第394話 ジャネット母登場!③ お手並み拝見

 落盤事故により、鉱山へ取り残された人々を救うため、トアたちはまず未だに鉱山付近に潜伏しているとされるグラウンドシャークをおびき出す作戦に出た。


「落盤事故からの救出の場合はスピードが要求されます」

「わふっ? どうしてですか?」

「長引くと酸欠になって、せっかく無傷でいたとしても命の危険がある」

「それに、もしかしたら一刻も早く治療しなくてはいけない重傷者がいる可能性も十分に考えられます」


 そのために、今回は村医であるケイスも同行していた。

 また、エノドアの診療所にも応援要請をしてある。


 とにかく、怪我人に最適な治療を施すためにも、まずはグラウンドシャークを倒さないことには始まらない。


「ここまで来ればいいだろう。――フォル、やってくれ!」

「了解です」


 ジャネットが新しくフォルに搭載した新機能――誘導魔力を放出。グラウンドシャークを鉱山から離れた平地におびき出し、トアとマフレナのコンビで仕留める作戦だ。

 しばらくすると、


「む?」


 トアは足元がわずかに揺れていることに気づいた。

 同時に、何か巨大なモノが接近してくる気配もする。


「来たぞ、マフレナ!」

「わっふぅ!」


 臨戦態勢に入るトアとマフレナ。

 すると、ついにそれが姿を見せた。

前方約三十メートル――地面を斬り裂くようにグラウンドシャークの背びれが現れた。


「気をつけてください! グラウンドシャークの背びれは鋼鉄並みの強度です!」


 フォルがそう叫んだ瞬間、グラウンドシャークは地面から勢いよく飛び出し、その全貌をあらわにした。

 土色をしたその体の多きは、優に十メートルを超えている。

 普通の人間ならばすぐに逃げだしてしまいそうなほどのモンスターであるが、トアとマフレナは一歩も引く気はない。


「時間がない! マフレナ!」

「わっふぅ!」


 トアの言葉を受けて、マフレナが突っ込んでいく。



 ――一方、トアたちから少し離れた位置にある大木の枝で羽根を休めながら、天使リラエルは戦況を見守っていた。


「やっぱり銀狼族の巨乳ちゃんが戦うのか……復活した神樹ヴェキラの力を見ておきたかったけど……まあ、いくら神樹の加護があるからって、人間の男の子にあの巨大モンスターの相手は荷が重すぎるわね」


 残念そうに呟くリラエルが見ている前で、マフレナの強烈な蹴りが的確にグラウンドシャークの腹部を捉える。


「うひぃ……いったそぉ……ていうか、何よ、あの威力は。グラウンドシャークの巨体が綺麗に折り曲がったわよ……」


 マフレナの攻撃力の高さに驚くリラエル――が、さらに驚くべき事態が起きた。


「ナイスだ、マフレナ!」


 宙を舞うグラウンドシャークの巨体。

 その直後、トアは鞘から引き抜いた聖剣エンディバルに魔力を込める――リラエルが待ち望んでいた、神樹ヴェキラの魔力だ。


「!? な、何なの、この魔力は!?」


 トアの全身を覆う金色の魔力。

 神樹ヴェキラから惜しみなく注がれる魔力に、リラエルは我が目を疑った。


「質、量、共に桁違いじゃない……それを人間の少年が自在にコントロールしているなんてあり得ない!!」


 かつて、天界に存在していた頃から神樹ヴェキラを知るリラエルにとって、それは信じがたい光景だった。


「はああああああああああっ!!」


 トアは神樹の魔力を炎に変える。放たれた炎の渦に呑み込まれたグラウンドシャークの全身は、一瞬にして灰となってしまった。


「さすがはマスターですね」

「カッコいいです!」

「まだまだ。これはまだ救出作戦のほんの序章だ。フォル、鉱山にいるみんなへ、モンスター討伐完了を知らせる花火を」

「ただちに!」


 巨大モンスター相手に苦戦することなく、最短で決着をつけたトアたち。

 その圧倒的な戦いぶりを見たリラエルの表情は引きつっていた。


「な、なんなのよ……村長だけじゃなく、あの村の連中ってみんなこんなバケモノじみているわけ?」


 要塞村の実力を目の当たりにしたリラエルは、しばし呆然と立ち尽くしていた。

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