第492話 ヒノモト王国へ⑤ 到着! ヒノモト王国!

 一夜明けて、トアたちを乗せた船はヒノモト王国へとたどり着いた。

 荷物を下ろすのにしばらく時間がかかるということなので、しばらくは周辺の港町をのんびり見て回ることにした。要塞村の村長であるトアにとって、賑やかな他国の町を視察するのはそれだけで大きな刺激になる。


 ――が、その前にどうしても聞いておきたいことがあった。

 それを確かめるため、トアはタキマルのもとへ向かう。


「あの、タキマルさん」

「む? なんでしょうか?」

「実は、昨夜――」

 

 トアは昨日出会った、小さな角の生えた少女――ツバキについて尋ねる。


「おぉ、もうツバキ様にお会いしましたか」


 タキマルが「様」をつけて呼ぶということは、トアの睨んだ通り、ツバキという少女はかなり地位のある人物であることがうかがえる。


「一体、何者なんですか?」

「ツバキ様は妖人族の長の娘なんですよ」

「妖人族……」


 その名には聞き覚えがあった。

 ローザと同じ、八極のひとり――百療のイズモもまた、妖人族だ。


「妖人族って、つまり……イズモさんと同じってことですよね?」

「えぇ。――ただ、イズモ殿はずっと昔からヒノモト王家に忠誠を誓われており、妖人族とのつながりは薄かったようです」

「でも、この船にそのお姫様が乗っていたということは……」

「それは……」

 

 タキマルの言葉が詰まり、表情が曇る。

 どうやら、あまり触れてほしくない――それも、国家が絡む案件のようだ。さすがにそこまで踏み込んだ話はしてもらえないだろうと思ったトアは、あきらめてクラーラたちと合流しようとしたのだが、


「あなたにも知っておいてもらった方がいいですね」


 そう言って、タキマルは真相を語り始めた。


「ヒノモト王家とイズモ殿を除く妖人族は、長らく領地を巡って争っていました」

「! そ、そうなんですか?」

「はい。調べればすぐに分かることですので……」


 もともと敵対していたヒノモト王家と妖人族。

 しかし、今は少し状況が変わっているようだ。


「近年になり、情勢はヒノモト王家が優勢になりつつありました。これ以上の抵抗は無駄だと悟った妖人族は和平交渉に挑み、現在の領地を手に入れたとされています。これが大体百年ほど前の話ですね」

「百年前……ちょうど帝国との世界大戦があったあたりですね」

「そうです。実は、その和平交渉は大戦の始まる一ヶ月ほど前にまとまったと言われていまして、妖人族も戦力として連合国側に加わりました」

「そんな歴史が……」


 書籍だけでは伝わらない、戦争の裏事情。

 その手の読み物が好きなトアにとっては非常に興味深い内容だったが、深入りするには少し時間が足らなかった。遠くの方で、エステルたちが自分の名を読んでいるのが聞こえる。


 それを察したタキマルは、それからの話を簡潔に述べた。


「大戦後は妖人族とより深い交流が行われ、今ではこうしてヒノモト王家の船に妖人族の姫様が乗り込んで、他国を訪問するなんてこともあるんです」

「なるほど……ありがとうございます、タキマルさん。とても勉強になりました」

「どういたしまして」


 トアはタキマルに頭を下げ、エステルたちと合流すために駆けだした。

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