初7日目 (異世界)

 講義室ではない、豪奢な部屋へ案内やじるしにされ、不思議な模様の入った銀色の扉を開けると


 いきなりキスされた。 ――メガネ天使!!

 だったが、別に嫌じゃなかった、というより気持ちが良かったのでされるがままにキスをした。


 なんかこの感じ、どこかで味わったことがあるような???

「プハァ……久しぶりの接吻だったわ。どう、思い出した? って思い出せないわよね。記憶消されてるんだから」

 メガネ天使は、今までの講義での口調とは違った感じで、私に話しかけてきた。


「あな……たは、天使見習いのアンさんですよね? 以前どこかでお会いしましたか? 少し、教えて欲しいことがあるんですが」


 もう分かってると言わんばかりにメガネ天使が答える。

「ん~ あまり話してはダメなんだけど、ショウはたぶん異世界に行っちゃうし、教えてあげるね。

 ショウくんはなぜ死んだと思う? それは封印された夢を見たから」

 あの時の胸の痛みは、そういうことだったのか。禁忌を犯したということなんだろうか?


「あなたは前前前世で異世界の天使だったのよ。でも、魔神様の怒りを買って、堕天使になっちゃったの」

 何したんだ、オレ?


「さらに、龍神世界に飛ばされたのね。でも龍神世界でも悪さしちゃって、龍神世界に悪影響が出るからって、記憶を封印できる異世界の神、つまり人神世界の創造神と契約してこの世界に送られたの」


「堕天使になるって、何悪いことしたの? オレ」

「それは、言えないわ。私もここまで話すのが限界かな。私も天使だったんだけど、共犯とするには罪が軽かったようで、こっちの世界に送られて天使見習いに降格させられたの。

 ショウは、こっちの世界では転生して九尾の狐になったんだよ。虫にされなくて良かったわよね。人神は普通のきつねにしたかったみたいだけど、あまりに前世での能力が高すぎて魔力を持った狐になっちゃったみたい。狐の時には天寿を全うして、A組に入ったんだけど、「平凡な人生送りたい」とか言って人族に転生しちゃったの」

 まぁ確かに平凡な人生だったな。


「A組の人の願いは、ほとんど希望が通るからね。異世界に行きたいなんて、こっちでの生活は飽きたのかな? 私も付いていきたいけど、まだ修業中の身だからねぇ。天使になったら行ってみるよ。

 浮気はしないようにね。って無理だと思うけど。アハハ」


 なんか聞きたいことはほとんど話してくれて助かった。

 聞く手間が省けたけど、アンとはそういう関係だったんだ。でも夢の相手とも違うぞ。


「アン、どうもありがとう。じゃ行ってくるよ」

 天使見習いのアンは笑顔で首頷くと、次の扉を開けてくれた。


 ――◆◆◇◇――


 その部屋に入っていくと、すでに7人がいて、アンとは違う男性の天使が待っていた。

 まだ異世界を希望する者がいるようで、数分待っていたら、クロが入ってきた。


 クロが入ってきたところで、天使が口を開いた。

「ここは、異世界の鏡の間だ。聞いていたとは思うが、必ず行けるとは限らない。 異世界の神が拒否すれば、その鏡に入ることはできない。その場合は、守護霊となる。わかったな」

 講義で聞いていたとおりだ。自分の子供の守護霊となるならそれもいいだろう。


「なお、異世界に入ってから、どのように転生するかは、向こう任せだ。幸運を祈る」

 天使に「幸運を祈る」とか言われると、ご利益がありそうだ。

 異世界への鏡に、入ってきた順番に手を触れていく。私は8番目だ。


 鏡は、自分を映すでもなく、こちらも向こうの景色も見えない。

 ただただ、漆黒だ。


 最初のひとり

 ――数分間手を触れていたが、反応はない・・・拒絶されたようだ。


 2番目

 ――手を触れると肘まで入っていく。

 ・・・・・・しかし、押し戻され、手を触れたときの状態になった。・・・・・・彼も拒絶されたのだろう。


 3番目、4番目も1番目と同じように拒絶されていく。


 5番目は私が踏んでしまった殿様カエルだ。

 ――カエルが手を触れると、鏡の中に顔まで入り、――暫くその状態のまま数分

 シュッと全ての体が鏡の中に消えていった。


 カエルが鏡に吸い込まれた後、鏡から手が出てきた。

 天使がその手をとり、目を瞑った。

 さらにその手を引っ張り、女性の頭も鏡の中から現れた。

 天使が眉間に人差し指を当てて、頷くとその女性は鏡から出てきた。

 あまりこちらでは見ない、ぼろ雑巾のような服装をしている。

 でも、どこか気品のあるしっかりとした顔立ちだ。


「こんにちは。異世界に来れたんですね! よろしくお願いします」

 と天使に向かって挨拶している。


「ようこそ。いろいろ手続きがありますので、こちらの部屋でお待ちください」

 天使は笑顔で挨拶し、別の部屋に案内していった。


 6番目と7番目は反応がなかった。


 いよいよ私の番だ。

 鏡にゆっくりと手を触れる。

 ……手から肘まで吸い込まれていき、一旦停止した。

 30秒ほどその状態が続き、手が引っ張られるような感覚の後、頭が鏡の奥に吸い込まれる。

 瞬きしていると、さっきの女性と同じように眉間に人差し指を置かれた。

 目の前には日本刀を脇に挿した女の天使がいる。

 その天使は、頷くと手を引っ張り、鏡の中の世界に迎えられた。


 ――無事に異世界に来れたようである。

「よ、よろしくお願いします。ショウといいます」と軽く天使に挨拶をした。


 女性の天使は、生真面目な顔で、

「よくいらした。歓迎する」と会釈し、私は別室に案内された。


 そこには、さきほどの殿様カエル、もとい、丁髷の殿様がいた。

「拙者は、先の日本で●▼の城主だったんだが、裏切りにあってのう。死んでから異世界を転々としたんだが、前世でカエルになってしまった。

 カエルになったときは、もう終わりかなと思ったが、カエルをまとめて他国から来た外来種を駆逐することに成功したんじゃ。天命を全うし、天界に来たらB組になっておった。また奇跡を起こしたいと思って、異世界を希望したんじゃが、成功したようじゃ。

 お主も異世界にこれて良かったのう。お主はどういった経歴をお持ちじゃ?」


 と言われたが、あまり誇れるものはない。正直に話した。

「平凡なサラリーマンです。前前前世は堕天使だったようですが……」

「堕天使とは、面妖な――面白い経歴じゃのう」

 「九尾の狐」の方が面妖だなと思っていたら

 扉が開き、猫耳をした愛嬌のある女性が入ってきた。


「クロです。よろしくにゃん」


 ――あの黒猫だった!――

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