第321話 フェルネンド王国の新事実
この日、トアはセリウス王都へとやってきていた。
目的はバーノン王子と会談するため。
その際にあがった議題はふたつ。
ひとつは本格調査が間近に迫った帝国鉄道の調査について。
「例の鉄道だが、うちの魔道具づくりの職人たち数名と歴史学者で構成したチームを作り、派遣しようと思っている。今、その人選を進めているところだ」
「す、凄く大掛かりになりそうですね」
「大戦以降、魔鉱石を動力とした鉄道機関は再現できた国はないからな。これくらいの規模になって当然だ」
「やっぱり相当難しいんですね」
「鉄道の構造自体もそうだが、動力となる大量の魔鉱石を調達できないという理由も大きいのだろう」
だが、その魔鉱石の調達という課題についてはすでに解決済みだ。
「魔鉱石といえば、エノドアがありますね!」
「そうだ。エノドアで採れる上質の魔鉱石があれば動力として十分な働きが期待できる。そのための必要量分の確保も、すでにレナード町長やシュルツ鉱夫長に伝えてある」
さすがは次期国王筆頭候補。
やると決めた仕事は早かった。
「ルートについても検討中だが……私としては要塞村と王都を結ぶ路線を第一希望として考えている」
「えっ!? 要塞村と!?」
これまで、王都とは無縁だった要塞村だが、もし本当に王都との路線ができれば、市場などの集客もアップするし、何より大勢の人が村を訪れることになる。
「まあ、まだ計画段階にすらあがっていない状態だからな。実現できるとしても、まだまだ先の未来だろう」
バーノンはそう語るが、いよいよ具体的な話が出てきたことで、トアは思わず興奮してしまう。
鉄道絡みの話が終わると、次はもうひとつの案件――国境付近で緊張状態が続いているフェルネンド王国について語られた。
ただ、この件はバーノン王に呼ばれて部屋へと入ってきたセリウス王国騎士団の騎士団長を務めるレドルから直接報告を受けた。
「フェルネンド王国は撤退の動きを見せ始めていると報告があった」
「撤退を? 随分と急ですね」
「こちらへ新たに移住したミリア・ストナーからの情報によると、フェルネンド聖騎隊からは次々と脱走兵が出ており、戦力が大幅にダウンしているという」
聖騎隊大隊長を務めるジャック・ストナーの娘のミリアからもたらされた情報。それを裏付けるように、国境付近に展開していたフェルネンド聖騎隊は撤退の準備を進めているのだという。
「ふむ。どうやら、フェルネンド王国の件はこれで方がつきそうだな」
同席していたバーノン王子は大きく息を吐いた。
セリウス王国としては、実害が出ていない以上、フェルネンド側を追及するつもりはないらしい。
――ただ、最後にレドルは気になることを告げた。
「これはまだ裏が取れていない情報だが……フェルネンド王国の実権はすでにディオニス・コルナルドのもとを離れているようです」
「何?」
この情報には、バーノン王子の表情も思わず一変する。
「どういうことだ?」
「国内の政治がうまく回らなくなり、彼はある人物へ助言を求めていたそうです」
「ある人物? それは誰ですか?」
トアが尋ねると、レドルは重苦しく口を開く。
「噂の段階だが……ジャック・ストナーだ」
「「!?」」
その名は、トアもバーノンもよく知っている。
聖騎隊大隊長にしてミリアとクレイブの父――そのジャックが、現在フェルネンドを裏で操っている存在だという情報がもたらされたとレドルは告げたのだ。
「そんな……大隊長が……」
故郷を魔獣に焼き払われ、シスター・メリンカの教会に預けられたトアのもとへ訪ねてきたこともあったジャック。自分の息子が同い年だからと、よく一緒に剣の稽古をさせてもらっていた。
あの時に見せてくれた顔は、国の未来を守ろうとする立派な大人だった。
しかし、侵略行為を繰り返す今のフェルネンドが、ディオニスの手ではなく、ジャックの手で行われていた――トアにはとても信じられなかった。
「……どうやら、その件については詳しい調査が必要のようだ」
「そのようですね」
顔面蒼白になっているトアを見て、バーノンとレドルはそう判断する。
ふたりも、ジャック・ストナーとは面識があるので、この件については懐疑的な見方をしている。だが、火のないところに煙は立たないということもあるので、慎重な調査が必要と考えたのだ。
「レドル騎士団長、ジャック・ストナー大隊長の件もそうだが、フェルネンド聖騎隊が撤退をしても、国境付近の防衛は現状を維持してくれ。こちらの手が薄くなったところに仕掛けてくるかもしれないからな」
「分かりました」
バーノンがそう指示を出すと、レドルは深々と頭を下げて退室。
直後、バーノンからある提案が出される。
「トア村長」
「は、はい!」
「ジャック・ストナー大隊長の件は……クレイブやミリアにはまだ黙っておこう。決定的な証拠があるわけでもないしな」
「そ、そうですね」
バーノンの気遣いに感謝しつつ、会談は終了。
だが、トアは未だに信じられなかった。
「大隊長……」
城を出たトアは天を仰ぐ。
どうか、その噂が嘘であってほしいと願いながら。
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