第489話 ヒノモト王国へ② 出航

 セリウス王国のバーノン王から推薦され、ともにヒノモト王国へと向かうことにトアたち一行は、移動に使用する船がある港町のパーベルまでやってきていた。

 すると、そこにはよく見知った顔が。


「トア村長! こちらです!」


 ヒノモト王国の商船に乗り、たびたび要塞村を訪問しているタキマルだった。


「タキマルさん、お久しぶりです」

「いや、本当に久しぶりですな。最近はなかなか忙しくて顔を出せず、申し訳ない」


 以前、タキマルやツルヒメの乗った船は賊に襲われた上に嵐に遭遇し、要塞村近くまで流されてきた。その際、要塞村の人々に助けられたことに今も深く感謝しており、さまざまな珍しい物を村長であるトアへ届けている。


 というわけで、今回、トアたち要塞村のメンバーがヒノモト王国を訪問することが決まり、いても立ってもいられず自ら迎えにやってきたのだ。


「それでは、船までご案内します」


 タキマルとその部下たちは要塞村の面々をヒノモト王国まで運ぶ船のもとまで連れていく。そこにあったのは、


「お、大きな船ですね」


 停泊していたのはトアたちが想像していたよりもずっと大きな船だった。

 バーノン王はセリウス王国が所有する専用の船で行くため、ここに乗るのはトアたちのみということになる。だから、もっと控え目なものだと思っていたのだが、少なくとも想像の倍はある大きな船だった。


「た、確かに大きいわ……」

「フェルネンド王国でも、ここまで大きな船は見たことがないわね」

「わふぅ……こんな大きな物が水の上に浮いているなんて……」

「ドワーフ族として、この技術力は是非とも吸収したいですね!」


 その大きさに圧倒されるクラーラとエステル。そもそも船というものを初めて見たという感じのマフレナ。そして、ストリア大陸のものとは明らかに構造の異なるヒノモトの船に、ジャネットは技術者目線で大興奮していた。


 ちなみに、こちらの船には現在要塞村で村医を務めているケイスも乗船する予定だ。

 今ではほとんど王家とつながりがないケイスだが、それでも第二王子であるため、当初はバーノン王と同じ船に乗るはずであった。


 しかし、ケイス自身がそれを断る。


「心遣いはありがたいけど、今のあたしは要塞村の一員だから」


 というシンプルな理由だった。

 フォルは帝国時代にこの手の船を何隻か目撃したことがあり、同様の理由でローザも反応は薄かった。


「では、乗ってください。バーノン陛下の船はすでに出港されたようなので、我々もそのあとを追いかけます」


 どうやら、バーノンはすでにセリウス王国を離れていたようだ。

 トアたちは荷物を預けると、船内へと移動。

 そこでも衝撃的な光景が待ち受けていた。


「うおっ!?」


 思わず、そんな言葉がトアの口から漏れる。


「ほ、本当に船の中なのか? まるで高級宿屋みたいだ!」


 トアが興奮するのも無理なかった。

 そこはとても船内とは思えない、豪華な造りだったのだ。

 

 ヒノモト王国へ到着するのは明朝ということなので、今日の夜はこの船の中で過ごすことになる。

 トアたちにとって、初めての船旅はこうして幕を開けた。


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