第23章 やり返しに行こう



 王宮 会場


 色々、兄弟の事とアリアの事。

 心配事はあったが、いつまでも悩んではいられない。


 あれから、エルルカに話をして、ニオやライド、先生にも事情を話し力を貸してもらった。

 色んな事態を想定したし、作戦も案も練って、修行も続けた。

 思い付く限りの出来る事は、全てこなしていた。


 そういうわけで私達は、今日を迎えてパーティー会場へと来ていた。


 多くの人が集まった王宮は、お祭りの日のような賑わいと人口密集度だ。

 だが、そこは場所が場所だけあって、お酒を飲んで悪ふざけする人も、マナーを無視した態度の悪い人もいなかった。

 みな、上質な衣装に身を包んで、煌びやかな広間でそれぞれの時間を過ごしている。


 久しぶりにやって来た王宮。


 ホールは祝い事の時にしか入った事が無いから、記憶が薄いのだが、それでも元の家に帰って来た事には間違いない。

 豪奢な飾り付けのある広々とした空間も、ホールの奥で百人ほどの演奏家達が腕を披露する舞台も、その天井でキラキラと輝いているガラス窓も、はっきりと覚えている。


 来てしまったのだ、私は。

 もう二度と踏み入れる事はないと思っていたのに。


「どうしたんだ、ステラ?」


 そんな事を考えていると、隣にいるツェルトに顔を覗き込まれた。


「何でもない、大丈夫よ」

「大丈夫、か。うーん、ステラに大丈夫かどうか聞いてないのにそう言ってくるって事は、割と大丈夫じゃない時だぜ? よく見てるから分かる」


 けど、何でもない風をよそおったのに、ツェルトに心配そうな顔をされてしまった。

 気遣わせてしまったのは悪いのだが、そんな事言われても、反応に困る。


 そうなのだろうか、という感想しか抱けないからだ。

 思わぬ機会で来てしまったから、まだ実感が薄いのかもしれない。


 とりあえず戸惑いの感情と、複雑な心境である事は分かるが。


「緊張してるって事なのかも」

「まあ、そういう事にしとくけど、何かあったら遠慮なく俺を頼ってくれよな」

「分かってるわ」


 それにしても……。


 周囲を見まわすと、見覚えのある顔がチラホラ見かけられた。


 普通に招待されたらしいシェリカとエルルカ。

 そして勇者様達。

 碧は……離れた所にいるのは、わが校の生徒会長のクレイと、彼に付き合わされているライドだった。


「ライドはともかく、あの人は何でこんなところにいるのかしら」

「さあ、何でだろうな。ライドがさっき偶然会ったらしいぜ。何かさっき聞いた時は、生徒会長の妹馬鹿の用事に付き合わされてるとか言ってたけど」

「生徒会長、妹さんがいたのね」


 よく分からない理由だったが、彼なりに色々あるのだろう。

 家庭内のことなので、深くは詮索する事はしないでおこう。


 次に視線を向けるのは、豪華な食事が盛られてるテーブルの方だ。


 お近づきになりたい他の人達を放っておいて盛り上がってる二人。

 シェリカとエルルカだ。

 やはりあの話は本当だったらしい。

 彼女達は、お酒の飲み比べ対決をしていて、それをニオがはやし立てていた。

 みた所、シェリカのお酒の趣味にエルルカが渋々付き合わされているといった図だが、楽しそうにもみえる。


 あ、飛び入りで勝負を挑んだ人が、負けて泣きくずれてる。

 競争相手は、よっぽどの自信家だったのだろう。

 シェリカがどや顔になっていて、エルルカが「あーあ」という顔をしていた。


 そんな私の視線を追って、ツェルトが呟く。


「エルルカ、一応協力はしてくれるみたいだよな」 

「そうね、でも」


 仕方なくと言った感じで、乗り気ではないようだった。

 自分がいても役に立たないと思っているらしい、彼女は。


 自分に自信がない所は、やはりステラ達では代えられなかった様だ。


 そんな気分を変えるようにツェルトが声を明るくする。


「ま、大体何とかなるって。大丈夫大丈夫。だって精霊使い兼剣守に、元復讐者に、占い師に、先代勇者に、今代勇者、次代勇者に、鬼、えっとライドは何だ? ともかくこれだけたくさんの人達が集まてくれたんだ。何があってもなんとかなる」


 文字だけみると、確かに何か凄そうなパーティーだった。


「そう、よね。ええ、きっとそう。その為に、皆で沢山相談して、考えたんだもの。私やツェルトだって、たくさん修行して強くなったんだから」

「ああ、そうそう! その意気だ!」


 ここまできて不安がっていても仕方がない。

 後は、自分達の力を信じるしかないだろう。








 時間が過ぎていけば会場の中は、だいぶ人が多くなってきた。


 歩くのも一苦労という賑わいだったがそれも当然だろう。

 王宮主催のパーティーは絶好の社交場であり、自分を売り込むために名前を広めたり交流をするチャンスなのだから。

 そんな中を、苦心して歩きながら私達は、友人の姿を探していた


 そのかいあってか、しばらくして見慣れた姿を発見した。


「カルネ! 久しぶりね」

「ステラですか。来ていただけないかと思いました」

「そんな事ないでしょう? 他でもないカルネの為なんだもの」


 ほっとした様子を見せるのは、ステラより一つ年上の少女だ。

 しばらくぶりに会う少女だが、さいきんどこかで声を聞いた事がある様な気がする。


「あ……」


 ツェルトが何か言おうとして口を開けたり、言うまいとして口を閉じたりしていたが、彼がよく分からない行動をするのはいつもの事なので、放っておいた。

 さすがに場所が場所だけあって、目に見えるおかしな行動をしていないのだから、放置でいいだろう。


「そちらの貴方は初めましてですね」

「お、おう」


 水色の髪に、海の底を思わせる様な青い目をしたその少女カルネ・コルレイトは、柔らかな物腰でツェルトに挨拶をして、自己紹介をした。


 理知的な顔つきをした彼女は、くすりと笑ってから、私に話しかける。


「今日貴方の隣に立っているのは、彼なのですね。いつも手紙に書いている恩師の方はどちらへ?」


 恩師、とは先生の事だろう。

 カルネには、手紙で何度も書いていた。


「多分この会場内……王宮内のどこかにはいると思うわ。パッと見てもぜんぜん姿が見えないけど、知り合いの人と話があるみたい」


 確か、アンヌやレット、勇者様の古なじみと積もる話があるとか言っていたから、その件なのだろう。


「そうなのですか。それは、とても良かった」


 にっこりとほほ笑む彼女。

 とてもそう思って良そうな、表情で。

 いつもカルネはクールなのだが、こうして感情をあらわにするのは珍しい事だった。









 その流れで、ひとしきり近況報告し合った後は、本題へと移る。


 カルネが私達に話したの詳しい話はこうだ。

 それは、一見して至極ありふれた話で、どこにでもよくある事だった。


 珍しくもない事だろう。


 貴族の中や王宮内では決して珍しい話ではない。

 彼等が、自分の為に誰かを利用したり、貶めたりする事は日常茶飯事だった。


 けれど彼女の場合は、そのありふれた話とは違っていたらしい。


 彼女は、弱い立場の貴族を庇って対立する貴族に目をつけられ、細かな嫌がらせを日常的に受けていたらしい。


 しかし、普通の貴族として荒事に携わることのない日常を送っているだが、カルネは少々の事では屈しない強い精神を持っていた。


 規則を破った者がいる場合は、はっきりその事を糾弾して見せるし、不正や悪事などは許さないししない人間だ。


 そのはずなのに、そんなカルネが私に助けを求めることになったのは、自分では対処しきれない問題に膨れ上がってしまったからだ。


「私に嫌がらせをしてきた貴族達がいるのですが、その者の意を組んだ者達が、暴走し始めたのです」


 行動がエスカレートして、関係のない第三者が、カルネに嫌がらせをし始めたのだと言う。

 それで元々の件には関係ない者まで、悪事に加担し始めた。


「私一人で済むのなら、良かったのですが、お母様やお父様、知人のヨルダンやミルトにまで被害が及ぶしまつで困っていたのです」

「友達まで、それは大変だったよね」


 カルネはあまり私に頼って来ることはなかったけれど、今回は違っていたから不思議に思っていたのだ。

 自分の問題で人に迷惑をかける事は耐えきれなかったのだろう。


「ステラの方も、昔の事など色々あって大変でしょうに、申し訳ございません」

「そんな事、全然きにしなくていいのよ。カルネは友達なんだから」


 長い事あっていなかった自分が、言っていい事なのかどうか分からなかったけれど、私はそう伝えていた。


 何も知らないで、カルネ一人に苦労させるなんて嫌だった。


「そうだな。ステラは、自分一人が幸せならそれで良いって考えられるような子じゃないから、カルネさんもそんなに思いつめない方がいいぜ。ステラだけじゃなくって、俺達もいるし、協力してるから」

「ありがとうございます。貴方はステラと同じ良い人なのですね」

「えーと。どういたしまして? そうやって真っすぐ言われた事ないから、何か照れるな」


 

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