第102話 102 お姫様

 

 その頃、大臣達は魔法学校に立ち寄っていた。

 敗戦の色が濃く為ったとの報告に、大臣が急遽、寄ると言い出したのだ。


 一人、女子の方の学校に入っていく大臣。


 村では頭目達が頭を寄せあって呆けていた。

 今の仕事に意味が無くなりつつ有ると聞いたからだ。

 

 その中でフローラルは一人、ただ鼻をホジって居た。

 息もしていない癖に……半分もげているのに。

 国の事など、どうでも良いのだろう。

 それを態度で表していた。




 校舎を歩いていた大臣が、校長室に入る。

 

 「姫に会いに来たのだが……呼んで貰えるか?」

 扉を開けて、開口一番。


 突然の来訪者に一瞬驚いて見せた校長は、そのまま頷いて、部屋を出る

 そして、廊下を歩く生徒に声を掛けてまた戻って来た。

 

 部屋に居る大臣に。

 「お久しぶりですね」

 ニコリと微笑み。

 「あの時以来ですか?」


 「ああ、王子を無くしてからは一度もだったな」

 大臣に笑顔は無い。


 「貴方の息子もでしょう」

 方眉を上げて。

 「王子よりも息子の方を先に言わないと、可哀想よ」


 「そうだな……」

 遠い目をしながら。


 「酷い事故だったモノね……」

 しみじみと。


 大臣の眉が動いた。

 だが、言葉は発しない。


 それを見咎めた校長先生。

 「……まだ、疑っているの?」

 溜め息一つ。

 「秘密警察まで作って……証拠がでなかったのでしょ。犯人、らしき人物もわからずじまい」


 「魔法実験室での爆発なんて……有り得ん」

 呻くように。


 「でも……学校の中よ……暗殺の方が有り得ないわ」


 「イヤ、犯人は居る! 何が何でも見つけ出してやる」

 声を荒げた大臣。


 そこに入ってきた女生徒二人がその声に驚いた。

 その二人は、ジェニファーとエマだった。


 「校長先生、お呼びですか?」

 ジェニファーが。


 だが、すぐにエマが。

 「マルクス叔父さんですよ」

 と、ジェニファーに伝えた。


 頷いた大臣、笑顔に為る。


 振り向いたジェニファーが。

 「あら、本当」

 と、笑い。

 「影武者役は必要無かったですね」


 姫の方、詰まりは国王の娘はエマの方だ。

 そして、ジェニファーはもう一人の大臣の娘……そして、ここでは姫の影武者だ。


 ゾンビ大臣の息子も、王子の影武者だったのだ。

 亡くなるその日まで……。


 「私になに用ですか?」

 エマが大臣に問う。


 「国が危ないのです」

 

 「それが何か?」

 エマもわかって聞き返しているのだろう。

 

 「いざと為れば、国を継いで戴きたい……その、心積もりをお願いに参りました」


 「……」

 やはり、と言う顔。

 「嫌よ……」

 そして、キッパリと。


 目を瞑り考えていたジェニファー。

 「私からも、お願いします……姫様」

 と、頭を下げた。


 それをジロリと睨み。

 「ジェニファー……止めて。イヤなモノは嫌なの……兄様を、見殺しにした国なんて……絶対に継がないわ」


 そのエマを見ていたジェニファーは知っていた。

 兄様と言いながら、実は影武者の方、目の前の大臣の息子の事が好きだった事を。

 その両方を一度に失い、それが有り得ない事故だと聞かされた時から、父……国王の事が嫌いに為ったのだ。

 そして、この国も一緒に。 

 すべてはその二つが原因だと思い込んでしまっている。

 実際に事故では無いの為らば……その通りなのだが。


 だけど、わかっては要るのだけど……でも。

 目の前の大臣が頼みに来ると言う事は、その個人の感情が許されない様な事が起こる可能性が有るとの考えなのだろう。


 「大臣、私が説得しますので……少しお時間を頂けますか?」

 ジェニファーが大臣に頭を下げる。


 少し、考えて。

 「うむ、お願いしても宜しいか?」

 その大臣もジェニファーに頭を下げた。


 話は終わったと、部屋を出ようと扉に手を掛けた大臣に。

 「父は……元気でしたか?」

 と、ジェニファー。


 その問いに振り向いて。

 「ええ、元気にされていましたよ」

 最後に会った、その時には……だが。

 死んだとも、怪我をしたとも連絡もないので、今も元気な筈だ。

 ……。

 自身の率いた兵士達を置き去りにして、逃げはしたが。

 逃げたのだから、生きている。

 その事は、今ここで娘に言う事でも無いと。

 頷いて、校長室を後にした大臣。

 


 頭目達と合流して、すぐに出発した。

 骸骨の元へ、プレーシャで孤立した兵士達を救いに。

 例え国が負けても、それだけの戦力が在れば……交渉の余地も有るだろう……そう思いたい。

 何処かの国に飲み込まれるのでは無く、ロンバルディアの国として残せる手段を考えたい。

 その為にも軍事力だ。

 そして、ルイ王が大臣に化けて交渉していた、あのレジスタンス・グループを使わさせて貰おう。

 姫を女王にして、独立解放を謳うのだ。

 それしか、無いだろう。


 バスは、森の端に差し掛かった。

 




 ルイ王はプレーシャの町を、釣竿を肩に担いで、新聞を読みながらに歩いていた。

 「間に合わなんだか」

 そう言った、その顔は別段、悔しそうでも無い。


 「国が取られるのなら、また取り返せば良い……国が滅びるならば、新しく造れば良い……残るのなら、それも良し」

 頷いたルイ王。

 「良し、今日も釣るぞ」

 と、川に向かって歩き始めた。


 「まだ、一匹も釣ってないのに」

 ヤマメクイが呟いた。


 もちろん、その声は骸骨の耳に届いたのだが……聞こえない振りで歩き続けた。

 



 

 男達は、マリーの仕事を眺めていた。

 と、言うよりも誰も手伝いすら出来ない段階に入っていた。


 ジュリアも興味は有るようだが、サッパリわからないそんな顔だ。

 

 マリーと白衣のゴーレム達が、液体の入ったガラスの筒とそれが線で繋がる装置の様なモノの間を行ったり来たりしている。

 それも、ここに来てからズットだ。

 正直、退屈してきた。

 ……。

 大きなアクビが出る、そのアクビも何度目だろう。 


 その時、目の前にカラスが飛んできてロイドに化けた。

 小さいロイドだが、久し振りに顔を見た。


 「大変です」

 挨拶もなく、喋り始めた。


 「大変だね」

 男も、返した。


 「違います、戦争の事では無く、河津ダンジョンが現れました」


 その一言にその場の全員がロイドを見た。

 マリーもその手を止めて。


 「何処に?」


 「王都の真西です、ヴァレーゼと言う町の近くです」


 「それは何時の事?」

 マリーが近付き。


 「たった今です」


 「ここからだと、トラックでも半日……間に合うかしら」


 「わかりませんが、でも河津らしき人物はダンジョンに居ます」

 

 確認出来たのかと男は生唾を飲む。


 「行って見る?」

 マリーが男に聞いた。


 「ここは……もう良いのか?」


 「後はゴーレム達に任せれば大丈夫よ」

 そう言った後で、グルリと一回りを確認したマリー。


 「なら、行こう」




 男達はトラックを走らせた。

 

 「河津ダンジョン……今更だと思うのだが、なぜ今?」

 荷室に座り込み、男は呻く。


 「そうね、戦争の決着はもう付いて居るのに」

 マリーも首を捻る。

 「もしかしたら、この戦争は関係無いのかも……」

 

 「成る程」

 男は頷いて。

 「マリーとは違う形だが……少なくとも同じくらいはこの世界に居るのだろうから」

 少し考えて。

 「もう、何処の国とも関わりが切れてしまっているのかもな」

 

 「そうかも」

 マリーも考え込む。


 「そうなると、奴の目的は……」


 「貴方、しか無いわね」


 「そうなるか」

 何処の国も関係無いのに、わざわざこの国でダンジョンを造るのだから、他に理由も無いと思う。

 そして、その目的が俺だとして。

 奴はネクロマンサーの能力が欲しいわけじゃないのは知っている。

 前回に酷い目に有っているのは、マリーに聞いているのだから。

 それでも着け狙うのら、単に私怨か? 遊んで居るのか?

 どちらにしても、男自身は身に覚えの無い関係も無い事なのに……迷惑な話だ。


 

 そして、ダンジョンに辿り着いた男達は、それを見ていた。


 今回は、ほぼ高低差は無い。

 グルリと見える範囲を見ても段差が数十センチの高い低くが見えるだけ。

 サイズも極端に小さい。

 そして、その場所なのだが……巨大な遊園地。

 ネズミのテーマパークか? 確か36年前に出来た筈だ。……37年?

 とにかく、それぐらいだ。

 それを知っている河津は、それ以前に転生したわけでは無いと言う事だ。

 知識もほぼ現代人と為る。

 男達と変わり無い。

 そんな奴がここに居る。


 いい加減に決着を着けたいところだ。

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