その後の話



 フィンセント騎士学校 校舎内

 元生徒会長……であるはずの生徒会長クレイは卒業生だ。

 だが、今もまだこの学校に居座っているらしい。

 何の目的があるのか分からないが、一説では適切な次の生徒会長が見つからなかったからとか言われている。


 現在進行形で噂になっているそんな生徒会長の部屋に向かう間、ニオがずっと怒っていた。


「それにしても、生徒会長も生徒会長! 呼び出すなんてステラちゃんより、相手の方の言い分信じたの!? もうっ、ライド君から何とか言ってやって! ステラちゃんは何も悪くないのに」

「いやぁ、仕方ないんじゃないのニオちゃん、剣士ちゃんってほら春休みあたりにも相当やらかしちゃってるでしょ? 温泉さらに掘ったり、覗き魔退治したり、窃盗犯叩きのめしたり」


 怒り心頭と言ったニオを、宥める様に冷静な声で問いかけるライドだ。

 効果はあったようだが、意図せぬでダメージがこちらに来た。


「あー。そういえば、学校に潜伏していた指名手配犯も捕まえてたね。ごめんねステラちゃん、ニオちょっと何も言えなくなっちゃうかも」

「ステラって、あれだよな。何気に大変な人生おくってるよな」


 簡単に擁護を諦めないで。

 でも、それらの全てが事実であるから反論が難しい。

 同情気味に呟く皆の声にちょっと申し訳ない思いを抱いた。


 そんな話をしながらも、校舎の中を進み、廊下を歩く。

 たどりついた生徒会室の扉を開けると、なぜか先生がいて、生徒会長と話している様だった。


 いつも通りのやる気無さそうな態度だが、手に書類のようなものを持っているという事は、仕事をしていたのだろう。あまり想像できないが。


「あれ? 先生どうしたんですか、こんな所で」

「俺は教師だぞ、校内のどっかに出没しててもおかしくないだろうが」


 確かにそうだが、何か騒動が起こるたびに定期的に呼び出されるようになった私は、まだ一度も見た事が無い。


 そんな私に先生は言う。


「イグニス……じゃねぇ、グレイアンの処遇について色々な。まあこっちの要件はもう終わりだ」


 王宮での事件は、世間一般の間では表ざたにはならなかったが、さすがに要人たちの目を誤魔化す事ができなかったらしい。

 そのため、イグニスは、王族の身分をはく奪されてしまったようなのだ。


 彼は今、仮の名前を名乗りながら、王都のどこかで監視を受けながら暮らしているらしいが……。


「お前の両親達も面倒くせぇ奴だな。各地に点在してやがるくせに、こういう時は……まあ、いいか」

「え、お母様達がこの町に来ているんですか?」

「言わねぇ」


 口をつぐんでしまった先生は通常営業で意地悪だった。


 しかしなぜその話を生徒会長とする必要があるのだろう。

 とりあえず、私の両親と話し合ったことだけは確実そうだ。


 子だくさんが特徴である王家は、大人の事情で各地の要人と独自のつながりがあり、その接点を活かして色々家族構成が複雑になりやすいのだが、王位の継承や身内の葬式などの大きな出来事の時には、王都に大勢集まって来る。


「ステラちゃんの家庭事情って、あいかわらず複雑そうだよね」

「それに比べて俺達のところは、単純で泣けてくるわな」

「ライド君と同意見は嫌だけど、ちょっと同感」


 ニオがこちらの様子をみて小声で何かを言っていれば、ライドがやれやれと首をすくめるしぐさ。

 その後、訳を知っている様な態度の彼は、会長と話し始めてしまう。


「にーさまも大変な」

「黙れ駄犬、ここでその話題は出すなと言っただろう。小数点以下の可能性の女に振り回されている貴様に言われる筋合いではない」

「言ってくれちゃって。へいへい、分かってますよーっと。追加で色々別口つかって今回も調べてきたんだから、ちゃんと労働時間分の報酬払えよな」


 私には分からない話が始まって終わったところで、この部屋の主……生徒会長はようやくこちらへと視線を向けて来た。


 そして、その目を細める。


「ずいぶん大勢連れてきたな」


 呼び出されたのは私だけだ。

 確かに大勢すぎたかもしれない。

 振り向くとむっとした顔が二つと、特に何とでも思ってない顔が一つ。


 呼び出しの理由を考えると、皆とくる必要はなかったかもしれないが、流れでなんとなく。


「だが、まあ……いい。それがお前の選択なら」


 クレイは、わずかに口の端を吊り上げて、かろうじて笑顔とも呼べない事もない表情を作ったがすぐに消してしまう。

 今のは少し珍しかった。

 最近は接する機会が多くなってきた人だが、できる生徒会長という仮面を外す事がめったにないのだ。


 そんな彼はさきほど起こしたステラの行動に対してではない話を口にして、本題に入った。


「生徒会に入れ。ステラード・リィンレイシア。三年生になってからが忙しくなるぞ」

「え?」

「交換制度も推薦しておいた、他国に行く準備をしておくように」

「……え?」

「準騎士の試験も予約してある、筆記の問題集なら図書室にあるだろう。早めに借りておけ」

「……えっと」


 その大変なイベントのオンパレードは一体?

 あっけにとられている私に気が付いていないのか、生徒会長はこちらに構わず続けて来た。


「呆けるな、やる事は山ほどあるぞ。この学校の地下に隠し施設が見つかった、犯罪者の根城にされている可能性があるため、早急に調査しなければならないだろう」

「ちょ、ちょっと待って」

「他の人間に引き継ぐのは不安があったが、貴様が使い物になるならそれに越した事はない」


 待ってと言ったのに。この人ぜんぜん話を聞いてくれない。


 確かにさっき、色々巻き込まれるこの体質もそんなに嫌いじゃない風にも思ったけれど、何もこんなに連続して効果を発揮しなくても。


 視界の隅で、ニオがしたり顔で「この流れは、あれだね」なんて何か言ってる。


「――これは、フラグ回収!」

「それな」


 ライドも同意してないで。他人事だと思って……。


「はぁ」

「元気だしてくれよ、ステラ。大丈夫だ、俺も協力するから。ていうか頼まれなくても、首突っ込むから」

「ありがとうツェルト。でも、頼んでない時は大人しくしててね。剣で斬っちゃったら大変だもの」

「斬っちゃう!? ステラの想像の中で俺どんな事になってるんだ!」


 とりあえず、味方になってくれるツェルトに礼を言いつつも、調子に乗り過ぎないように釘をさして、心の中で二度目のため息をついた。


 やっぱりこの体質ちょっと嫌かもしれない。



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王女様は狂剣士 乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに気付いたら、すでにヒロインにざまぁされてました。その上、現在進行形で命狙われてます 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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