第504話 新たな村民、そして宴会

 ヒノモト王国で起きた妖人族によるクーデター。

 その狙いはツバキ姫であるらしく、セリウス王国のバーノン王は彼女を「世界でもっとも安全な場所」と言い切った要塞村で保護すると、ヒノモト王へ提案した。


 それを受け入れる形となり、ツバキ姫は極秘のうちにヒノモト王国を脱出。トアたちとともに数人の妖人族を連れて要塞村へとやってきた。




 ――で、その要塞村では、村民たちが村長であるトアの無事を確認して喜んでいた。

 どうやら、ヒノモト王国でトラブルが起きたという話は先行して伝わっているようだったらしいが、肝心の安否は確認できていなかったようだ。


それから、トアによる事情説明がはじまり、やがて事情を知った村民たちの手によって、早速ツバキ姫たちを歓迎する宴会が開かれる運びとなった。


――数時間後。


 準備が整い、宴会が始まると、賑やかな騒ぎを聞きつけて、近くのエノドアやパーベルからも人が押し寄せてきた。


「要塞村の方が賑やかだと思ったら、トアたちが帰ってきていたのか」

「って、なんだか新しい人が増えてない?」

「しかもなかなかの美少女と来ている。これは是非ともお近づきに――って、いてて! なんで耳を引っ張るんだよ、ネリス!」


 エノドア自警団のクレイブ、ネリス、エドガーの三人も駆けつけていた。


「す、凄い……」


 その賑やかな光景を目の当たりにして、ツバキ姫は呆然としていた。

 噂に聞いていた通り、要塞村にはさまざまな種族がそれぞれ協力をしながら暮らしていた。


 エルフ族のクラーラ。

 ドワーフ族のジャネット。

 銀狼族のマフレナ。


 それ以外にも王虎族、冥鳥族、大地の精霊、モンスター、人魚族、ドラゴン、ユニコーン、魔人族に天使まで――ヒノモト王国では見かけない種族が当たり前のように生活していた。ツバキ姫にとって、それは信じがたい光景だった。


「私たち妖人族とヒノモト人がともに生活できるまで、何十年という時間が必要だったというのに……信じられない」


 それが素直な感想だった。

 風の噂で聞く限り、それはまさに理想郷と呼べる場所だと思っていた――が、噂というのは尾ひれがつくもの。そのような場所があるはずがないと、わずかながら疑っていた。


 しかし、そのような考えはあっという間に消え去る。


 要塞村は、噂で聞いていたものと寸分の違いなく、思い描いていた理想郷そのままだった。


「凄いのね、トア村長は」

「えっ?」


 村の案内役を務めていたトアは、いきなりツバキ姫からそんなことを言われて困惑する。それまで、自分のことなどまったく話題に出ていなかったので無理はない。そんなトアの様子を尻目に、ツバキ姫はさらに続ける。


「この村のこと……もっと教えてもらいたいわ」

「! 喜んで!」


 とりあえず、ツバキ姫は要塞村を気に入ってくれたようだと感じたトアは、クラーラ、マフレナ、エステル、ジャネットの四人を伴い、ツバキ姫や妖人族たちに宴会で盛り上がる村の中を案内して回るのだった。

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