第34話 034 三つ巴


 取り敢えず、皆で固まって中央を目指す。

 先ずは敵を知らなければ。

 男は蜂達に命じて索敵を開始した。


 歩き出してすぐ。

 『旦那、上です』

 ムラクモがビルの上を差す。


 男が見れば、一匹のカラスだ。


 『敵発見、ビルの中に無数の熱源反応あり』

 コチラは蜂だ


 男はその方向を見るが……そちらは見えない。

 どちらもほぼ同時だった。


 「カラスが魔物か?」

 遠すぎて良く見えない。

 「ビルの中にも潜んでいるのか?」


 『敵、移動速度、高速、追尾できず』


 「建物の中ではカラスはそんなに早く移動出来るとも思えん」

 頭目が首を捻りながらに。

 「コレは、別だな」

 と、半月刀を両手に構えた。

 二刀流か?

 ソレを合図に各々が武器を出す。

 剣に刀に槍にナイフ、すりこぎ棒。


 「詰まりは、二種類か……」

 男は武器は無いが……それでも姿勢を低くして構えた。


 その時。

 建物の影で何かが光った。

 そこへコツメが火の玉を打つ。

 炎の明かりがボヤっとその影を照らしだす。

 何も居ない様だ。

 

 だが、それに反応したのかカラスが一鳴き。

 カァー。

 しかし、そのカラスは動こうとはしない。


 また、コツメが打った。

 今度はビルの地下に続く駐車場のスロープ脇。

 黒い何かが影の闇の中で動いた様に見えたのだ。


 「まずいな……」

 頭目が呻く。

 「上を見ろ」


 男が見上げれば、カラスが増えていた。


 「アッ!」

 コツメが叫ぶ。

 「今、見えた」


 「何処だ?」


 「最初に打った場所」

 コツメが指を指して。

 「ネズミが居た」


 「もう一度打て」


 頷いたコツメが打つ。

 ボヤっと照らしたが、やはりか何も居ない。


 「二度目に打った場所のスロープの奥を打て」

 男はコツメの肩を叩いて指を指す。


 頷いたコツメ。

 火の玉が駐車場の中へと飛んでいく。


 突然にソコからネズミが一匹だけが飛び出してきた。

 ちょっとデカイ……猫程のサイズだ。

 大きさを見るに、ヌートリアの様でも有るが……細身の体と長い尻尾はサイズ違いのドブネズミの様だった。


 それにカラスが反応して鳴き声を上げながら、一羽が飛び立つ。

 男はもう一度、見上げると空には無数のカラス。


 「セオドア、石化だ」

 男は空を指し。


 「ぴよー」

 セオドアは上を向いて魔法を放った。


 バラバラと普通のサイズのカラスが数匹が落ちてきた。

 ソレでもまだ、大量に飛んでいる……イヤ増えている。


 石化して、落ちたカラスを盗賊ゾンビ達がトドメをさしてまわる。

 それを見たカラスの群れが急降下し始めた。


 「ぴよー」

 セオドアの二度目。


 急降下中のカラスの中で、運の悪い奴等がその勢いのままにアスファルトに叩き付けられる。

 その音と死骸に反応してか、影に隠れていたネズミ共が一斉に飛び出してきた。

 大量に群れている。


 「マリー、爆弾は?」

 男は少し慌てて後退る。


 「無いわ」


 「なぜ?」

 思わず叫んだ男。


 「寝癖が気になって、直してたら……造るの忘れた」


 「バカー」

 コツメがマリーを指差して叫んだ。

 その影でジュリアが小さく頷く。


 「今から造るわよ」

 マリーは慌てる様にして、鞄をひっくり返し中のモノをぶちまけながら。


 しかし、ネズミもカラスも待ってはくれない、唯一の救いは三つ巴状態。

 ネズミはカラスと男達に。

 カラスはネズミと男達に。

 男達はカラスとネズミに。

 もっと簡単に言えば近くの敵にだ。


 アルマが1人飛び出した。

 そのアルマにネズミがタカる……だが固い鎧なのだ、全く歯が立たない。

 ソコにコツメが氷手裏剣を連射する。

 

 セオドアは蜘蛛の糸でビルを支点に飛び回る「ぴよー」と、叫びながら石化と細剣でカラスを叩き落としながら。


 蛙達とゴーレム達も固まりながら次々と倒していく。

 盗賊ゾンビ達はほっといても強かった、頭目を筆頭にコチラも次々と。

 闘えない男を守りながらだ。


 だが、ソレ以上に数が多い。

 多すぎる。

 一向に減る気配がない。


 「ムラクモ、倒したヤツを男に寄越せ」


 スグにムラクモ自身が男の所に来て、舌を飛ばした。

 引き寄せたネズミに男は呪文を掛ける。

 そのネズミ、むくりと起き上がりスグに攻撃に参加する。

 次はカラスだ。


 その合間。

 「爆弾1個」

 と、男に手渡したマリー。


 その爆弾を起き上がったカラスが飛び上がって掴み、適当に密集している所に落とす。

 爆風でネズミとカラスが四方に吹き飛んだ。


 男は次々に呪文を掛ける。


 マリーも負けじと爆弾を造る。


 徐々にだが、形勢がコチラに傾いてきた。

 ネズミもカラスもゾンビ化して強く成っている様だ。

 イヤ、倒していくから強くなっていくのか?

 どちらにしても、一対一では確実に勝てる。

 問題はその数なのだが……。


 しかし、ソレも時間が解決してくれる筈だ。

 続々と増えるゾンビネズミとゾンビカラス。

 

 だがソレを待つつもりもない。

 「セオドア」

 「ビルとビルの間に粘着糸を張りまくれ」

 「空からの攻撃を遮断しろ」


 わかったとばかりに、飛び回るセオドア。


 「蜂達は糸に絡んだカラスに毒張りだ」

 

 「粘着」

 ポンと手を叩くマリー。

 また、何かを造り始めた。


 丸い玉だが、爆弾とは違うようだ。

 もっと早く大量に作れている。

 ソレを男に手渡して。


 「出来るだけ遠くに投げて」


 男は頷いておもいっきり投げた。

 ソレは空中で破裂して粘りけの有る糸の様なモノが四散した。

 それにネズミ共が絡まり身動き出来なく成っている。


 「ドウ」

 胸を張るマリー。

 「名付けて、納豆爆弾よ……しかも、強燃性!」

 ニマッ。

 「コツメ、火を着けて」


 その場が爆発するように一気に燃え上がりネズミを焼いた。


 「どんどんいくわよ」

 納豆爆発の大量生産に取り掛かるマリー。


 ソレをゾンビカラスに任し、男も引き続きゾンビの大量生産。

 辺りは納豆の糸だらけ。

 ゾンビだらけ。


 壮観だ!

 思わず声が出る、

 「フッ……ハハハハハハ……」

 男は仁王立ちに成り。

 「ネズミ共もカラス共も、みんな食い尽くせ!」

 胸を剃らせて両手を掲げて見せる。

 「焼き尽くせ……」

 その言葉を最後に男の意識が飛んだ。

 とてもいい香りと共に。




 目が覚めると男は、やっぱりグルグル巻きにされて転がされていた。

 その場所は、そのままダンジョンで……皆で男を囲んでいる。


 「魔物は?」


 「粗方、倒したわ」

 男の問いにマリーが答える。


 「ネズミの通りそうな所に納豆爆発の糸を張って隔離した」

 頭目だ。

 「カラスはセオドアの糸で降りて来れない」

 ゾンビネズミとゾンビカラスを指差して。

 「後は、新人ゾンビ達に任せとけば、十分だ」

 そう言いながらもジッと男を見ている。

 今、危険なのはアンタだと言いたげな目だ。


 「俺は、もう大丈夫だ」

 男は大きく息を吐いて。

 「少し高揚しただけだ」


 一番近くに居たマリーが男の目を確認して。

 「セオドア、ほどいてあげて」


 「良いのか?」

 躊躇するセオドア。


 「暴れても、この中で一番弱いのだから大丈夫でしょ」

 笑ったマリーは男を指差して。

 「その時は、取り押さえればいいのよ」


 「確かに」

 セオドアも笑いながらに糸を解く。


 同じく確かにと男も思う。

 奴隷印で命令しても、しっかりと意識を持ったコイツらには抵抗されてしまうし、拒否される。

 最弱の勇者は、伊達ではないか……。

 


 男はゆっくりと立ち上がり。

 そこらの適当なカラスの死骸からスキルを取り出した。

 声真似、遠距離通信、言語短縮、画像記憶、急降下攻撃、高速飛翔の6個だ

 その全部を蜂達にやる。

 セオドアにも急降下攻撃と高速飛翔コレは使えるのかはわからんが……糸を使って飛んでいたのは確かだ、まあもしかしたらでも良いだろうとしたのだ。

 ムラクモには急降下攻撃、前に一度ソレらしい事をやっていた。

 ネズミ達に声真似、遠距離通信、言語短縮、画像記憶。


 次にネズミ。

 繁殖力、短縮寿命、夜眼、ウオーク、出っ歯再生、ミニマム、高速移動。

 役に立ちそうも無い。

 取り敢えず、ウオークと夜眼と高速移動をゴーレムとゾンビ達に。

 ミニマムは、蜂達とカラスにやった。



 ほとんど適当だ。

 誰も欲しがらないから、相性の良さげなのを配っただけ。

 ネズミもカラスも死骸はソコいらじゅうに有る。

 男はポケットから出した煙草に火を着けた。


 少し落ち着いた。


 辺りを見渡す。

 今はもう静かだが。

 ヤハリ転生者の死体が痛々しい。

 ソコはもう死の街だった。



 そして、男達はダンジョンを出る事にした。

 ネズミとカラス、それぞれ5匹づつ連れて、残りはここの掃除を任す事にする。

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