第23話 023 決意

 

 「さて……コツメ君」

 蜘蛛の糸でグルグルのす巻きにされ、両崖から真ん中に吊るされたコツメを見上げながら男は低い声を出す。

 「今、君が吊るされている……その理由がわかるか?」


 「反省してます」

 しょげかえってベソをかいたコツメ。


 「違うでしょ」

 キッと睨み付けるマリー。

 「先ずは理由を聞いてるのよ」


 「アタシが……我慢出来なかったからです」

 ボソボソと言葉を溢したコツメ。


 「前にも一度有ったよね」

 男は自分の肩を叩いて示し。

 「大怪我をしたろう」


 「はい……ごめんなさい」


 「あの時は痛かったろう」


 「うん……」

 グスン。


 「ソレをもう一度シッカリ思い出しなさい」


 「もうしません」

 半泣きで。

 「許して……下ろして」


 「今回は誰も怪我しなかったから良かったけど」

 ため息混じりのマリー。

 「誰かが怪我をしてたら、どうするツモリだったの?」


 「でも……」


 「でも? ナニ?」


 「ゴーレム達は簡単に直るし」

 ゼクスとシルバは基本……土塊だし。

 セオドアは縫いぐるみだし……。

 コツメはそんな事を考えているのだろうとまるわかりの顔で。

 「アンデット達はもう死んでるし」


 「………」

 ジーっとコツメを見詰めるマリー。

 「反省が足りないようね」


 「え!」


 「今晩、一晩そのままよ」

 マリーはそうコツメに吐き捨ててトラックの中に入って行った。

 

 「イヤー!」

 じたばた。

 「ゴキブリが出るー!」


 鶏を解体しながらソレを見ていたジュリア。

 隠れて小さくプププっと笑う。


 セオドアは先程に手にいれた鶏のスキルをコツメに試している。

 「石化! 石化!……」

 口の前に魔方陣が出ているのでスキル自体に問題ない様だが……。

 未だに一度も成功いていない。


 そんなセオドアをジュリアが呼んだ。

 ふて腐れながらブツブツと洩らしながらジュリアの元へと行くセオドア。

 そして、二人は何やら話始めた。

 半分のビルの屋上を見ながら。


 鶏のスキルなのだが、石化と、早起きと、ジャンプ、盲腸便、軟便、逃げ足、警戒心、神経質、クチバシ、体術だった。

 今回、一番活躍したセオドアに選ばせてやったらば、石化と逃げ足とジャンプと体術を持っていった。

 普通そうだよな?

 残りは録でもないと思いながらも一応は飴玉に変えたのだが。

 その内の軟便をジュリアが、どうしても欲しいと男に言ってきた。

 とても必死な眼差しに……どうせ捨てるかもだしと、くれてやる事にした男。

 しかし、何故そんなモノを……謎だ……。


 その二人、目の前に居たのだが。

 話終わったのか、セオドアが頷き。

 ジュリアを抱えて……抱えられて? 糸を屋上に飛ばしてスルスルと昇っていく。

 セオドアの蜘蛛の糸……何だかアメコミを想像出来る位に成長していた。

 

 さて、カエル達なのだが鶏に壊されたであろう、幌車を見ていた。

 さぞ悔しかろうにと、男が声を掛けようとした時。

 笑い声が聞こえた。

 二人して大笑いしている。

 そして、シグレはバイクの方に行き……ウットリ。

 ムラクモは鼻歌を歌いながらトラックに乗り込む。

 スロープを完成させて。

 ダンジョンからトラックとハーレーを出したのだ。

 

 そしてトラックもやはりかゴーレム化している様だ。

 ムラクモが運転出来ている。

 その運転の仕方は、男を見て覚えたそうだ。

 この二人乗り物に関しては優秀過ぎる。

 相当に好きなのだろう。

 イヤ、本能に刻まれてるのか? もしかするとそんなスキルが有るのかも知れない……ン? 

 そう言えば、マリーがそんな事を言っていたか?


 そして男は、その壊れた幌車の中を探った。

 荷物は多少は散乱してはいたがまだそのままだ。

 その中の……食べ物の入った木箱と飲み物の樽、その裏に手を突っ込む。

 その場所は、コツメが気に入って常にいた場所、つまりはここに……。

 探る手に触れるもの、ソレを掴み見てみるとヤハリだ。

 花柄の小さな巾着袋……中身は銀貨10枚、コツメにやったお小遣いだ。

 ソレを持ってコツメの所へと戻る。

 途中、蜘蛛を一匹呼んで、シクシクと泣いているコツメを下ろさせた。

 

 「ごめんなさい」

 地面に足を着けたコツメが謝った、腹の部分は糸でグルグル巻き状態のままで。


 「ホレ、コレ」

 そのコツメに花柄の巾着袋を渡そうとした時。

 蜘蛛が俺をツツいてトラックを指し示す。

 その先には、窓越しにコチラを睨んでいるマリーが居た。

 ソレを見た男は小さく首を振り。

 「まだ、お許しが出ないようだ」

 と、花柄の巾着袋をコツメの胸に押し込み。

 蜘蛛にもう一度、コツメを上にと命じた。

 

 泣きながら宙吊りにされるコツメ、しかしもう暴れる事はしなかった。

 しっかり反省はしているようだ。


 そして小声で男に

 「アタシのお小遣い……有り難う」

 半泣きで、半笑い。


 それに男は、頷いて返してやった。


 蜘蛛も小さく肩を竦める様な仕草をし、ゴーレム達と遊んでいる仲間の所へと立ち去る。

 

 それを見送った男。

 しかし蜘蛛達は一言も喋らないのは何故だろう? 

 念話は出来る筈なのにと考える。

 召喚した時を考えるに……ヤハリその直前の出来事が、何か反映されるのだろうか?

 確かあの時、ジュリアのチャンとした声を初めて聞いた……予想外に低い声に個性的だと思った。

 その思いが影響したのだろうか?

 もっと単純に直前に見たのが普段無口なジュリアだからか?

 セオドアの時もだが……ヤハリ良くわからない。


 等と考え込んでいると。

 いつの間にかに居たセオドアが男をツツいて。

 「チョッと来てくれ」

 と、屋上を指す。


 セオドアに抱えられて屋上に連れてこられた男は、驚愕する事に成る。

 ジュリアが黄色いヒヨコに追いかけられていたのだ。

 全長2メートルは越えるであろう、巨大ヒヨコ。


 「あの……ヒヨコはなんだ?」

 と、セオドアに尋ねる。


 「さっき迄は卵だったんだが……」


 「順を持って話せ」


 「ジュリアに屋上に鶏の巣を見付けたから、一緒に来てくれと頼まれたんだ」    

 と、指を指すセオドア。

 その先には、枯れ草と枝で作った巣と割れた卵の欠片があった。


 「その時はまだ、普通に卵だったんだが……ジュリアがその卵を調べながら、コンコンと叩いたらヒビが入って、中からあれが出てきた」

 両手を広げたセオドアは声のトーンを一段上げて。

 「ぶったまげたぜ」


 「ソレが何故にジュリアを追いかけている」

 ウーン……危険では無さそうに見えるが、魔物だしなぁ。

 

 「サァ」

 両手の平を天に向かって押し上げる仕草のセオドアは首を捻る。


 「ジュリアはどう思う?」

 走り逃げるジュリアに問いかけた男。

 だが、ただブンブンと首を横に振るだけのジュリア。

 理由はわからないらしい。


 そのうちに追い付かれたジュリアの襟をクチバシで摘まみ、自身の背中に放り上げ、その場でうずくまるヒヨコ。


 ジュリアが降りて逃げると、また追いかけて同じ事をする。


 「ずっとあれの繰り返しなんだ」

 ワケがわからんとセオドア。


 「ふーん」

 ヤハリ危害を加える気は無いようだ。

 と言うよりも……甘えてる? そんな感じにも見えた男だった。

 「親だと思ってるのか?」


 「なんだ? それは?」

 鼻で笑うセオドア。


 「刷り込みってヤツだ」

 ヒヨコと卵の欠片の入った鳥の巣を交互に指差した男。

 「鳥の習性だな、産まれて初めて見たモノを自分の親だと思い込む」


 「へぇ」

 セオドアは頷き。

 「なら、そうか」

 ヒヨコを指差して。

 「アイツが最初に見たのはジュリアだし」

 

 「しかし……コレは、どうしたものか?」

 ヒヨコに抱きくるめられているジュリアを見ながら男は唸った。


 「マリーを呼んでくる」

 そう言い残しビルから飛び降りたセオドア。




 「ありゃ」

 呆れるマリー。

 「ナニやらかしてンのよ」

 この光景を見た第一声だった。


 「こんな事に成るなんて」

 グスン。

 「思わなかったの」

 声は小さいが普通には喋れているジュリア。

 少し慣れてきたのだろうか?

 「ただ、卵を見付けたから、ソレを見に来ただけなのに」

 ヒヨコの羽毛に半分埋もれながら。


 「ウカツなのよ」

 と、近付いていくマリーを威嚇するヒヨコ。

 「オット」


 「完全に拉致られている」

 ため息を吐いた男。

 「どうスッかな?」


 「倒しちゃいなさいよ」

 クダラナイとばかりに吐き捨てるマリー。


 「イヤイヤ、それは」


 「ナニ? 同情してんの? 親を殺したから?」

 ヒヨコを指差したマリー。

 「確かにこの状況をみればそうね、卵を守ろうとしていたダケの必死な母親」

 そして男を指差して。

 「ソレを有無を言わさず、殺しちゃった」

 もう一度ヒヨコに指を戻す。

 「そんな、可哀想な境遇のヒナ」


 「ヤハリ……そう言う事か……」

 誰の目にもそう見えるのかと唸る男。


 「でも! だからナニ!?」

 ヒヨコを指差し。

 「コイツの親が私達に喧嘩を売ったのが先よ!」

 マリーの声のトーンが上がった。

 「勝てない喧嘩を売ったコイツの親が悪いのよ!」

 最後は吐き捨てる様にして。

 「自業自得!」


 「イヤ、それは親であって……コイツでは……」


 「アンタ!」

 右手の指で差し。

 「甘いわよ」

 左手は腰に当てて。

 「ここは弱肉強食の異世界なのよ!」

 胸を反らしたマリーは言い切った。

 「勝った者が正義なの!」

 ドーン。


 「……」


 「アンタ、いい加減にソレを受け入れなさい」


 「イヤ、異世界なのはチャンと理解している」


 「アンタのその格好……未だにコレは夢かナニかで、そのうちに目覚めるか? もしくは帰れる方法がスグに見付かるって、思ってるんでしょうけど」

 語気を荒めて。

 「そんなのは無理だから! 無いから!」

 

 「イヤソレは……」


 「思ってない? って言いたいの?」

 男を睨み付けるマリー。

 「でも心の底ではそう思ってるのよ……だから、その証拠に元の世界の服を未だに脱げないで居るのよ」

 フンと鼻息荒く。

 「甘えないでよ!」


 マリーの矢継ぎ早の勢いに飲まれた男は唸るしかない。

 確かに……そうなのかも知れない。

 言われるまでも無く半分夢うつつの様な感じが常にある。

 この現実が未だに呑み込めない。

 ソレは……ヤハリ、甘えなのか……。

 今の俺では駄目なのだろうか?

 しかし、だからと言って急に変われるもんじゃない。 

 ……。

 今度、何処かで魔法使いのローブでも手に入れよう。

 それは、少しでも変る為にも先ずは見た目からだ。

 この異世界の服を着て……異世界人に成るためにだ。

 そして今のこの世界が俺の世界だって言い切れる様に。

 生きていく為に。

 生き抜く為に。

 過去よりも今だ!

 

 「ゴメン、言い過ぎたわ」

 そんな男を見て落ち込んで居るように見えたのか、マリーが素直に謝った。

 「でも、もう少しだけシッカリしてよね」

 一息を着いて。

 「私達の運命は貴方が握ってるのだから」


 「ああ、その責任は果すさ」

 ハッキリと言い切った男。


 それに頷いた。

 「お願いだからね」

 男に少しだけ優しい目を掛けるマリー。

 そして。

 「それとヒヨコだけど、奴隷印を打ってやれば言う事も聞くんじゃない?」

 最後にサラッと解決策を提案するマリーだった。

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