第15章 神ありし世界
苦労してガーディアンを倒した後、先生に八十点という反応に困る点数をもらった。
どうせならもっと九十点とか九十五点とかにしてくれば、良かったのに。
無事になったらなったで先生は、さっさと室内に入り込んで奥に向かっていき、何かを調べている。
「さすが剣士ちゃん」
「百点って言わない所がステラちゃんだよね」
「だな。でもそこがステラの良い所だ」
ガーディアン撃破の後、ちょっとよく分からない点を気にしている仲間達の事は、とりあえず今気にしなくてもいいだろう。
そんな私達へ作業が終わったらしい先生が話かけてきた。
「すぐこれだ、つける薬は生憎持ち合わせてねぇよ。
病って何ですか。
私別に風も引いてないし、熱も出してないのに。
私達が、倒れたガーディアンの前であれこれ反省点を言い合っている間に、先生は先生で自分の目的を果たしていたらしい。
遺跡の奥にあった遺物に触れて、何かやっていたようだ。
部屋に入った時に見た時は発見できなかったが、奥の方に台座があったらしい。ガーディアンが倒れたからなのか、奥の扉が開いて小さな部屋が見えていた。
その奥にある台座が、なぜかところどころに彫られている幾何学模様の溝が光り輝いて、はりきって存在を主張していた。
台座の上には、遺物らしき水晶みたいなものが置いてあった。
占い師が使うような、透き通ったあれだ。
本来の課題であれば、遺物収集で進級テストが合格になるが、私達は特別なのでガーディアンを倒した時点で達成となる。
先生はさくっとその遺物を回収して、荷物にまとめていr。
情緒も何もあったものもない、ただ手に取って袋に詰めただけという感じ。
達成感がないのは当然だけど、もうちょっと私達の苦労も気にして欲しかった。
「さて、このあいだの夏休みにあっち行っといてよかったな。これで遺跡巡りなんて面倒極まりない作業も最後だ」
とりあえず私達が何に協力させられたのか気になるので、遺物を前にしてあれこれやっている先生の前に集まっていく。
「何をやってるんですか?」
「お前には前に説明しただろ。女神サマってやつを復活させんだよ。ったくそんなん柄じゃねぇってのに、ユースがお前がやれやれうるせぇから」
「え……?」
今、何か言いました?
私達、何かとんでもない事手伝わされてません?
「えーと?」
さらっと言われた事の意味を考えている間に先生は話を進めていた。
「おい、お前らに話しておくべき事がある。ステラードやツェルトはニオ達よりは知ってると思うが、とりあえず聞いとけ」
何が始まるのかと並ぶニオ達に、先生はこともなげに告げる。
「これから先、俺はどこかでフェイトって野郎と戦うことになる。これに関しては俺の物語であって、お前らが気にするべき事でもないんだろうが、うっかりとばっちり行ってから文句言われても困るんでな」
「「フェイト……?」」
私やツェルトは聞き覚えがない。
けれど、ライドは何か意味ありげに「なるほどね」とか言ってるし、ニオに至っては面識があるようだった。
「へぇ、あの人」
人物名らしきその言葉に反応して、瞳に闘志を燃やしている。
彼女は複雑な表情で、何かを考え込みながら、口の中で名前を呟いていた。
「あいつは俺の大事な人間をことごとく手にかけてくれやがった、屑野郎だ。俺が生きて来た人生の中で知り合った顔見知りの大半はあいつにやられてる。因縁の相手って奴だな。俺の事情にお前ら……というか他に何やら抱え込んでるお前に巻き込むのはアレだが、ただ過保護に守られるだけのガキでもなくなっただろうしな」
最後のセリフは私一人に向けてだろう。
視線を向けられたので、私はしっかりと受け止める。
内心では、ちょっと不安があったが、ここは強がっておきたいところなのだ。
「私達は大丈夫です。それで先生の因縁が、今回の遺跡踏破の件とどういう関係があるんですか」
「あー、ちょっと長くなるがまあいいか」
先生は、ほんの少しためらった後、自分が抱えているという事情について、簡単にまとめて説明してくれた。
フェイト・アウロラシェード・ストレイド。
彼は、大昔から生きている大罪人らしい。
フェイトは、この世界を神なき世界にした張本人であり、そして今もこの世界を神なきままにし続けようとしている。
とりあえずそこまで聞いて疑問。
「先生って何歳なの?」
「敬語とるな。見たまんまに決まってんだろ。普通の人間だ」
そんな大昔の人をしってるんだから、とんでもない年を取った人間なのかと一瞬思ったがそうでもないらしい。
「この世界の人間は輪廻転生を繰り返して、前世の記憶を持ちながら何度も生まれ変わったりしてるって話もあるけどな、俺は至って普通の人間だ。残念だがな」
別に残念だったりするわけではないのだが。
先生にそんな特別な所は期待してないし。
だけど、そんな話をするから、ちょっと私の隠し事がばれてしまったのではないかと思ってしまった。
もし、そうだったら……ええと、どうなんだろう?
とにかく。
「じゃあ、ええと、先生がやってる事ってやっぱり……」
「お前には一度説明しただろ。夏休みに、隣の国まで行って調べ忘れた遺跡を歩くの疲れたんだぞ」
そういえば先生は、二年生の夏休みを使って隣国までいって色々やっていたらしい。
その事は事前に聞いていた。
「これで、何か変わったんですか?」
世界の何やらが。
話のスケールが大きすぎて、女神さまのいる世界といない世界の違いなんて、全く分からないし、目に見える変化などないのだが。
「その内分かる。色々な、弟子の成長祝いだ。素直に受け取っとけ」
「そんなの貰ってもこまるんですけど」
ニオ達と共に微妙な顔をして見つめ合うしかない。
持て余すレベルではないのだが、そういうのは普通世界の人の平和の為にとか安寧の為にとかいう話ではないのだろうか。
話題の中にスケールの大きい話と小さな話が混在し過ぎて、いつもは色々お喋りなニオですら、さすがにどう反応していいのか分からないでいるようだ。
「ま、いい。ようするに俺が言いたいのは、俺の事情に巻き込まれるかもしれないから覚悟しとけよってことだ。お前ら俺の周りウロチョロし過ぎなんだよ」
「どういう言い方ですかそれ」
心配だから気を付けて、なんて素直に言える人じゃないって分かってたけど。
毎回毎回むっとするようなフレーズを付け足さなくてもいいだろう。
ツェルトなんかは何かあったら素直に喜んでくれるし、素直にありがとうって言ってくれるのに。
「よく分かんないけど、俺がステラの分まで頑張ればいいんだな。見ててくれ、俺ステラの為に活躍するから」
「はいはい、ご馳走様。ツェルトは剣士ちゃんが世界の中心なのね。思考整理が楽でいいわ、ホント」
「ねー、さすがにニオも今はちょっと分けて欲しいかな」
そう、こんな感じに。
先生にも、ツェルトの10分の1でもそういう所があればいいのに。
「うーん、でもニオ先生の事情に巻き込まれるのめんどくさいかな。大変な時だけ除外してくれないかな」
「おい、お前もそっちの事情に俺を巻き込んできたろうが、夢での事忘れてねぇからな」
私の知らない話を言い合っているニオと先生の話は、前にメディックとかいう人が学校に来た時の話だ。
彼女達は皆変な夢を見たらしいが、私は眠る時間が遅かったために何も見なかった。
自分の知らない事で盛り上がってるのを見ると、ちょっと嫉妬してしまう。
なんて、そんな何でもない事を考えてて良いのだろうか。
結構私達、とんでもない事しちゃったのよね?
「ん、どうしたんだライド?」
「いや、何でも? フェイトねぇ。故郷関係でそんな小憎たらしい奴の名前聞いた事があるな、と」
「故郷? 知合いとかか?」
「まさか」
「どっちにしろ、お前には関係ない話だわな」
「なんだよ。友達を心配するの、別に変な事じゃないだろ」
「やれやれ、お世辞もないのが質が悪い。お前のそういう素直なとこ、地味に尊敬するわ。ホント剣士ちゃんとお似合い」
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