第22章 エルルカの気持ち
子供の頃に読んだ絵本の話を覚えているだろうか。
私は覚えている。
家の中には、色々な本があったし、一族の中に絵本の収集家がいたから、読む者には困らなかった。
有名な本もあれば、誰も知らないような珍しいものまで。
そういった本を、昔はよくシェリカ姉さんが読み聞かせてくれた。
でも、むかしむかしのおとぎ話の中で、聖獣の話は好きになれなかった。
悪者をやっつけた勇者の話も、傷ついた人達を癒した巫女の話も好きだったけれど、それだけは今も好きにはならない。
なぜなら聖獣は、人と仲良くなりたかったのに、狂暴な種族に生まれてしまったという理由だけで、迫害されていたのだから。
生まれ何て選べない。
何もその聖獣に悪い所はないのに、大好きな人達から冷たくされる。
私はそんな話が嫌いだった
私の名前はエルルカ・クロスソード。
勇者に後継者がいない時に、その勇者の剣を保管するためにいる一族。
その剣守の家の、人間だ。
一族の人間は皆、優秀な剣の腕を持っている。
だけど、私にはなぜかその才能がない。
ろくに振る事ができないし、剣で相手と戦うなどもってのほか。
母も父も、姉様も、親戚たちも皆それなりの剣の腕を持っている。
なのに、私だけは違う。
実は私だけ、別の家の子供なんじゃないかと何度も疑ったくらいだ。
私だけ、いつも皆と違う。
姉さんからは「貴方は子供の頃は体が弱かったから、そのせいなのよ」と言われているけれど。
記憶にないほど昔の事だから、本当の事なのか分からない。
私がただ無能なだけかもしれない。
剣守の子供は私と姉さん二人の姉妹だ。
けれど、フィンセント騎士学校の文化祭で、あの勇者が最初に声をかけたのもやはり姉さんだった。
そこで出会った女性生徒ステラと姉さんと、勇者がする話を聞きながら私は思った。
私はやはり必要の無い人間なのだと。
そんな私だけど、友人から頼み事をされてしまった。
困ってるから、だから助けてくれ、とそう言われてしまった。
正直、どうしてそんな事を言ってくるのか分からなかった。
私にできる事なんて、あるはずないと思った。
私には占いの腕があるけれど、そんなもの何の役にも立たない。
姉さんと一緒の場所で戦う事も、姉さんを守る事もできないのだから。
けれど、その人達は私の力が絶対に必要だと何度も言ってきて……。
仕方がないから協力する事にした。
大した力になるとは思えないけれど、「エルルカにしか任せられる人がいない」と言われてしまったから、本当に仕方なくだ。
それで必要になるからと、この前遺跡で手に入れた水晶を渡された。
私なんかが、遺物なんてものを手にする時が来るとは。
落として割ってしまわないかちょっと心配。
人から頼られるなんて何年ぶりの事だろう。
正直言うと、少し、嬉しかった。
姉さんは何でも自分でできてしまうし、家の者達は私を頼ったりしない。
占いのお客の方は、困っているというよりも好奇心で依頼する人の方が多かったから。
そういうわけで、色々あって友人に協力する事になったけれど、気になる事があった。
友人の一人、そもそもの問題を持ち込んできた人物はあるやっかい事を抱えている。
彼女が打ち明けてくれた出自にまつわる話や、転生の話ととある少女から命を狙われている話も気になるけど、それとはもっと別の話だ。
彼女、ステラード・グランシャリオ・ストレイド改めステラード・リィンレイシアは、ある呪いを受けている。
それは簡単に言えば、様々な困難を一心に集めて、様々な難事にいきあたるという類いのもの。
呪いなんてものは、空想の産物であると考えていたし、実際に目にする気概があるとは思えなかったのだが、見えてしまった以上は存在していたのだろう。
私の友人である彼女は、なぜか呪われていたのだった。
同じくして、ツヴァイ・ブラッドカルマもその呪いを受けているようだった。
二人とも同じ呪いにかかっているようで、なぜか今はその呪いを二人で分担して軽減している状態になっている。
なぜ、そんな事になっているのか分からない。
だが、この間ステラ達が進級テストを受けに行った時から、呪いの効力が弱まっている気配もあった。
よく分からないし、初めての見るものだったので、注意しておく必要がありそうだ。
私にとってはとても珍しいけれど、ステラという人間の事が気になっているらしい。
最初にあった時も良い人だと占いで分かっていたから、普通に接する事ができた。
それからも、ステラは私に話しかけてくれる。
だから、嫌いじゃない。
そしてだから、ちょっと心配なのだ。
集団のまとめ役になる事が多い彼女は、頻繁に厄介事を抱え込んでいて、困っている。
その度に、彼女の友人達が手伝ってくれたりしているのだが、一人でやっている場合も少なくなかった。
ステラには、屋敷に泊めてくれたという恩もあるけれど、何よりも私自身が個人的に、珍しく力になってあげたいと思える人だった。
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