第387話 新天地へ【番外編】 ローザの報告
浮遊大陸から要塞村へと戻って来たトアたちは、早速そこで起きた出来事を説明するため、各種族の代表者を円卓の間に集め、報告を行った。
「それで――」
村長トアが、浮遊大陸で出会った天使リラエルと八極三人、そして行方知れずのシャウナが無事に戻って来たこと、さらに、堕天使ジェダや魔獣に関する情報を話していく。
ただ、約二名については、そんなトアの報告がまったく耳に入っていなかった。
「「…………」」
要塞村市場の責任者ナタリーと、セリウス王国第二王子で現在は要塞村の村医をしているケイスだった。
ふたりが注目手しているのはトア――ではなく、その横でうんうんと頷いているローザである。厳密に言うと、その左手薬指にはめられた指輪だ。
ちなみに、ローザは現在いつもと同じ子どもの姿に戻っている。
指輪のサイズは魔法で幼女モードでもつけられるように変更していた。
「あ、あの」
「……何?」
「ローザさんが左手の薬指にしているのって……指輪ですよね?」
「……あたしが幻術にでもかかっていない限り、あれは間違いなく指輪ね」
「おまけにあの位置って……」
「婚約指輪、よねぇ……」
銀狼族や王虎族をはじめ、人間以外の種族には指輪を送るという習慣がないのか、誰もツッコミを入れない。
ふたりには訳が分からなかった。
八極や堕天使の存在は十分驚くべきことなのだが、ローザの婚約指輪で全部台無しだった。かといって、今の流れを遮ってまで聞くのはちょっとはばかられる。
その時だった。
「はい」
声をあげて挙手をしたのは、人魚族のルーシーだった。
「ルーシー? 何か質問?」
「実はここに来た時からずっと気になっていたんですけど……ローザさんがしている指輪ってどうしたんですか? いつもしていなかったですよね?」
「む? これか?」
思い悩むナタリーとケイスを尻目に、ルーシーがさらっと尋ねた。ふたりは心中で「グッジョブ!」とサムズアップしながら、ローザの答えを待つ。
「ふふふ……やはり気づいてしまうか」
ローザは死ぬほど嬉しそうだった。
初めて見るその表情に、ナタリーとケイスはどんな話が聞けるのかワクワクしていたのだが――すぐにその気持ちは萎れてしまう。
そこから始まったローザの独演会。
内容は九割が指輪を渡した相手であるヴィクトールについてのもので、そのほとんどが悪口だった。
やれいつも唐突に行動するだの、やれワシがいないと何もできないヤツだの、ダメだしばかりであったが、そんな内容とは裏腹に表情は終始緩みっぱなしだった。
見かねたトアが「ロ、ローザさん、そろそろ」と声をかけるが、ローザはノンストップ。最初に話題を振ったルーシーは青ざめた顔で「こんなことになるとは……」と俯いてしまっている。
結局、ローザの話が終わったのは話し始めて二時間後のことだった。
「いや! 私の紹介は!?」
天使リラエルの存在はすっかり忘れ去られていた。
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