第502話 ヒノモト王国へ⑮ 戦力集結
「ツバキ姫……」
妖人族にとっての最重要人物であるツバキ姫が、会談の場に姿を見せた。
「ど、どうして?」
「あら、私の今後を巡っての話し合いだというのですから、この場にいるのは必然というものですよ」
「えっ?」
トアは真意を確認すべく、バーノン王へと視線を移す。
それを受け、バーノン王は静かに頷いた。
「ヤツらの狙いは彼女だ。そこで、極秘裏に彼女と護衛の妖人族数名を国外へ一時避難させる方針となった」
「もしかして……その避難先というのが――」
「要塞村でどうかという話になっている」
トアの予感は的中していた。
彼女のような要人を守るのに、これ以上適した場所は世界の他にどこにもないだろう。そもそも、八極のメンバーであるローザとシャウナが村に住んでいるというだけで、大抵の者は手を出そうと思わない。
だが、ひとつの懸念が浮かんでくる。
「で、でも、大丈夫なんですか?」
「何がだ?」
「妖人族たちの狙いがツバキ姫だとしたら……移動してしまうのはまずいのでは?」
仮に、要塞村が妖人族の攻撃受けたとしても、難なく弾き返せるだろう。――だが、このヒノモト王国にそれと同じだけの戦力があるとは思えなかった。もし、妖人族と全面戦争となったら、相当な被害が予想される。
――そんな、トアの不安はあっさりひっくり返された。
「その点についてはご心配なく」
「相変わらず、お主は心配性じゃのぅ」
ツバキ姫に続いて会談の場へやってきたのは八極のふたり。
ヒノモト王国が誇る最強戦力のイズモ。
そして枯れ泉の魔女ことローザ・バンテンシュタインだ。
「イズモさん! ローザさん!」
「トアよ。この国のことならば心配ない」
「そういうことだ。――ナガニシ様、先ほどヤツらからの返事が来ました。こちらの申し出を引き受けてもらえるそうです」
「おお! それは実に頼もしい!」
イズモの語った、「ヤツら」と「申し出」というふたつの言葉――これだけで、トアは彼が何をしたのかを瞬時に悟った。
「ま、まさか……」
「気づいたようだな――他の八極たちを呼んだのだ」
《伝説の勇者ヴィクトール》
《死境のテスタロッサ》
《赤鼻のアバランチ》
《魔界女王カーミラ》
ストリア大陸にいるシャウナとガドゲル、そしてローザを除いた五人が、このヒノモト王国へ集うという。
「そ、その五人が揃うとなったら……」
思わず身震いするトア。
もし、この名前を耳にしたら、恐らくどの国の騎士団であっても裸足で逃げだすほどの脅威だ。何せ、世界を支配しようとしていた大帝国の軍勢をたった数人で壊滅寸前にまで追い込んだメンツだ。
トアでさえ、ローザやシャウナの真の実力を把握しきれていない。
それに匹敵する者が五人――これだけの戦力が揃うのであれば、このゴタゴタも速やかに解決へと向かうだろう。
だが、それまでに向こうが何の手立てもなく見物しているだけとも思えない。
こちらの戦力が整うまでの間に、総攻撃を仕掛けてくる可能性もある。
その際、イズモだけでは守り切れないかもしれないという不安から、トアたちの住む要塞村に白羽の矢が立ったのだ。
この要請に対し、トアは――
「分かりました。ツバキ姫を要塞村へと案内します」
迷うことなく受けることにした。
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