フラスコの夢05 「人間じゃない説」
勇者を護衛にするというある意味物凄い贅沢を選択した私は、残り時間を有効活用するために、空を飛んでいた。
他ならぬステラちゃんの為だ、決意充填完了したニオ・シュタイナーなら空だって飛べるのだ。
嘘だ。
うん、少し待とう。
人って決意だけで、空飛んだりはできないよね。
ええと?
つまり、説明を丁寧にすると……、私は空を跳んでいた。
飛ぶというか、跳躍する?
……に近いっぽい。
「かたき討ち決意してても……これじゃあニオ、勝てなかったかもしれないなぁ」
先生の実力は分かってるけど、以前は不意をうてば可能性はあると思っていた。
けれど、こんな景色を見てしまっていたら、以前の自分の計算は甘かったのだと、そう思い直さずにはいられない。
で、なぜ空を跳んでるかというと。
先生が、この世界に存在する精霊の力とやらを借りてどうにかしてるらしい。
私達は、屋根の上を身軽にひょいひょいひょいだ。
精霊の力で身体能力を強化しているみたいらしく、曲芸師とかがするような身動きが可能になり、猫のように俊敏に移動できるのだ。
他にも、火をぼおっっと放ったり、土をもりっとさせたり、水をぶしゃーっとしたりもできるらしい。
何それ応用力高すぎ。
しかもそんな魔法を人にかける事ができるなんて……。
「先生って、人間じゃないよね。ぶっちゃけ」
「失礼な事言うんじゃねぇ、落っことすぞ」
「やだもー、ちょっとした冗談じゃないですかー」
自分で言っておいてなんだが、先生だったらしつけの為とかいってやりかねないと思った。
なので、私の必殺技「笑ってごまかす」を発動させておく。
甘いように見えても、先生は厳しくするところは厳しい。
実技でもとりあえず「分かんねぇなら限界まで練習しとけ」「分かるまで慣れろ」「慣れなきゃ慣れるまで続けろ」だし。
獅子は我が子を崖から突き落とすって聞くけど、そういう事やりかねない人なんだよね。
まあ、屋根上を飛び跳ねる事自体は、これはこれで面白いから別に悪くはないのだが。
途中で力切ったりしないよね?
そしたら、ほんとに落ちるしかなくなるから困る。
そんな風に先生をやりとりしながら移動している私達は、ただやみくもに動き回ってるわけじゃない。
ちゃんと目的地はある。
屋根上を移動して向かったのは、グランシャリオの王宮だ。
色々移動して辿り着いた後に、その場所をチョイスした理由を聞いてみた。
「えーと、なんでここ?」
「ここから、ステラードの気配がするからだ」
「そんな事まで分かる先生は、やっぱり人間じゃない説!」
「お前はいちいち騒がないと生きてられねぇのか、静かにしてろよ」
適当に町中を跳んで探す作戦かと思っていたら、まさかの当てがあったらしい。
探したい人まで探せる先生の底が知れる気がしなかった。
そう言うと、以前にツェルト君も同じような事してたから、ツェルト君も人間じゃない説発生だ。
あ、鬼の血引いてるから人間じゃなかったね。
「町ん中もだいたい俺達の世界と変わんなかったな、なら王宮も同じか。こっちだ」
「へぁ?」
そういえば、ステラちゃんの様子以外、特に私の板世界と変わったところはなかった。
町の様子がもう少し違っていれば、もっと分かりやすかったのだが、なまじ似すぎているだけに、余計混乱してしまう。
とりあえず屋根上から降りた後、移動していく。
通るのは、あまり目立たない裏の区画だった。
そこから、人目に付かない場所を見つけて、さくさく移動していっく先生の後をついていった。
その道は、隠れて分かりにくくなってる秘密の入り口だったり、通れるかどうか分からないような小さな隙間だったりだ。
ニオ達が進んで行くのは、あきらかに公に通る場所ではなかった。
有事の際に使うような隠し通路だった。
何で知ってるんだろう。
人間じゃないポイント10点追加。
「もう、どうなってるのこの先生!」
「おい、小声でも喋んな」
小さな声で突っ込み入れたら叱られてしまった。
そんな明らかに正規の入場方法でない道順からの不法侵入を果たした私達は、もう少し移動した後に、王宮内のある場所へと辿り着いた。
地下に延びる階段を進んだ先だ。
「この国の不正やら何やらを暴くために、いっぺん忍び込んだかいがあったな。まあ、こっちの世界では誰にも暴かれてないみたいだが……」
「わーお、スパイみたい。そこまでやってる先生なら、あのステラちゃんの師匠になるわけだね!」
脳裏に可愛いだけじゃない友人の、その狂剣士ぶりを思い描いて、深々とため息をつく。
目指すべき人間の強さがぶっ飛んでいたなら、当然学ぶ側もぶっ飛んだ人間になるはずである。
もっとだらしなくて弱っちい人間が師匠だったら良かったのに。
「はっ、その説で行くと先生の生徒であるニオもいずれぶっ飛んじゃう! どうしよう、ステラちゃんとお揃い!」
「……好きに言ってろ。もう、俺は何も言わねぇからな」
繰り返されるこっちのセリフに対応が面倒くさくなったのか、先生は呆れた視線を寄越すのみだった。
反応がなくなるとつまらない。
でも、もうそろそろ自重しよう。
ふざけてて良い場所ではなくなるようだ。
先へ進んで行くと。「とまれ」と先生が身振りで指示をしてきた。
言葉を口に出さないと言う事は、人が近くにいるのだろう。
目の前には扉がある。
耳をすませば、その先から、話し声が聞こえて来た。
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