第91話 091 出兵式


 次の日にはコツメ達も帰って来た。

 ドワーフの里は変わり無く。

 そして、マリーの提案も普通にのんでくれたと言う事だ。


 コツメにしては上出来だ。

 思わず、頭を撫でて誉めてやったのだが。


 マリーが言う。

 交渉はゾンビ錬金術師に任したのだから、コツメはただ着いて行っただけよ、と。

 

 「チャンと仕事したもん」

 ブー垂れたコツメ。



 これで全員が揃ったので、随分と早いがベルガモに向けて出発する事にした。


 遅れて出て、徒歩で歩いている横をトラックで悠々と抜き去るのは悪い気がしたので、先に待とうと提案したのだ。


 マリーにどうでもいいのにと、突っ込まれたのだが……これは気持ちの問題だ。



 ベルガモの町にはまだ、正規軍がいた。

 と言っても今からの出兵なのか、大通りが封鎖されて、占領されていた。

 仕方がないので、大通りは諦め裏通りに入ろうとすると、コツメとジュリアがその行列を見たいと言い出し、その場で二人を降ろす事にする。

 この町は以前に来たので、宿屋は覚えているだろうからそこに帰ってくる様にと言っておいた。


 その宿屋、取れなかったらどうしようか? なんて、その時は考えてもいなかった。


 そして、宿屋は満室だった。

 無理だと追い出された男達。

 北の方の村の住人とかだが……他国の兵を見掛けたと不安に成ったと言って、逃れて来た人で溢れていたのだ。

 別段、危害を加えられたワケでは無いようだが……。

 それでも平静では居られないのだろう。

 気にならない人達も、居ても少数の様だ。

 集団意識が働いたか?


 仕方が無いので、その店先でトラックを停めて、コツメ達を待つことにする。

 今晩は、近所の野原での夜営に成りそうだ。

 


 

 その頃、コツメとジュリアは正規兵の出兵式を、通りの脇の人だかりに紛れて見物していた。

 王都を出る時はやっていなかったのだが、それは王の目が有るからなのか? 

 前回は盛大にやったと聞いていたのに、その後での孤立。

 責任の追及までは無かったが、明らかにこちらの大臣のせいだと思われているのだろう。

 なので、静かに王都を出て。

 そして、目の届かないここでやる事にした様だ。

 兵士の士気の為か?

 それとも、大臣の見栄の為なのかは、わからないが。


 それを、コツメは甘い串揚げドーナツを頬張りながら、手を振る兵士達に振り返していた。

 まるでアイドルのパレードの様だ。


 その横で、ジュリアのお腹が兵士達の出兵を祝うラッパの様に鳴っている。

 目はコツメの食べている、串揚げドーナツに釘付けだ。


 そんなジュリアに。

 「ねえ、あの人カッコ良くない?」


 そのコツメの言葉に、瞬く間に反応してそちらを見る。

 「どの人?」

 キョロキョロと探し始めたジュリア。


 「ああ、行っちゃった」

 もう、見えなくなったようだ。


 「えー……」

 ガッカリと項垂れて……腹を鳴らす。

 腹が鳴ったので、また、コツメの串揚げドーナツに目が吸い寄せられる。


 そして、コツメの、あの人が……と、始める。

 それを、隊列が終わるまで、何度も繰り返してやっていた。

 

 ジュリアも食べれば良いのに。

 そんなに太ってないと思うのだが……。

 女の子は、少しばかりはポッチャリの方が……と、男は思うのだが、それは地雷だと言う事くらいは知っていた。

 なので、何も言わない。




 コツメ達を待っている間、暇に為ったので骸骨に連絡してみた男とマリー。


 「どんな感じ?」

 マリーが聞いた。


 「順調じゃよ、エルフもバッタバッタと、倒しておるし……もうすぐ、プレーシャに入れそうじゃ」


 「ついでに国境の橋を壊して来て、私の爆弾で橋脚の部分をドカンとやれば、なんとか為るでしょ?」


 「そんな事をすれば、攻め難く為るぞ?」


 「攻め無いから良いんじゃ無いか?」

 男も口を出す。

 取り敢えずは、押し返すだけで十分だろう。

 どだい王はその気でも戦力が無い。

 それに、あの魔法銃……あれが一国だけとも思えない。

 魔法学校で見たあれは、明らかに量産品に見えた。

 それを持たないのは、ロンバルディアだけだと思われる。

 鎖国なんかするから……。

 隣近所の付き合いは大事だと思うぞ?

 なんて事を言ってみても始まらないか。

 しかし、戦力差は歴然だと推測出来てしまう。

 攻めいるなんてヤハリ無理だろう。

 



 そして、コツメ達と合流した後に、町の外に夜営出来そうな場所を探した。

 

 日も落ちて、適当な所にトラックを停めて。

 草原の少し丘になった所で火を囲み、ジュリアの作る飯を食う。

 

 「ベッドが良かったなー」

 コツメがブー垂れるが、別段怒っている風でもない。

 

 「夜に成ると冷えるね」

 コツメの事は放って置いて、適当な話を振る男。


 「アディジェが近いからね」

 と、マリー。


 その答えに男は首を傾げる。

 「気温が変わる程に北に移動はしてないだろう?」


 「距離の問題じゃ無いわ、アディジェが寒いのよ」


 「なんで?」

 標高が高いのか? でもそんなに登った記憶もない。


 「あそこは不毛の地でね、その原因は大地の魔素が極端に低くて、魔素がスグに地面に吸われるのよ、でその時にエネルギーもね」


 「詰まりは、熱エネルギーもって事?」


 「そう、太陽の熱もスグにね」


 「ふーん……」

 今一ピントこない。


 「そんな大地だから人の魔力も吸われてしまうの、だから、魔力の多いフェイク・エルフしか居ないのよ」


 「そんなに影響するのか?」


 「すぐには影響は少ないし大丈夫だけど……住むと成ると、人だとダルく為るのよ」

 

 「ふーん……草木は?」


 「それに適応したものが生えているわ、木は、主に針葉樹ね。冬は、雪深くもなるし、夏でも夜に為ると雪も珍しく無いわよ」


 「夏に雪って! それも、凄いな……それだけでも、住み難そうだ」


 「でも、そんな所だから魔物も少ないわよ」


 「流石に魔物も適応出来ないのか……」

 

 「そうじゃ無くて、魔素が少ないから魔物が湧かないのよ、餌に為りそうなものも少ないし……だから、適応出来そうな魔物がいても、余程の事が無い限りは住み着かないのよ」


 天然の魔物避け結界に成っているのか。


 そんな話をしていると、コツメがコクリ……コクリと、船を漕ぎだした。

 退屈な話だったのだろう。

 そんなコツメを抱えて、トラックの中に寝かしてやることにする。

 その後ろをジュリアも欠伸をしながらに着いてきた。

 二人して寝転がると、そこにマリーもまざる。

 

 男一人外に出れば、もう誰も居なかった。

 ピーちゃんの幌車に皆で潜り混んで居るようだ。

 ゾンビだけど、流石に羽毛は暖かいのだろう、カエル達もその柔らかい体に埋もれていた。


 男は仕方無いので煙草で一服。

 そして、寝ることにしよう。

 どちらで寝るかな?

 ピーちゃんの羽毛も捨てがたいが……少しばかり狭そうだ。

 ……。

 トラックの中にするか……。

 と、重い腰を上げた。



 

 良く朝。

 トラックはカエル達に任せて、男と娘達とゴーレム達だけでベルガモへ。

 歩いて町に戻ると後方任務の部隊が集まっていた。

 ベルガモ防衛部隊だ。

 その、後ろにソッとまざる男達。


 衛生兵部隊なので、注目されているわけでも無いからか、近場の者に挨拶をするだけ。

 その時に聞いたのだが、もうすぐに出発なのだと言う。

 危なかった。

 危うく置いてけぼりだ。

 

 と、そこへ隊長がやって来た。

 

 「やあ、合流出来た様だね」

 片手を上げて、軽い感じで。


 とても、軍人とは思えない。

 軍医か……。

 それでも、軍人には違い無い筈だが。


 「遅れてしまいました」

 とにかく頭を下げる男。


 「大丈夫、今からだから」

 ニコニコと隊長。

 「それより、昨日の出兵式は見た?」


 「いえ、見ませんでした」


 「あ、今来たのだものね」


 「いえ、昨日のうちに着いていたのですが、宿が取れなくて町の外で夜営を」


 「私は、見たよ」

 コツメが男の後ろから手を上げた。


 「おお、そお? 凄かったね昨日の」

 隊長も見ていた様だ。

 「この前程じゃ無かったけど、今回も良かったね」


 出兵式なんて、ただ並んで歩くだけじゃ無いのか?


 「うん、前のは見れなかったけど」

 ちょっと残念そうなコツメ。

 「兵隊さん達、カッコ良かった」


 「うんうん……あれは、憧れるね」

 大きく頷いている隊長。


 そう言いながらも、後方任務に志願したんじゃ無かったっけ? と男は思うが肩を竦めるだけにしておいた。


 「私達の為に戦ってくれるって感じが良いよね」


 「そうだよね」

 大きく頷く隊長。


 その時、笛が鳴った。


 「あ! 出発みたいだね」

 隊長は前の方を覗いて。

 「じゃあ、また後で」

 そう言って前の方に移動して行った。


 人混みに見えなく為ると。

 すぐに、部隊が動き出した。


 男達の時には出兵式は無いようだ。

 適当にバラバラと動くだけ。

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