第383話 新天地へ⑨ 新事実
いろいろなことが一度に起きて大騒ぎに発展したが、とりあえずその波も落ち着きを取り戻し始め、話を順番に整理していくことに。
まず口火を切ったのは天使リラエルが事態を確認するように尋ねていく。
「つまり、ヴィクトールたちは魔界から転移魔法を使ってここへ来た、と」
「そういうことだ」
「んで、要塞村とやらには神樹ヴェキラがあって、その影響からかつて魔界に飛ばされた経験があり、今回もその類ではないか、と」
「は、はい」
ヴィクトールとトア。
それぞれのグループの代表者がリラエルの質問に回答する。
続いての質問者はヴィクトールだ。
「俺たちがここへ来た理由はただひとつ……さっきも言ったが、天界人の方々と共闘したいと思ってね。それを正式に認めてもらいたいんだ」
「そうだったわね。でも、誰と戦おうっていうの?」
「堕天使さ」
「!?」
堕天使。
その言葉を耳にした途端、リラエルの表情に動揺の色が見て取れた。
「……なぜあなたが彼のことを?」
「浅からぬ因縁ってヤツだ。――帝国との戦争中から今に至るまでの、な」
「戦争中からじゃと?」
それに反応したのは八極として共に帝国と戦っていたローザだった。
「ワシはその堕天使とやらの存在を知らんぞ、ヴィクトール」
「ああ、そいつが絡んでいると分かったのは割と最近のことなんでね。……ローザは聞いたことがないか? カラスのタトゥーを入れた連中を。どうやら、そいつは人間たちを集めていろいろと悪事を働いているらしい」
「!?」
それはローザだけでなく、トアたちにも因縁がある組織だった。
かつて、エノドアの魔鉱石を奪い取ろうとヘルミーナに結婚詐欺を仕掛けたり、人魚たちを拉致するために大船団を率いて攻め入ったりと、セリウス王国をはじめ世界各国が警戒する武器商会。
だが、その全貌は未だ多くの闇に包まれており、ボスの正体はおろか名前すら分かっていない状態であった。
「その人たちなら知っていますよ」
「お? さすがは少年村長だ。すでに対戦経験があるのか」
「対戦と呼べるかは……でも、戦っているのは確かですね」
「でも、どの戦いでも私たちが勝っているのは間違いないわ!」
クラーラの主張に、要塞村の面々は揃って頷く。
それを見たヴィクトールは小さく微笑んだ。
「頼もしい限りだな。さすがはローザとシャウナが気に入るだけはある」
「いいから、早く続きを話さんか!」
少し照れ臭くなったローザがヴィクトールを急かす。
「っと、そうだな。……ともかく、百年前に起きたザンジール帝国との戦争――こいつを引き起こしたのも、その堕天使が原因なんだろう?」
「! ど、どうして!?」
「うちには優秀な死霊術士がいてね。過去の事情に詳しい帝国関係者の亡霊からいろいろと聞き出したんだ」
その優秀な死霊術士とはもちろんテスタロッサのことだ。
ちなみに、そのテスタロッサは、
「テスタロッサさん……」
「大きくなったわね、クラーラ」
少し離れた位置で、テスタロッサとの再会を堪能中だった。
次に質問をぶつけたのはエステルだった。
「あの、じゃあ、シャウナさんが要塞村を出て行ったのは……」
「浮遊大陸は以前からその存在が信じられていてね。私も研究を続けていたわけだが……それをヴィクトールが知っていたようで、手紙を寄越したんだ――『これから浮遊大陸へ行くけどおまえも来るか?』とね」
なんとも軽いノリである。
「まあ、そういうわけでよ。俺たちはあんたら天界人の技術を地上へ持ち出し、帝国に力を与えて戦争を引き起こしたそいつを追っているんだ」
「もう帝国との戦争は終わったのに……?」
リラエルが聞き返すと、ヴィクトールは表情を引き締めた。
「終わってねぇんだな、これが」
「えっ?」
「ヤツはまた騒ぎを起こそうとしている。それも、今度は帝国との戦争なんてレベルじゃなくて、もっと厄介なものだ」
「戦争よりも厄介だというのか?」
「そうさ。それを俺に教えてくれたのは――ローザも覚えているんじゃないか? 今から十数年前に現れた魔獣を」
「「!?」」
今度はトアとエステルの顔が引きつる。
故郷をその魔獣によって消されたふたりにとって、その言葉は半ばトラウマと化していたのだ。
「うん? どうした、トアにエステル」
「ヴィクトール……そこにおるトアとエステルは故郷であるシトナ村は、その魔獣によって滅ぼされたんじゃよ」
「!? 君たちはあの村の生き残りなのか!?」
ヴィクトールの驚いた声が遺跡内に響いた。
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