第400話 ヒノモト王国での再会

 ヒノモト王国。

 王都近郊にある屋敷にて。


「これは……我が国始まって以来の一大事だ……」


 王家に仕え、要塞村のトア村長とも面識のあるタキマルは頭を抱えていた。その脇には、彼の側近であるヤシチの姿があった。


「落ち着いてください、タキマル様。イズモ様も大丈夫だと仰っていたじゃないですか」

「し、しかし、もしふたりが小競り合いでも始めたら……ダメだ。八極ふたりのケンカだなんて、考えただけで寒気がする」

「確かに……なんだかおふたりともピリピリした感じでしたねぇ」


 タキマルとヤシチがいるのは、八極のひとり――百療のイズモの屋敷。

 そこへ、八極のリーダーであるヴィクトールが突然訪ねてきたのだ。

 イズモとヴィクトールは仲が良い。

 それはタキマルも知っている。

 だが、今回顔を合わせたふたりの間は、どことなく緊張感が漂っていた。


「何もなければよいのだが……」


 心配するタキマルのもとへ、さらに不安の種が。


「こんにちは、タキマル」

「イズモさんはいますか?」

「「!? ツルヒメ様!? ジェフリー様!?」」


 王家の人間であるツルヒメと、セリウス王国の三兄弟末っ子にしてツルヒメの夫ジェフリーであった。


「? どうかしたの、タキマル」

「何か問題ですか?」

「いるにはいますが……今ちょっと立て込んでいて……」


 眉をひそめながら、タキマルは八極ふたりが会談している部屋の襖を見つめた。




 その襖の向こうで、ヴィクトールとイズモは向かい合って座っていた。


「この座布団っていうのはまだ慣れないな」

「茶はどうだ?」

「おっ! こいつは好きなんだ! この苦みがクセになるんだよなぁ♪」


 タキマルの心配をよそに、ふたりはいつもと変わらぬ様子で話し合っていた。内容は世間話から思い出話まで多岐に渡り、穏やかな時間を過ごしていた。


 しばらくして、イズモはヴィクトールの左手にある物を発見する。


「ヴィクトール……その指輪は……」

「お? 気づいたか? 結婚したんだよ、俺」

「そうか」

「……驚かないんだな」

「うむ。相手がシャウナかテスタロッサだったら驚くが……ローザだろう?」

「ははは、やっぱりバレてたか」


 ヴィクトール自身は気づいていないが、彼は戦時中もイズモに無意識で惚気話をしていたのである。イズモは色恋沙汰に長けている方ではないが、その分かりやすい態度で二人の関係を見抜いていたのだ。


「しかし、わざわざ婚約発表をするためにヒノモトまで来たのではあるまい?」

「その通りだ。実は――」


 ヴィクトールは浮遊大陸で起きた出来事を報告。


「堕天使か……」

「百年前にあった帝国との戦争だって、裏で糸を引いているのはそいつ――いや、そいつが率いている組織だ」

「最近よく聞く悪名高いカラスの印をつけた連中か……」


 ヒノモトにも、その悪評は届いていた。

 まだ公になっていないが、トアから浮遊大陸での報告を受けたセリウス王家からの打診により、彼らへの対処策を協議している最中であった。


「俺とアバランチの爺さん、それにテスタロッサとカーミラの四人で連中を追うつもりだ」

「そうか。……前にも言ったが、某は――」

「分かっているよ。だから、俺たちの得た情報を有効活用してもらいたい」

「いいのか?」

「当然だ。世界を回っていろんな国を見てきたが、こことセリウスが一番信頼できる。国家の規模的にはフェルネンドが望ましかったが……あそこは健全じゃなくなったし、今はもうただの抜け殻だ」

「……分かった。では、某から王家に報告をしておこう」

「助かるよ」


 イズモの淹れた緑茶を飲み干すと、ヴィクトールは話題を変えた。


「それにしても、しばらく来ないうちにここも賑やかになったな」

「妖人族の多くが人間と共存できるようになったから。……どこかの村を参考に、種族の垣根を取り払おうとしている」

「そこの村長くんにはこの前会ったよ。いい面構えだったなぁ……あれは将来、この俺を超える大物になるぜ」

「すでにその片鱗を見せつつあるがね」


 屍の森の要塞村は、その存在自体が世界に大きな影響を与える存在へと成長していた。

 ――当然ながら、当のトアたちはそのことにまだ気づいていない。


 しかし、これからも要塞村は世界に大きな影響を与え続ける。

 イズモとヴィクトールのふたりは、それを確信しているのだった。

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