第6章 剣守の姉妹



 賑やかしい校内を歩いて、辿りついたのは目的の教室だ。

 中に入ると、歓声がした。

 教室で行われているのは、剣舞だった。


 視線を向けた先で行われているそれは、剣を使った見事な舞いだ。


 仮想敵へ繰り出される剣の技の数々が、玄人技でありながらも一般客にも分かる美しさを備えていて、まるで見えない芸術品を鑑賞しているような感じだった。


 ステラは今まで、剣を動かす事とは暴力に結び付く行為だと思ったが、あんな風に人を魅せる為の動きも出来るのだと初めて知った。


「凄いわね」

「そう、姉さんは凄い。とても凄いわ。落ちこぼれの私なんかよりも……」

「エルルカ?」


 顔を俯かせるエルルカの様子が気になるのだが、次の瞬間に声をかけられた。


「エルルカ?」


 先程まで剣舞で客を魅せていたシェリカだ。


 こちらの姿に今気づいたと言った様子で、急いで駆けてくる。


「遅いから心配した。ひょっとして迷ったの? 分からない時は私を呼んでって言ったのに」

「来れたから問題ない。姉さんは自分の事だけ考えていて。私は大丈夫だから」

「そんなこと言って。変な輩に絡まれたりしたら面倒じゃない。大丈夫だったの?」

「私は平気だから、放っておいて」

「だけど……」


 催し物を見に来るのだから仲は悪くないと思うのだが、この姉妹には色々と複雑な事情がある様だった。


「あの……」

「あら? 貴方は確かステラードさんだったわね」


 どう声をかければいいのか、と考えていると、知り合ったばかりの女生徒である相手から名前を呼ばれて驚いた。


「どうして私の名前を?」

「知らないの? 貴方、入学してから結構有名人なのよ。いつも課題の成績がトップだし、入学式初日に失礼な三年生を打ち負かしたとかって話で」

「ああ……」


 そういえば、そんな事もあった。

 前者はそうなるべくして努力したのでいいが、ともかく後者は不本意だ。あれは不幸な出来事だった。


 下級生をいびっていた三年生の行動を嗜めようとしたら、なぜか決闘になってしまって、剣で負かしたのだったか。


 あの出来事が原因で、学校中にステラの名前が知れ渡ってしまったのだったか。

 その後、生徒会会長に目を付けられて説教されたのだった。









 それから、しばらくシェリカと共に他愛のない話をしていると、姿をくらましていてどこかにいるはずだった先生が話しかけて来た。


「剣守、いつまでも控室に来ねぇと思ったら。ん……何だステラード、お前もこっちに来てたのか」

「先生? 何やってたんですかこんな所で。いつの間にか教室からいなくなってるし」

「何って、曲がりなりにもお前の先生やってんだから、する事するしかねぇだろ」


 する事と言われても、見た限りでは特に仕事をしているようには見えないのだが。

 と思っていると、得心が言ったようにシェリカが頷いた。


「ああ、なるほど。そういう事。つまりステラが例の人って事なのね」

「ああ、そう言うこった。何とか頼めねぇか」

「私なら構わないわ。話してて、すごく気に入った。彼女なら大丈夫だと思う」

「そうか、そりゃ良かった。だそうだ、ステラード解決したな」


 そんな風に当人だけで完結させられても困る。

 もう少しちゃんと話をしてくれないだろうか。

 できるだけ分かりやすく。かつ客観的に。


「まだ何にも説明を受けてないんだけど、もうちょっと詳しく話してくれないかしら」

「そうね。忘れてたわ。駄目じゃない。私」


 あまり今まで話した事は無かったが、これだけはステラでも分かった。

 シェリカという人は、もしかして天然なのかもしれない。


 と、シェリカは神妙な面持ちになって、周囲の様子を伺いながら小声で言葉を伝えてくる。


「あまり人には言わないでほしいのだけど、実は私、精霊使いなの」

「え?」

「だから、貴方の修行をつけてほしいって頼まれたのよ。勇者の後継者さんとしての」

「あ、だから……」


 それでわざわざ、店の番を放ってこのクラスまでやってきたというのか。


 そういう事なら早く言って欲しい。

 先生はほんとうに色々分かりにくい。説明不足。陰でこそこそしすぎ。


 もう少し、自分のこと言い訳してもいいのに。


「まったく、お前ら徹底的に隠れすぎだろ、突き止めるのに苦労しただろ」


 不満そうな先生の言葉にシェリカが擁護の言葉を入れる。


「仕方がないわ。精霊使いの力はとっても便利だもの。世間に知られては色々と不都合が起きるから」


 彼女の言う通りだった。


 私も自分で調べた事なのだが、精霊使いは数が少ない。


 精霊と契約して特殊な恩恵を受ける彼らは、他の人間には容易にで出来ない事でも簡単に出来てしまう。


 色々言いたい事はあるが、まずお礼だ。


「先生、ありがとうございます。それにシェリカさんも」

「シェリカでいい。私もステラって呼ぶから、それに貴方も、妹の事呼び捨てにしてるでしょう?」

「えっと、それは」


 相手は子供だし、自分より年下の子供にさん付けするのはおかしいだろうから。


 そう思ってエルルカを見つめると、なぜか気まずそうに視線をそらされる。


「私、子供じゃないから。今年で十六だから」

「え、えええっ!」


 生半可な事では驚ろいて叫ばないと、ひそかに自負していたステラだが、この時ばかりは衝撃を隠せなかった。


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