第26話 026 最初の仕事
翌朝。
男達は叩き起こされた。
泣きながらのお嬢様にだ。
話を聞くに、末娘がまた誘拐されたのだとか。
昨晩は見掛けないのだけど、また自室に籠ってしまったのだと思い自分は寝てしまったのだと。
先の誘拐以来うわ言のように、骸骨がぁ、骸骨がぁと、うなされる事がしばしばで、そのせいで夜は寝られずにいましたから、寝れたのなら起こさないようにと、そのままにしてしまいました。
父も一晩中に書斎に籠り考え事をしてしまいましたら、今朝に成って手紙が投げ込まれまして、気が付きました。
と、こんな感じだとコツメが通訳してくれた。
泣いて、慌てて、支離滅裂な言動……俺にはわからん。ナニ言ってるのかサッパリだ。
が、一大事なのは確かだろう。
服をひっ掴み、館の主の元へと男は走った。
玄関ホールの中央で羊皮紙を握りしめワナワナと震えている館の主。
「何故……ソフィーばかりがこんな目に」
末娘の名前か?
初めて知ったが、そんな事はどうでも良い。
「また、拐われたと聞いたが」
男は主人の目を見て。
「本当か?」
「冒険者どの、今朝にコレが」
館の主人は、震える手で差し出した。
ソレは見ずに。
「要求は?」
「金貨50枚と……」
「昨日の話にそのままか!」
驚いた男は思わず叫んだ。
そして……。
「なら、その話……俺がのってやろう!」
「ナニを……」
主人が言い掛けた言葉を遮り。
「金貨10枚で、保険を掛けろ」
男は主人にそう言って。
「その保険。俺達が受ける!」
そう宣言して、皆の所へ踵を返す。
部屋に入るなり男は叫ぶ。
「仕事だ!」
ぐるりと見渡し。
「準備しろ」
ポカンとコチラを見ているコツメ。
股をおっぴろげて大事な所も隠さず寝ているマリー。
その二人以外はそそくさと出発の準備を始める。
俺達は基本的に雑魚寝だ。
それは何時も荷車やトラックの荷箱で寝ていたので気にもしない。
今回は館の主人の好意で幾つかの部屋を用意して貰っていたのに……何故か一部屋で皆がいっしょくたに寝ている。
まあ男にとっては異世界なので独りは不安だというのもあるし。
こちらの世界の住人のコツメは知らない人の他所の家では寝れないのだそうだ。
カエル達は床が在れば何処でも一緒だと言うし。
蜂達は結局はフードの中。
そして……マリーは、良くわからんが男が寝る筈のベッドのど真ん中を占領していた。
いろいろと意味がわからん。
そして一番わからないのがその寝相だ。
男はそんなマリーを見て。
マリーよ……いい加減にパンツを履けよと、言いたいのは後回しにして叩き起こした。
寝ぼけたマリーを担ぎ上げ、コツメを引っ張り部屋を出る。
男は館を出る前。
通りがかりのロビーで、オロオロしている主に。
「心当りがある、大丈夫だ心配するな」
と、言葉を投げて飛び出した。
その心当たりなのだがソレは……今、目の前に転がっている死体だ。
「何?」
マリーが鼻を摘まんで。
「この死体は?」
「俺達が殺した、盗賊だ」
「うわ」
コツメは首をすくめ。
「虫が涌いてる!」
「コイツ等がソフィーを拐った犯人だ」
「死んでるのに?」
首を傾げるコツメ。
「最初の誘拐の方だ」
「じゃぁ、関係無いんじゃない」
マリーは、まだわかっていない様だ。
「そうか?」
男は首を振り。
「同じ人間を短期間に拐う様な偶然は無いだろう? コレは、ソフィーだけを狙った誘拐だ。その狙った理由がわかれば居場所もわかるだろう」
「成る程」
頷くマリー。
と、その他全員。
「でも、どうすんの?」
コツメ。
「こうする」
と、男は呪文を唱えた。
「アンテッド召喚」
魔方陣が光り……そして腐った盗賊が起き上がった。
「うわっ」
一気に拡がる臭いと虫に皆が遠巻きに逃げる。
「なんて事をするのよ!」
マリーが腐った盗賊を指し。
「もう少し考えなさいよ!」
「ナンだよ、自分だって」
死んでるじゃないかと、言いかけた男だがそれは流石に辞めにした。
ゾンビでもマリーは仲間だ。
「全く違うわよ」
しかし、その当のマリーは男の言いかけた事を察した様だ。
「私は、新鮮な死体」
自分を指し。
「ソイツは腐った死体」
動き出した死体を指差して。
自分でソレを言うか?
男は二の句が告げなくなってしまった。
「ナンだよ、人を無理矢理に起こしておいてその言いぐさは」
腐った盗賊だ。
男とマリーのやり取りに、ぼそりと舌打ちをしつつだった。
それに最初に反応したのは……。
「ギャー喋った」
コツメがトラックに逃げ込んだ。
だから……マリーと同族だって……。
まぁイイ。
「ところで……聞きたい事が有る」
男は腐った盗賊に向き直り。
「ソフィーを拐ったのは、何故だ?」
腐った盗賊は男の召喚魔法で起き上がったのだ、だから今は男が使役している事になる。
一応は主だ、嘘偽り無くに答えてくれるだろう。
「ソフィー?」
腐った盗賊が首を傾げた。
その拍子に体にたかる虫が舞う。
「幌車に押し込めていた、娘だ」
「ああ」
ポンと手を叩き……虫が舞う。
「あの娘か?」
頷いて……虫が舞う。
「アレは、兄貴の指示だ。兄貴ってのは、俺の兄ちゃんで盗賊の頭目ナンだぜ!」
パンと胸を叩き……虫が舞う。
男は鼻を摘まみながら、空いた手で虫を払い。
コイツ、わざとか?
と、訝しんで腐った盗賊を睨み付けながら。
「その理由は聞いたか?」
「イヤ」
ピョンと跳びはね、ドンと着地。
「そんなどうでも良い事を聞くわけ無いだろ」
わざとだ!
「ガハハハ」
口から笑い声と共に虫を吐き散らかした。
取り敢えず、盗賊のアジトを目指す事となった。
ソフィーの事は、その頭目の兄貴に聞くしか無いだろうからだ。
道案内は勿論、腐った盗賊だ。
が、コレは非常にもめた。
マリーとコツメがトラックには絶対に乗せないと鍵を閉めて立て籠り。
ジュリアは幌車でヒヨコをけしかけた。
シグレはバイクでとっくに逃げている。
協議の結果、トラックの屋根の上で妥協させるのが精一杯だったのだが、今度は、ブツブツと文句を言う腐った盗賊を説得するのがまた、苦労させられた。
使役する側とされる側……いったいドッチに主導権が有るのか? と、悩まされる男だった。
その盗賊のアジトは山を2つほどを越えた先の谷にあった。
今、男達はソコを見下ろせる谷の上に居る。
そこから見える盗賊のアジトは、幾つもの小屋と塀と柵で複雑な道順をつくっていた。
小屋の壁と塀は見た目に頑丈そうだ。
幾つかの見張りやぐらも見える。
全てが木製なのだが。
完全な砦だ。
「盗賊どもは、何人ぐらい居るんだ?」
男は腐った盗賊を見ずに聞いた。
「沢山だ」
その腐った盗賊からの返事と同時にフローラルな香りが漂った。
それは道中でマリーが造った消臭剤の臭いだ、殺虫成分入りだと自慢げにしていたが……確かに虫も居なくなった様だ。
「頭目……兄貴は何処に居る?」
「あの奥の小屋だと思う」
指した先には一回り大きな建物があった。
男はソレを確認して頷いた。
少し影に隠れた男達。
「さて、作戦だが」
皆を前に男は話し出す。
「待って」
マリーはソレを遮ってゴーレム達を手招きした。
呼ばれたゴーレム達は、ソレゾレに木箱を持って来る。
見ると、中には黒っぽい丸い玉が箱一杯に入っている。
ソレが二箱。
「なんだ?」
男は玉の1つを手に取り。
「爆弾よ」
「ほう」
少し考えて。
「癇癪玉はまだあるか?」
ニヤリと笑う。
「殲滅作戦開始だ!」
先ずは、男が癇癪玉を投げた。
狙ったのは砦の真ん中。
大きく響く音に、盗賊達が建物から飛び出して来る。ゾロゾロ居た。
「ジュリア! ヒヨコに石化を……セオドアもだ!」
「ぴよー」
ヒヨコのクチバシに魔方陣。
ソレを真似してセオドアも
「ぴよー」
流石にこの数だと、何人かは固まった様だ。
盗賊達が右往左往し始めたのが崖からでも良く見える。
「コツメ! 手伝え」
と、そこへ爆弾を投げ込む男。
二人して一箱を投げまくった。
ドカンドカンと結構な威力だ、小屋が簡単に吹き飛ぶ。
そして盗賊達は大混乱だ。
それを見た男が叫んだ。
「アルマを先頭にゼクスとシルバは突撃開始」
砦を指し。
「切り込め」
そして男は次々と指示を出す。
「ムラクモとシグレは、透明化で援護しろ。蜂達は、遠距離攻撃を阻止せよ。コツメは……適当に火を着けて回れ」
「コツメは俺に任せろ」
セオドアがコツメを抱きかかえてから、見張りやぐらを支点に次々と糸を飛ばして飛んで行く。
その姿はヤハリ、アメコミだ!
コツメはその状態で火の玉を撃ちまくる。
直ぐにアチコチから火の手が上がった。
「あなた、火が好きねぇ」
それを見て、マリーが笑った。
男は煙が立ち込めるのを見て。
「俺達も行こう」
爆弾の箱を腐った盗賊に持たせて走り出す。
アルマ達が作った道を通って砦に飛び込んだ。
途中途中で、飛び出して開け放たれた扉に爆弾を投げ込み、小屋を吹き飛ばしながら進んだ。
しかし、そんな事をする迄も無くアルマ達は強かった。
剣も槍も通さない。
流石に高級品の鎧だ! 硬い。
そしてアルマが目立つスキル、蛍火を使って引き付けた盗賊達をゴーレム達が加速で斬って捨てる。
その三人の後ろに回り込もうとした盗賊が居たが、それ等は呻いて倒れていく。
透明化したムラクモとシグレが殺ったのだろう。
完璧だ。
一歩一歩確実に前進し、その後には死体の山だ。
そして男は、その盗賊達の死体に片っ端から呪文を掛けまくる。
もちろんそれはアンテッド召喚だ。
続々と寝返ったゾンビ達がアルマに加勢し始めた。
頭目が居る小屋の前まで来る頃には、溢れたゾンビ達が適当に徘徊しているほどになった。
アンテッド・ハザード? いや、ネクロマンサー・ハザード! 状態だ。
しかし、これだけのゾンビを召喚出来るとは自分でもビックリだ。
コレは、蜘蛛達がしっかり仕事をしてくれている、そのお陰だろう。
今度、会った時には何かご褒美をやらねば、ボーナスだ。
等と考える余裕も有る男だった。
そして、全員で小屋を取り囲む。
後は、頭目をふん縛るだけ。
それで俺達の勝ちだ。
男の頬に笑みが溢れる。
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