第13章 友人の様子
あんまりじっとしていても、遠くに来た意味がない。
体力も回復した事だから、外を軽く散歩でもしてきたら良いかもしれない。
そう思って、部屋から出ようとしたのだが、そこに訪ねてくる者がいた。
ニオだ。
「あ、ステラちゃん。今、ちょっと良いかな」
けれど、いつも楽しげでいる彼女は、少しだけ元気が無いように見えた。
疲れたのだろうか。
それとも何かあった?
「どうしたの、ニオ。何か困った事でも起きたの?」
「ううん、どうだろ。ちょっと相談したい事があって」
質問に答える言葉の歯切れは悪い。
取りあえず散歩は中止と言う事にして、ニオを部屋の中に招き入れた。
何かお茶とか出した方がいいだろうか。
正確には違うが、友達が自分の部屋を訪ねてくるなんて今まで無かったので対応に困る。
けれど、そんな私の心境を知ってか知らずか、ニオはさっそく口を開いた。
「あのね、ステラちゃん。先生の事どう思ってる?」
「え?」
どうって? 何をどう?
ニオはこちらの戸惑いに構う事なく詰め寄ってきて、そして鬼気迫る様子で尋ねてくる。
「どう? どうかな? ステラちゃんは先生の事が好きなの? いなきゃ、さみしい? 悲しくなっちゃう?」
「ええと、好きだと思うけど。それがどうかしたの?」
先生の事は普通に好きだ。
昔はそうでもなかったけど、先生のおかげで今は好きな人がたくさん増えた。ニオやツェルト、ライドもその枠に入るだろう。
「それって人としての? それとも恋愛的な?」
「それは……、たぶん人として。恋愛はよく分からないの」
「そっかぁ」
ニオは私の返答を聞いて、どこかほっとしたような表情を浮かべる。
今の質問、どういう意味なのだろうか。
聞いてるのが私じゃなくて他の人だったら、何か分かったかもしれないが、そういう女子の話をした経験がないから、この話が何を意味しているのかよく分からないのだ。
いつも比較的鈍い(ニオ談)ステラに教えてくれる友人は、今目の前で聞いてくる役目であるし。
いきなりな事を聞いてきたニオは、ステラの反応に何か思う所があったのか、今度は自分の事について話してくる。
「ニオは、好きな人いるんだ。すっごく好きで、大切で。でもって、その人の為なら何だってしてあげたくなっちゃうの」
「そうなの……」
好きとはそういうものらしい。
私には分からない事だが、話をしているニオはとても幸せそうに見えたので、たぶんそれは良い事なのだろう。
私もいつか、誰かを好きになる日がくるのだろうか。
目の前の友人みたいに。
「そっか……、そっかぁ……」
ニオは一人でひたすら頷くのみ。
その様が幸せそうに見えるのに、どこか危なっかしく見えて来た私は、何か言葉をかけなければ思うのだが、口を開くよりもニオが喋る方が早かった。
「好きじゃなかったなら、あの人がいなくなっちゃっても平気だよね」
「ニオ?」
次に聞こえて声が、今までに聞いた事のない友人のものの様に聞こえて、私は思わず尋ね返してしまった。
「何でもない」
ニオは誤魔化す様に笑いながら部屋を出ていく。
一瞬彼女が別人みたいに見えた。
今のは一体、何だったのだろうか。
奇妙なニオの訪問が気になって、私は結局、せっかくの旅行を楽しめずにいた。
昼間に見た友人は、どこかいつもと違って見えて危なっかしく見えたからだ。
何か災難が起きなければいいのだが……。
夜になると、クラスメイト達に肝試しをしようと誘われた。
怖いのは本当は凄く嫌だし、正直行きたくなかったのだが、私以外の人たちがみんなやると言い出したので、一人で残る方が逆に怖くて、少しだけ意地を張ってしまった。
夕暮れの時間、部屋から出て暗くなっていく空を見つめると、思わずため息をつきたくなった。
「はぁ」
いや、もうついてしまった。憂鬱だ。
そんな風にしていると、羽ばたきの音が頭上から聞こえてくる。
白い鳩だ。
鳩の足には紙切れがあった。
私の肩に止まった鳩から、紙切れを受け取って読むと、そこには近隣の魔物の出現状況が記されていた。
そこにはスライム増殖の件も記されている。
この情報を生かすには、少々伝達が遅かった様だ。
間の悪さに苦笑する。
一日の中で二度も鳩が飛んでくるなんて珍しい。
王族の情報網も、そう暇ではないはずなのに。
手紙の最後には一言。
「罪と業の周辺に気を付けろ?」
そんな暗号めいた文言が載っていた。
「先生のこと? これだけじゃよく分からないわね」
情報不足もいいところだ。
とりあえず私は、目的の場所へ足を進める。
集合場所へと向かう頃には、大分日が暮れて来ていた。
小さなランタンの明りを頼りにくじ引きをして、二人一組の班になる。
そうやって組み合わせを決めた後には、また別のクジで順番決め。
ステラはライドの組。
ニオはツェルトと。
ライドとツェルトが互いのクジをかなりの執念で異様に交換したがっていたのだが、不正は無しだと初めに決めたのでそのままで続行となった。
「くそう、俺はステラと一緒が良かったのに、ちくしょうっ!」
「もう、ツェルト君まだ言ってるんだから、クジなんだから仕方ないでしょー。ほらニオ達の番、行くよ」
「ぁぁぁぁぁぁ……」
ツェルトの声が世闇の中に木霊してちょっと不気味。
なんて言ったらさすがに可哀想だろうか。
これが終わったら、少しだけ話し相手をしてあげる事にしよう。
ツェルトが煩くなったら、私が話相手になってあげれば収まるって先生も言ってたし、愚痴とか聞いてあげると心が軽くなるっていうから、そういうのだろう。
やがて、姿が見えなくなって。それからも他の班の数組が出発していく。
「次は私達の番ね」
「俺もニオちゃんが良かったな」
「ライドまで……仕方ないでしょう」
友達だからだろうか。
往生際が悪い所がツェルトとそっくりだ。
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