第34章 元王女様は大罪人殺し?



 王宮 地下


 イグニスの事はツェルトに任せて、ステラは……私は先生達の姿を探した。

 ニオ達が工夫して私達にだけ分かる目印をつけてくれたので、それを辿って行けば辿り着けた。

 そこは王宮の地下だった。


 予想外に近い場所で、ほっとしたが、いつまでも安堵してはいられなかった。


 その場所には、レットが言っていたような影が蠢いていたからだ。

 つい先ほど王宮のテラスで話が終わった後に、色々その当時の事を先生から聞いたし、敵として戦う事があるかもしれないとは思っていたが、まさか本当にそうなるとは。


 のっぺりとした人の形をした影は、緩慢な動きでニオ達に詰め寄ろうとしている。


 だが、直感で分かった。

 あれに効くのは、精霊の力だと本能的に判断していた。


 力を望んだ瞬間に、手の中に星のように煌めく光の剣が出現する。


「――やぁっ!」


 それで、試しに振ってみると……。


 直線上にいた影たちが一瞬に消えて行ってしまった。

 影がほどけるようになって、眩しい光に変わったとたんに、宙にとけて消えていく。


「え、えぇぇぇぇー!」


 割と苦戦していたらしいニオが驚いてこちらを見る。


「ステラちゃん! 影殺し!」


 そして、そんなあだ名をつけて来た。

 今までの物と違って具体的なイメージが湧きづらいのが救いで、何も知らない人が聞いたら何の事だか分からないだろう。


 そんな事を考えている場合ではない。

 とりあえず、自分の力が使える事は実証された。

 私は襲い来る影たちに斬り込んで行きながらニオ達をフォローする。


 部屋に着た時は結構な数がいたのだが、剣を振る度に瞬く間に光になって、消えていく。


 その光景は何だがとっても……。

 そう私達が思ったような事をライドがポツリと呟いた。


「これ、あれな。成仏してるとかそういう感じ?」

  

 やめて、幽霊みたいとか考えたら怖くて剣が振れなくなるから。

 ともかく、これでニオ達の方を片付けるメドはついた。

 問題は先生の方だ。


 視線を向ければ、そこには激しい剣のやりとり。

 戦いはすでに佳境に入っているようだった。

 とても横から割って入れるような空気ではない。


 手助けなど必要が無かったのかもしれない。


 そして、ほどなくして……。


「はぁ……」

 

 疲労を滲ませるため息と共に、剣を降ろすその人は、幼い頃に私を助けてくれた人の方だ。


 決着がついて、相手の方が倒れた。

 先生が勝ったのだ。


 追いかけてばかりで、最近はようやくちょっと肩を並べられるくらいになったと思ったのだが。

 まだまだ本格的に追い越すのは当分先になりそうだ。

 それは嬉しくもあり同時に悔しくもある。


 そう考えながら、私は声をかけるのだが。


「先生……」


 先生が振り返って、こちらに気がつき口を開くのだが……。


「……勝った気に」


 しかし、その背後に、起き上がったフェイトの姿。


「――なるな!」


 無防備な、背中を切りつけられるその一撃は致命傷になるのか、どうか分からない。

 だけど、たとえ先生が自力でどうにかできても、大切な人が害されるかもしれない光景を、黙って見届けられるほど、諦めが良くはないから。

 先生が剣を振ろうとする前に私は駆けた。


 剣を振り上げるフェイトを視界に入れながら、私は強く願った。

 

 早く、早く。もっと早く。

 夜空を駆ける流星のように。


「――ステラード、こっから先はお前らの時代だ」


 自分以外の全ての時間がゆっくりと流れていくのを感じながら、私は光の煌めきを話すその剣を振りかぶり、フェイトを斬りつけた。 






 真っ黒な影となって、その場で消え去っていく人だった何か。

 灰の様になってさらさらとこぼれ落ちていくそれは、床に落ちるまでもない。あっけなく、影も形も残さずに消滅していった。


 本当の本当にフェイトを倒した後。

 そしてニオ達の影も何とかした後。

 私は、とても先生に怒っていた。

 原因は、フェイトとの戦闘中の怠けだ。


 最後、背中があぶなかったというのに、先生は私に言葉をかけてきた。

 つまり、気づいていてわざと何もしなかったのだ。

 なんて心臓に悪い人だろう。

 陰険だ。意地悪だ。性悪だ。


「気づいてたのなら、自分で何とかしようとしてください。私が間に合わなかったらどうするんですか!」

「うるせぇな、良いじゃねぇか、お前は間に合ったんだし。俺だってエルルカに確認したんだぞ。そっちが何も言わなかったし」

「ステラが間に合うって、見えた……から」


 エルルカにそれを言わせるのは卑怯だ。

 私は何も言えなくなって、口をつぐみざるをえない。

 とにかく、先生にはお説教だが、彼女には「ありがとう」だ。


「先生を助けてくれてありがとう。アリアとの戦いの時も、すごく助かったわ。エルルカは、勇者を二人も助けてくれたのよ」

「私、は……」


 エルルカは躊躇いがちだけれど、ほんのわずかに、小さく頷いてくれた。

 今まで彼女がどんな風に過ごしてきたのか分からない、どんな辛い目にあってきたのかも。

 でも、今日の経験はかならず彼女の力となってくれるだろう。


 勇者を助けられる人なんて、きっとなかなか他にはいないのだから。


 同じ事をニオ達も思ったようで、そうフォローしてくれる。


「そうそう、エルルカちゃんはどーんと胸を張ってればいいんだよ。すっごい事なんだから!」

「ま、俺達の中の誰が欠けてもこの瞬間はなかったって事で良いんじゃないの? 大円団ってわけな」

「ライド君にしては良い事言うね。そうやって落ち着くにしては、ニオ達ただの囮っぽかったけど」

「それな。美味しいとこは、先生と剣士ちゃんが持ってちゃったし。これ、脇役の出る間がないみたいね」


 とりあえず落ち着いたなら、勇者様達やツェルトの状況を見に行かなければ。

 おそらく大丈夫だと思うし、心配もそれほどしていないが、怪我をしているなら手当てが必要だろう。


 私の大切な人達が誰も怪我をせずにすんだ。

 誰がかけても不思議ではなかったのに、全員揃って明日を迎えられる。


 とにかく、それだけのことが今は嬉しい。


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