継いでくれる割合がとても高いからだ。前世の記憶もないため、他の職業には、なかなか手が出せないこともあり、無垢の子供は後を継いでもらうため家業について詳しく教わる。結果、家業を継ぎ、親の面倒を見ることになる。



 ――あっ、子供が生まれたようだ。珠のようなかわいい、妹の誕生である。


「お父さん、お母さん、お兄さん、おはよう!」

 生まれてすぐのまともな挨拶だ。……転生者のようだ。


「以前の名前はなんだったんだ?」父が生まれてすぐの娘に聞く。

「はい、ルリです。」 父は少し考え告げた。

「よし、じゃお前を 『立花 瑠璃』 と名付ける」

 父は筆を持ち、漢字で書いて見せた。


 瑠璃はこの世界の同じ日本の転生者らしい。ほとんどの記憶が残っている。

 まだスキルは発現していない。

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