第528話 トアたちの夏休み⑤ 旅先での一夜

 トアたちは夏のビーチを満喫した。

 要塞村での仕事を忘れ、ひたすら遊びまくった。


 気がつくと夕方になっていて、周りで同じように遊んでいた人々の姿も減っていた。


「はあ~……遊んだぁ!」

「わふっ! 疲れましたねぇ」


 体力自慢のクラーラやマフレナでさえ疲れるほど、五人は遊びまくったのだ。


「さて、遊び尽くしたことだし、宿へ戻るとするか」

「そうですね」

「明日は筋肉痛で苦労しそうね」


 逆に普段インドアで仕事をすることが多いエステルやジャネットは、同じようにビーチでの遊びを堪能したものの、ふたりともその反動を想像して苦笑いを浮かべていた。


 五人はヘトヘトの体で宿の部屋へと戻り、風呂に入ってから着替える。


「うあ~……このソファ……めっちゃふかふか!」

「ホントですね。素材は何を使っているのでしょうか」

「素材が分かったら再現できそう?」

「……クラーラさん? 私を誰だと思っているんですか?」

「天才ドワーフ少女のジャネットちゃん!」

「その通り!」


 テンション爆上がりのクラーラやジャネット。

 未だにリゾート地効果は続いているようだ。


 一方、トアは窓の近くに立ち、ジュースの入ったグラスを手に沈みゆく夕陽を眺めていた。

 すると、そこへエステルがやってきて、


「要塞村のことが気になるんでしょ?」


 と尋ねる。


「えっ? ……分かっちゃった?」

「何年あなたの幼馴染をしていると思っているの?」


 ドヤ顔で語るエステルに、トアは「勝てないなぁ」とため息をつく。昔から、エステルには自分の心が見透かされているんじゃないかってくらい、考えを当てられ続けてきた経験からくるため息だ。


「ごめん。ここへ来たら仕事のことは忘れるっていう話だったのに」

「大丈夫よ。――ねぇ、みんな?」


 エステルが他の三人へそう聞くと、全員が一斉に頷いた。


「黙っていたんだけど……私も部屋に戻ってきたら思い出しちゃったんだよね」

「わふぅ……私もです」

「ふふふ、みんな考えることは一緒ですね」


 五人で過ごしたバカンスが楽しかったのは紛れもない事実だ。本当にゆっくりと羽を伸ばすことができたし、もし可能なら、このバカンスは毎年夏の恒例行事にしたいくらいだ。

 みんなで騒いで、盛り上がって――で、部屋へ戻ってきて落ち着いたら、もう要塞村が恋しくなりつつあった。


 それくらい、自分たちの中で要塞村が占める割合というのは大きい。

 五人はそれを改めて実感していた。


「ねぇねぇ! 今日はみんな同じベッドで寝ない?」


 しんみりした空気の中、突然クラーラがそんな提案をする。


「お、同じベッドって――」

「いい案ですね、クラーラさん」

「えっ?」

「わふっ! 名案です!」

「えぇっ!?」

「トア……拒否権はないわよ?」

「えぇぇっ!?」


 問答無用――と、言わんばかりに、トアは四人に引っ張られて一番大きなベッドの真ん中へ寝かされた。


 周りを女子に囲まれて緊張するトアだが、結局いつもの空気で夜中までおしゃべりをした挙句、爆睡したまま朝を迎えることになったのだった。

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