第21章 相談



 その日は、鳩が二羽来た日だった。

 一通はお兄様からのものだ。


 内容の始まりは、いつも通りの悪党出没やら、近隣の不穏な話が書いてあった。

 けれど、後半に書いてあったのは第二王子であるイグニスがきな臭い動きをしているという事と、国の後ろ暗いところを担っている魔法使いフェイトが、第二王子に加担していると情報。他にも悪事の片棒を活動としている人が大勢いて、その中には、アリア・ホリィシードの名前も含まれていた。


 そして、数日後に控えた、お兄様の誕生日パーティーで何かが起こるかもしれないという事だった。


 同封されているのは、一人分ではない数名分の招待状だった。


 二通目は時々手紙のやり取りをしているカルネだ。


 隣国の貴族である同年代の彼女、カルネ・コルレイトとは仲が良かったが、身分が変わってからは会う機会がめっきり減ってしまった。

 しかし、そんな彼女は今困っているらしい。

 フェイトとかいう人物から分かりやすい露骨な嫌がらせを受けていて、パーティーに呼ばれたが参加する時が不安だと言う。


 たぶん、これは敵からの挑戦状だった。


 王位争いのと、ゲームのヒロインからの挑戦状が同時に来るとは思わなかったが、きっと何かしらしかけてくるのは確実だ。

 

 しかし、一人ではどうする事もできない。

 人間一人にできる事なんて、たかが知れているのだから。


 だから、手紙を読んだ私は、「彼」に相談する事にした。


 私の頭に浮かんだのは……。

 不思議と「あの人」ではなくて……。






 フィンセント騎士学校 校舎裏

 次の日の放課後。

 人通りの少ない校舎裏で、私はツェルトと向かい合っている。


 私が最初に「話があるの」と言ったら、ツェルトがなぜか顔を赤くしてそわそわしたり、落ち着かなかったりしたが、今は冷静だ。


 一通りの事情を(王位の問題や、ゲーム抜きでの転生の話を)話すと、彼は珍しく普通に困ったような顔をした。


「王女としてのステラへの挑戦状と、アリアって人からの恨み。招待された場所は俺には良く知らない所か。うーん、じゃあエルルカの協力も必要だよな。これからの作戦立てるのには。でも大丈夫かな。エルルカって自信なさそうな感じじゃん?」

「そうよね」


 巻き込んじゃうのは申し訳ないけど、彼女の力が必要だった。

 しかし彼女は、剣が使えない自分にはまったく価値は無いと思ってる節がある。

 そこが問題だった。


「私、居場所って自分から守ったり作ったりするのも大事だって最近思えてきたの。でもエルルカはそれが出来ないって思いこんでるから……」


 どこにも居場所がないと思い込んでいる人を説得するなんて、剣を振るより難しい問題だ。


「俺達がそれでも大丈夫だって事を、上手く説得出来ればいいんだけどな」

「とすると、シェリカさんの協力も必要よね。何だか、どんどん大事になって行く気が……」


 ツェルトだけに事情を話すつもりだったが、やはりそうは行きそうにないという事に頭が痛くなる。

 しかし、彼はそんな事にも前向きだった。


「別に良いじゃん、大事になってても。皆頑張るステラを応援したいって思ってるし俺もそうだから、どんどん巻き込んで良いんだって」


 そう励ましてくれる。


「そういうものかしら」

「そうそう。だって。ステラって本気になったら一人である程度の事は何でもできる様になっちゃいそうなんだよな。でも皆きっと、そんなステラが俺達を頼ってくれるのが超嬉しい」

「本当かしら」


 疑問の残る応答だったが、ちょっとずるい。

 そういう言われ方すると、今更話をなかった事にできなくなってしまう。

 言葉を引っ込められなくなってしまうではないか。


「ツェルトのばか」

「何で俺、怒られた!? 良いこと言ったはずだよな!?」


 そこら辺は自分で考えて。

 説明するの恥ずかしいから。


 ともかく、やっぱり今度も皆の力が必要になりそうなのが分かった。


 前向きに、がんばろう。


「ありがとう、ツェルト。話を聞いてくれて」


 一人で悩んでるよりも、色んな事に気が付ける。

 おかげで頭が整理出来た気がする。


「おう。どういたしましてだ。俺に最初に言ってきてくれたのが嬉しいな」

「そんなの当然じゃない。だって……」


 何だろう。

 言いかけて、よく分からなくなった私は悩んだ。


 先生に毎回頼るのは悪い?

 それもある。


 早く先生を追い越すような立派な騎士になりたい?

 それもある。


 だけど、根源的には違う様な気がするのだ。


 とりあえず、目の前でなぜかわくわくするような視線を向けてくるツェルトを見て、私はどうにかしてそれをひねりだした。


「ツェルトは特別な……」

「特別な?」

「ええと、同士だからかしら?」

「……」


 ツェルトがワクワクした表情をしながら、しくしくしだした。


 ごめんなさい。

 自分でもよく分からないの。



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