第526話 トアたちの夏休み③ 楽園
パーベルを出発して数時間後。
昼過ぎになって、トアたちは目的地である島へとたどり着いた。
「思ったよりも近かったですね、トアさん」
「ああ、そうだな。これくらいの距離なら、何か非常事態が起きてもすぐに対応できる」
「もう! この島にいる時は仕事の話はなしよ!」
クラーラに怒られて、トアはハッとなる。
「わ、悪かったって。つい、いつもの癖で……」
「ま、まあ、そういう真面目なところもトアらしいといえばらしいんだけど……」
「ふふふ、確かにそうね。でも、今回はクラーラが正しいわよ」
「分かっているさ、エステル」
「わふっ! 船長さんが呼んでいますよ!」
マフレナの言葉に反応し、全員がその視線を追う。すると、ちょうど船長が到着を知らせに来たところだった。
「まもなく船をおりられますよ。荷物はうちの船員が責任を持って宿泊先へと運んでおきますので、先に言って受付を済ませてください。それが終われば、あとはこの島で自由に過ごせますよ」
「ありがとうございます」
船長からのアドバイスをもらってから、トアたちは船をおりる。
「う~ん……潮風が気持ちいわね~」
「わふっ! とっても綺麗な砂浜です!」
「本当ですね!」
「まるで宝石を散りばめているみたい……」
早速、普段見慣れない光景に興奮気味の女性陣。トアは「やれやれ」と思いつつ、四人を連れて世話になる宿へと向かった。
宿へと向かう道中、同じようにこの島へバカンスに来ている人たちとすれ違う。
その誰もが育ちがいいというか、いわゆる貴族なのだろう。明らかに一般人とは違う、優雅な振る舞いがそれを物語っていた。
「な、なんだか私たちって……浮いてない?」
「ま、まあ、一般の人たちもいるみたいだし」
トアの言う通り、全員が全員貴族というわけではなく、一般人と思われる人もわずかながら存在していた。
絵に描いたような常夏の楽園で、開放的な気分となっているが、そこはさすがに無礼講というわけにはいかず、一般人と思われる人々は専用のスペースでくつろいでいるようだ。
「こうしてみると、やっぱり身分の差っていうのがあるのねぇ……」
「要塞村のあるファグナス領の領主であるチェイス・ファグナス様はかなり理解のある方だからね。俺も初めてお会いした時はその豪快さに驚いたし」
八極のひとりである枯れ泉の魔女ことローザからの推薦があったとはいえ、見ず知らずの少年に旧帝国の遺産とも言うべき無血要塞の管理を任せたのだから、トアがそう思うのも無理はない。
普通なら門前払いを食らっていてもおかしくはないのだ。
そんな会話をしながら歩いているうちに、目的地である宿屋へと到着。
「「「「「おお!」」」」」
白を基調としたその立派な外観に、五人は声を揃えて感動する。
「ほ、本当にこれが宿屋なの?」
「貴族の別荘って感じですね」
目を丸くして見上げるクラーラとジャネット。
するとそこへ、
「お待ちしておりました」
宿屋からひとりの女性が出てきて、トアたちを出迎える。
「要塞村御一行様ですね? シャウナ様よりお話は伺っております。さあ、中へどうぞ」
「お、お世話になります」
いつもとは少し違ったもてなしに緊張しつつ、トアたちは宿屋へと入っていった。
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