第495話 ヒノモト王国へ⑧ イズモの質問
八極のひとりである百療のイズモからもたらされた、ヴィクトールに関係する質問とは――
「ローザ……ヴィクトールと結婚したというのは本当か?」
ローザとヴィクトールの婚約についてだった。
「…………」
「どうなんだ? ヤツはこの前、嬉々として語っていたが……」
半ば呆れながらも、ローザはスッと左手を差し出す。その薬指には美しい指輪がはめられていた。
「!? ま、まさか、本当だったとは!?」
「どういう意味じゃ!?」
「い、いや、結婚したというのに、あいつの言動はまるで変っていなかったのでな。この前もたまたま出くわした賢者を引退したばかりだという男に勝負を挑んでいたし……」
「あのバカ……まだそんなことを……」
ヴィクトールの相変わらずな振る舞いに、ローザは思わず素の反応を見せる。
「その男もたいした使い手でな。多少加減をしているとはいえ、あのヴィクトールを相手にいい勝負をしていた。『時代が時代なら、おまえを八極のひとりとしてスカウトしたかった』とも語っていたぞ」
「むぅ……あのヴィクトールにそこまで言わせるとは……その元賢者という男もなかなか――って、違う!」
乗せられていたローザは冷静さを取り戻してツッコミを入れた。
「そんなことを気にして、わざわざワシを呼び止めたのか!?」
「そんなことと言うがなぁ……我らからすれば、一大事だぞ」
「我らって……」
「他の八極の面々だ」
「ぐっ……」
言葉に詰まるあたり、ローザとしても心当たりはあるようだ。
「そういえば……お父さんも似たようなことを言っていたような……」
イズモと同じく、八極に名を連ねるジャネットの父・鉄腕のガドゲルも同じようなことを思っていた――となると、他のメンバーもヴィクトールとローザの関係にはやきもきしていたのだろう。
「えぇい! ワシのことはどうでもいい! それより! 今日はワシよりもめでたい者たちがおるじゃろ!」
そう。
今日はツルヒメの妊娠を祝うパーティーが行われるのだ。
「そうだったな。……だが、次は是非とも君たちのおめでた報告を――」
「……灰にしてやろうか、イズモ」
「おっと、これは藪蛇だったか。――蛇といえば、シャウナは来なかったのか?」
「あやつはこういった舞台を好まんからな」
「言われてみれば」
それから、イズモは「また後で会おう」と残してその場を立ち去った。
「まったく……あいつは昔から……」
ぶつくさと文句を言いつつ、ローザは荒い足取りでトアたちをかわして先を進んで行く――と、
「あっ、ローザ殿」
「なんじゃ!」
「お部屋はそちらではなくこちらですよ」
「! そ、そういうことはもっと早く言わんか!」
明らかに動揺しているローザは足早にトアたちのもとへ帰ってくる。
「ローザさん、動揺してるわね」
「よっぽど心当たりがあるんだろうなぁ」
「でも、いつもと違う新鮮な反応ですね」
「わふぅ!」
「ああ見えて意外と心は乙女なのよねぇ」
「何か言ったか!」
「「「「「いえ、別に」」」」」
五人はそう答えるか、表情はニコニコと満面の笑みだった。
ちなみに、ローザは気づいていないが、後ろで一部始終目撃していたフォルとケイスも笑いをこらえるのに必死だった。
ひと悶着はあったものの、一行はジェフリーとツルヒメの待つ部屋へと向かった。
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