第411話 新たな動き【後編】
領主チェイス・ファグナスの口から語られた、新たな都市計画。
「王子はこの地に旧帝国の鉄道ターミナルを再現するつもりでいる」
「ターミナル?」
「言ってみれば、ここがすべてのスタートであり終点――鉄道の中心と言っていいだろう。周囲には王都に次ぐ大都市を造る予定でいる」
「王都に次ぐ大都市ですか!?」
ヘクターは思わず声をあげた。
「そ、そんな大規模な計画だったなんて……」
「驚きですね……」
トアとレナードも、想像以上のスケールに驚きを隠せない。
「むろん、そのような大都市は家一軒建てるのとは訳が違う。王子は長期に渡る発展を視野に入れており、最初のうちは小規模の町から始めるつもりだ」
「長期的に渡る発展……王子はどれくらいを目途にしているのですか?」
トアの質問に、チェイスは含みを持たせたような笑みを浮かべながら答える。
「十ヵ年計画だ」
「「「じゅ、十年!?」」」
再び三人の声が綺麗に重なった。
「ああ、十年と言っても、基盤となる町が完成してからの十年だからな。その町の完成に五年かける予定だから、合計で十五年だな」
さらに期間が延びた。
と、ここで、パーベル町長のヘクターがあることに気づく。
「しかし……そのような大規模な都市計画をバーノン王子が手掛けるとなると……」
「ふふふ、さすがはヘクターだ。いいところに目をつけたな」
チェイスはヘクターが言わんとしていることを読み取っていた。
「鉄道都市計画が内密なのはもっともだが――こいつが機密扱いになっている最大の要因はさっき話した長期に渡るプランにある」
「と、いうと?」
「さすがに現国王の年齢を考えれば、十五年なんていうのは長すぎる」
「!? じゃ、じゃあ!?」
レナードが目を見開いて言うと、チェイスは静かに頷いた。
「……近々、現セリウス王国の国王陛下はその座を第一王子であるバーノン王子へ譲るつもりでいる」
「「「!?」」」
これまでで一番の緊張感が走る。
しばらく重苦しい沈黙が流れ――最初にそれを破ったのはレナードだった。
「お、王の座を譲るってどこか悪いんですか?」
「いや、そういうわけじゃない。単に衰えによる体力と思考力の低下を感じ、国王は自らその座をバーノンに渡す――言ってみれば、世代交代ってヤツだ」
現セリウス王国の王は、自身の衰えを感じ、潔く身を引く決意を固めたらしい。
「年内……今のところは秋頃を目途にいろいろと調整していくようだ」
「それじゃあ……秋にはバーノン国王陛下の誕生というわけですね?」
「気が早いぞ、ヘクター。……まあ、順調にいけばそうなるな。さっき町づくりも、その頃から本格的に取りかかる予定だ」
未だに信じられないといった感じの三人だが、同時にバーノン王子ならば次期国王として不安はないとも感じていた。周囲からの信頼も厚い彼ならば、表立って批判するような者はいないだろう。
ただ、それに際し、トアにはどうしても気になることが。
「あ、あの、ファグナス様」
「なんだ、トア村長」
「このことを……ケイスさんに伝えてもいいですか?」
バーノンの弟であり、元第二王子のケイス。
トアは、今や要塞村には欠かせない村医である彼に、実兄の大出世を教えてあげたいと思ったのだ。
「構わんよ。彼ならば情報の扱いは心得ているだろうからね」
「! あ、ありがとうございます!」
チェイスからOKをもらい、トアはホッと胸を撫で下ろす。
その後、ひと通り今後の計画について話し終えたチェイスは、まとめに入った。
「以上について、本格的に始動するのは先ほども言った通り秋頃を予定している。もっとも、あくまでも予定なので、遅れが生じる可能性も十分あると考えておいてくれ」
「「「はい」」」
「結構。諸君らの活躍に期待しているぞ」
チェイスはそう言って、満面の笑みを浮かべる。
つられて、トアたちも自然と笑顔になった。
さらなる発展を遂げるファグナス領。
その手伝いができるなら、と三人も新しい都市計画に意欲を燃やすのだった。
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