第32章 最終決戦



 王宮 地下


 ツヴァイは……俺達は、ステラ達をあの場に置いてフェイトを追いかけて来た。

 奴が逃げ込んだのは、王宮の地下だ。


 どういう目論見か知らないが、そこは例の夢の件で訪れた場所と全く同じ場所だった。


 陰惨で陰鬱な性格をしている奴にふさわしい場所だとも言えるが、そこまで性格が陰険してない人間にはあまり立ち入りたくはない場所だった。


 フェイト・アウロラシェード・ストレイド。

 俺が、俺の為だけ生きていたらとっくに諦めていた相手だ。

 世話も手間もかかる弟子の為にも、他の連中の為にも、ここで決着をつける。


 奴は、奥まで行くと振り返って立ち止まった。

 逃げるのは止めにしたらしい。


 さびた鉄格子が並んでいる気味の悪い場所、埃が積もっていて、何年も人が立ち入った様子はない。

 けれど、通路だけは綺麗であることから、フェイト一人だけは根城にでもするために、定期的に足を運んでいたのだろう。


 誘い込まれたかもしれない。

 部屋の明かりは、すでに付いていた。

 室内灯が、ちかちかと点滅して目に毒だ。

 まるで待ち構えていたかのようだな。


 だか、奴のホームだろうとそうじゃなかろうと、どちらにしても追いかける以外の選択肢は存在しなかった。


 俺は剣を抜きながら、フェイトに話しかける。

 まともに奴と会話できると思えないし、会話なんてしたくなどなかったが。


 ずいぶん前、それこそ何百年も前からの知り合いになるが、奴は普通の人間として生きながらえてはいない。

 定期的に憑依する対象を確保する必要があった。

 奴が生きるためだけに、何人もの人間の人生が犠牲になった。


 だがそれもここまでだ。


「フェイト、もう器がなかっただろ。適合者はユースが保護してるから、今のお前はその姿でいるのが限界なはずだ。それに女神の力が強くなった、お前の力は弱くなるばかりだ」


 憑依対象を見つけられなかった奴の実力は、全盛期より確実に弱体化している。

 俺がそう言うと、相手が吐き捨てるように発言した。


「どこまでも忌々しい」


 淡々とした調子で毒づく奴は俺以外の面子を見回す。


 ここにいるのは俺意外に、ニオにライド、そして剣守の妹だ。


 奴はその事実に、どういう感情を抱いたのか分からないが、ほんのわずかばかりただ目を細めた。


「まさか、貴様が自分より弱い人間とつるむとはな」


 意外だと思う心があった事に驚いたが、わざわざ顔に出してやる事もない。

 俺が口をつぐんだ代わりに、フェイトの言葉に答えたのはニオだった。


「弱いからって、甘く見てると痛い目見るんだからっ!」


 そう無駄にハリのある声を出して、歴史的な大罪人にもそう応じてみせる。


 年中喧しい彼女はこんな時も喧しかった。


「あらら、ニオちゃん弱いところは認めちゃうのね」


 そんなニオに茶々を入れるライドも、何か言いたい事があるようだった。

 学校にいる時に、独自で動いているような気配があったが、そちらにも何か事情があるようだ。

 頼まれていないなら、深入りするつもりはないが。


 ライドは、フェイトにいつもと変わらない態度で声をかける。


「レアノルドから聞いたけど、俺の故郷焼いたのってアンタか?」


 だが、顔には出さないだけで、その言葉には普段は見せない怒気が含まれていた。

 爆発寸前の炎を押さえつけているのを示す様に、ライドの握りこぶしが固く閉じられ……。


「おたく、血も涙もない性格だってとある筋から聞いたけど、それ本当? あれやった時に何も考えてなかったのかね?」


 しかし出口を探す様に一息吐いて、ニオの方を見てから少しだけ緊張を緩めた。

 ライドが口に出していく内容は、おそらく過去の事だろう。


「俺そっくりの兄弟が地面に転がってる景色見た時の、この俺の気持ち分かる? そりゃ、一時期はつき飛ばして事故に見せかけて殺したくなるくらい憎い奴だったけどな、なりかわって滅茶苦茶にしてやろうとかも考えた事もあったりしちゃうわけだけどな……。何の関係もないアンタにあんな風に殺されていい肉親じゃないんだわ、アレな」


 フェイトは己の肉親の仇でもあったらしく、その言葉には出まかせとは思わない真実味があった。


 フェイトが何も言わないのを見て、ライドは自分なりに何かの決着をつけたらしい。


「だから、まあニオちゃんや先代勇者先生のオマケとして足引っ張らせてもらうわ。覚悟しとけよこの野郎」


 そう宣言して、今いる立ち位置より一歩下がった。


「うわー、衝撃のエピソード。ライドくんって意外と熱血? 双子の兄弟みたいなのいたのかな。うーん、ちょと見直しどころかも」

「いや、ニオちゃんここシリアスなところだから。えっ、見直した? いやいやまさか」

「0.1%くらいだけどね」

「誤魔化されるかと思ったら、マジだったな。そんな事言われると、ツェルトみたいに張り切るかもしれないぜ」

「じゃ、がんばー」

「適当!?」


 それで、ニオと馬鹿なやり取りをし始めて若干邪魔くさくなったが。

 最後にエルルカが、水晶を手にして、こちらに一言声をかけてくる。


「ほんと物好き。私なんかに……命あずける?」


 こちらの方は、テンション振り切ってる他の連中と比べて、まだ懸案事項が残っているようだ。

 だがエルルカの場合は、良くも悪くも気分の変化が緩やかだ。

 トラウマだのなんだの問題なら、解決への猶予は長く、機会も豊富だ。今回何とかならなくても後でステラードあたりが何とかするだろう。


 律儀にこちらの全員の交戦意思を確認して待っていたらしいフェイトは、俺の知っている時よりも長い年月をかけて丸くなったのか、どうなのか。


「……塵となれ」


 一瞬後、双方が戦闘態勢をとった事により、戦いが始まった。


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