第371話 エステルの危機?【後編】
決闘当日。
場所は要塞村広場。
「ほう……なかなかいい場所じゃないか!」
現れたホルバートは開口一番偉そうに叫ぶ。
そのいい場所である要塞村の村長がトアであることには気づいていないようだ。
そこへ、エステル、クラーラ、ジャネット、マフレナを引き連れたトアが登場。
「久しぶりだな、トア・マクレイグ。最後に会ったのは聖騎隊養成所での合同剣術稽古の時以来か」
「えっ? ……あ、う、うん。そうだね」
正直覚えていなかった、咄嗟に話を合わせるトア。
その時、ホルバートはエステル以外の三人の存在に気づく。
「む? そちらのドワーフの子は昨日も会ったが……エルフに獣人族までいるのか」
「そうよ。まあ、見届け人ってところかしらね」
「わふっ!」
「なるほど。見届け人、か……僕はてっきり、トア・マクレイグの第二夫人と第三夫人かと思って――」
「「…………」」
「いや、冗談だよ!? 何ちょっと満更でもない顔してるの!? まさか本当にそうなの!?」
「い、いえ、けけ、決してそのような、ことは」
「君もか!? ドワーフ少女!」
目が泳ぐジャネットへツッコミを入れるホルバート。しかし、その事実が彼の闘争心に火をつけた。
「ぐぬぬ……エステル・グレンテスだけでなく、他に三人も毒牙にかけていたとは――許さんぞ、トア・マクレイグ!」
トアへの対抗心が頂点に達したホルバートはすぐさま仕掛ける。半ば不意打ちのような格好になったが、トアはそれを難なく回避。
それに合わせて一気に盛り上がる見物客の村民や商人、さらには市場を訪れた人々――が、冷静に状況を分析している者たちもいた。
「いよいよ始まったな」
「ああ……つーか、ガーベル家だっけ? 俺も覚えがねぇな」
「まあ、間違いなくフェルネンドの最弱貴族だったし、私たちとの接点もまったくなかったものね」
エノドア自警団のメンバーであり、ホルバートと同期であるクレイブ、エドガー、ネリスの三人だった。
「うおおおっ!」
激しい連撃を仕掛けるホルバート。トアはそれを捌きながら反撃の機会を窺っているようだった――が、
「トアのヤツ……まずは相手の出方を窺う気か」
「聖剣エンディバルにも魔力を注いでいないし……どうしたんだ?」
「対応に困っているんでしょ。相手があまりにも自信満々だから、簡単に蹴散らしたら悪いと思っているのよ」
「むぅ……トアの悪い癖が出たな。まあ、そこがあいつのいいところでもあるのだが」
「おまえの惚気はどうでもいいが……それにしても、あのホルバートってヤツ、なかなかやるじゃないか」
「うむ。トアも本気でないとはいえ、攻めあぐねているのは事実」
「気合も乗っているみたいだし、こりゃ思ったより苦戦しそうだな」
「ま、その辺は私のおかげかな。昨日の夜、うちの宿屋で男にしてあげたし」
「「えっ……」」
ネリスの唐突な言葉に、クレイブとエドガーは絶句。
そこでネリスは、自分がとんでもない誤解発言を放ったことに気づく。
「待って! 男にしたってアレをアレしたわけじゃないから! エステルへの思いに踏ん切りをつけさせようといろいろ話を聞いていただけだから!」
「ま、まあ、そうなんだろうけど」
「さすがに少し驚いたな」
その後、エノドア組の間になんとも言えない微妙な空気が流れるのだった。
一方、決闘は未だ決着がつかず。
攻めあぐねるトア――が、突然、ホルバートの猛攻が止んだ。
「貴様! この僕を侮辱するのか!」
そして、突然叫びだす。
「貴様が本気を出していないことなどとうに見破っている! 遠慮は無用! 本気でかかってこい!」
「「「「「あっ」」」」」
周りの観客たちは一斉に察する。
そう言われたトアがどういった行動に出るかを知っているからだ。
「……そうだね。ごめん。俺が間違っていたよ。それじゃあ――本気でいかせてもらう!」
「それでいい。それでこそこちらも全力で挑めると――」
ゴッ!
話の途中で、凄まじい衝撃波がホルバートを襲う。
その正体は、
「神樹の魔力をありったけ……こいつで勝負だ!」
トアの持つ剣から放たれた、尋常じゃない量の魔力によるものだった。
「……ほえ?」
目が点になり、間の抜けた声が漏れる。
しばらくしてようやく我に返ったホルバートは、すぐさまツッコミの波状攻撃を仕掛けた。
「ちょっと待て!? なんだ、そのデタラメな魔力は!?」
「? 神樹ヴェキラの魔力だけど?」
「その神樹ヴェキラとはなんなんだ!? おまえがそんなとんでも魔力の持ち主だなんて聞いていないぞ!」
「ここまでの魔力を開放するのは、魔界の虫たちが攻めてきた時だな。あの時は数が多すぎで散らばったけど、今はホルバートひとりに全魔力を集中して――」
「お願いだから話を聞いて!」
その後、ホルバートの涙の訴えにより、決闘はトアの勝利で幕を閉じたのだった。
――それからの話をしよう。
トアとの決闘に敗れた(降参した)ホルバートであったが、領主チェイス・ファグナスからの紹介により、第一王子のバーノンに謁見。バーノンは貧乏生活脱却のため、さまざまな産業にチャレンジし、一定の成果をあげていることを評価して、ホルバートをセリウス王国へ招き入れることを決めた。
貴族としての地位はなくなるが、ガーベル家の新たな船出になる、とホルバートは張り切っていた。
宿屋でフロイド元大臣やチェイスに相談したこと、また、トアとの勝負に完敗したことで気持ちが吹っ切れたようだ。
のちに、ホルバート・ガーベルの名はセリウス王国内でも有名になり、要塞村の市場にも店を出すことになるが、それはまだ先の話である。
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