第445話 高原のドラゴン【後編】
「折れた角にもげた翼……相当な深手ね。体のサイズは私たちと比較すれば大きいけれど、まだまだ子どもよ。要塞村にいるシロちゃんと同い年くらいかしら」
「自然にこうなったとは考えられん。何者かの手が加えられているようじゃな」
「ドラゴンにここまでの傷を負わせるなんて……」
早速始まった、ケイスによるドラゴンの診療。
とはいえ、ケイスが本来相手にするのは人間である。それなりに知識があるとはいえ、ドラゴンの治療となると経験豊富な専門医が必要不可欠となる。
なので、今の段階でできることといえばドラゴンの状態を把握することなのだが、それによると、
「とはいえ、角と羽以外に目立った外傷はなさそうね」
とのことだった。
「それにしては元気がないようですね」
ジャネットが指摘した通り、角と羽の損傷は大きなケガではあるが、まったく動けないほどのダメージとも思えなかった。
「これ以上は専門医の判断を仰ぐ必要があるわね」
「ドラゴンの専門医ですか……」
「安心して。知り合いに伝手があるの」
なんとも頼もしいケイスのウィンクが炸裂。
とりあえず、命に別状もなさそうだということで、しばらくここで経過を見守ることにした――が、そうなると、緊急事態となった際、要塞村へ連絡を迅速に行うため、誰かがドラゴンを近くで見張っていなくてはならない。
その人選をどうしようか考えていると、
「ふむ……マフレナよ」
「わ、わふっ!?」
ローザがマフレナに声をかけた。
「あのドラゴンの見張りはシロにさせようと思うのじゃが……やれると思うか?」
「シ、シロちゃんにですか?」
同じドラゴンであり、しかも年齢が近い。
もしかしたら、人間である自分たちが見張るよりもいいかもしれない。
そんなローザの提案を聞いたケイスは、「うふふ」と小さく笑う。その仕草が気になったトアは尋ねてみることに。
「どうかしたんですか、ケイスさん」
「この子のことをシロちゃんに任せるなら、名前は決まったも同然と思ってね」
「えっ?」
「あっ、私、分かりましたよ」
首を傾げるトアの横で、ケイスの言葉の意図を知ったジャネットが手をあげる。
「ズバリ――クロちゃんですね」
「正解♪」
黒い鱗のドラゴンだからクロちゃん。
それは、シロの名づけの理由でもあった。
「白黒ドラゴンコンビか……うまくいってくれたらいいけど」
「見たところ、このドラゴンは女の子みたいだから、シロちゃんと恋仲になるかもしれないわね♪」
楽しそうに語るケイス。
さすがにそれは飛躍させすぎだが、そうなってくれたらいいなと願うトアだった。
後日。
シロを連れ、再びアーストン高原へとやってきたトアたち。
傷ついたドラゴンはケイスの手で応急処置が施され、現在は安静にしている。ケイスは第二王子時代のコネクションをフル活用し、腕のいいドラゴン専門医を手配。今はその到着を待っている段階だ。
ちなみに、シロとクロはトアたちの心配をよそにあっという間に打ち解けた。
クロは人間側が提供した食事をとるようになっており、着実に回復へと向かっているようだった。
「とりあえずは安心かな」
ホッと胸を撫でおろすトアだが……ドラゴンであるクロをここまで負傷させた相手のことが気になっていた。
果たして、それはヴィクトールたちが追っているという堕天使ジェダの仕業なのか。
今のところは何の情報も得られていないが、村民たちが安心して暮らせるように、情報を集めていこうと決めたトアであった。
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