第287話 魔界式マッサージ

【お知らせ】


「無敵の万能要塞で快適スローライフをおくります ~フォートレス・ライフ~」ですが、本作の書籍第2巻が6月10日に発売されます! 


8万文字以上の大改稿!

WEB版とは違った展開で描かれる要塞村の日常!


さらに!


第2巻発売を記念しまして、カクヨムの作品フォロワーの方々に、メルマガ形式の「要塞村通信」を配信していきます!


イラストの先行公開や、ここでしか読めない限定SSもあります! 過去に配信した限定SSもあるので、見逃したという方は是非読んでみてください!


お楽しみに!


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「ふぅ……今日はちょっと疲れたわね」

「本当にね」


 夕闇が迫る中、要塞内の廊下を歩くのはクラーラとエステルのふたり。クラーラはエノドアのケーキ屋さんとトアとの剣術修行で、エステルは学校での授業とローザの特訓により、揃って大きく疲弊していた。


 今日は先にお風呂に入って、晩御飯を食べたらすぐに寝よう。

 言葉にしなくても、ふたりの思考は揃っていて、打ち合わせているわけでもないのに進む先は同じ共同浴場へと向けられていた。

 すると、


「おや? おふたりはこれから入浴でありますか?」


 入れ違いで入浴を終えた魔人族のメディーナと出会う。


「そうなのよ~。今日もかなり体を動かしたから疲労がねぇ……剣術の修行にも熱が入っちゃったし」

「ご飯の前に一度リラックスしようと思って」

「そうでありましたか。自分は――」


 今日一日の活動を報告し合う三人。

 ひょんなことからこの要塞村に住むこととなった魔界出身の魔人族・メディーナだが、今やすっかりこの村にも馴染み、今日も市場で商人たちの手伝いをしていた。

 人間界にもさまざまな種族が生活しているが、肌の色や瞳の色が大きく異なる魔人族。メディーナも、最初は警戒されるだろうと予想していた。が、もともと、この要塞村がさまざまな種族の集まりによって生まれたということもあり、思っていたよりも遥かに早く村民たちがメディーナの存在に慣れた。おかげで、今は楽しく暮らせている。


 そんなメディーナの目には、クラーラとエステルがいつも以上に疲れているように映った。それは今日一日の疲れというより、これまでの疲労が蓄積された結果ともいえる。


「あの、おふたりとも――もしよろしければ、疲労回復に効果抜群の魔界式マッサージを試してみませんか?」

「「魔界式マッサージ?」」


 なんとなく嫌な響きだが、疲れているのは確かだし、怖い物見たさという心境も手伝って、ふたりはそのマッサージを受けることにした。



 

 入浴後。

 メディーナの自室へやってきたエステルとクラーラ。


「待っていたでありますよ。すでに準備は整っているので、そこに寝てください」


 部屋の中央に用意されていたのはふたつの簡易ベッド。

 そこに、服を脱いだ状態でうつ伏せとなる。


「結構本格的なのね」

「そ、そうなの? ……服を脱ぐのって普通?」

「あっ、クラーラはこういうのって初めてなのね。大丈夫よ。王都にも女性専用のマッサージ店があったけど、常連だったヘルミーナさん曰く、オイルを塗り込んだりするらしいから、服を脱ぐ必要があるのよ」

「へぇ~、オイルねぇ」


 マッサージといえば、肩叩きとかストレッチ系のものしか知らないクラーラにとって、このような形式で行うマッサージは初めてだったので、少し戸惑いがあるようだった。


「それでは早速始めるであります!」


 クラーラも安心したところで、いよいよメディーナがマッサージを開始。

 ふたりの太ももに、トロトロした液体がかけられる。その直後、液体を体にしみ込ませるように、下半身を中心に揉んでいく。それは、全身のコリをほぐす動きでもあり、ふたりはあまりの気持ちよさに眠ってしまいそうになるほどだった。


「最高~♪」

「ホントね~♪」


 うっとりした表情のエステルとクラーラ――だが、この時、エステルはあることに気づく。


 今、マッサージを受けているのは自分とクラーラのふたり。だが、足に触れているこの感じから、メディーナは両手を使ってマッサージをしているはず。なのに、なぜかクラーラも同じような感想を述べている。


 そんな疑念が頭によぎる中、


「足を揉む強さはどうでありますか?」


 そう尋ねてきたメディーナは――なぜか自分たちの正面に立っている。

 では、今、自分たちの足に触れている者は、一体誰なのか。


 エステルは飛び起きて、振り返り――言葉を失った。


 自分の足に絡みついていたのは、黒光りする巨大な触手数本であった。



「きゃあああああああああああああああっ!!!!」



 エステルの叫び声に驚いたクラーラは、そこで初めて異常事態が起きていることを察し、自分の足を揉んでいたのが巨大な触手であったことを知ると同じように叫んだ。


「ど、どうしたでありますか?」

「どうしたもこうしたも、あれは何よ!?」

「? 触手ですが?」


 クラーラの涙の訴えに対し、メディーナはカクンと首を傾げた。


「魔界で流行している全自動触手マッサージであります。触手が垂れ流す粘液には、美容効果があるのですが……何か問題でもありましたか?」

「「問題しかないわよ!!」」


 ふたりの涙交じりの叫び声が綺麗に重なった。

 と、そこへ、


「エステル! クラーラ! どうした!」

「何事ですか!」

「わふっ! お助けに参りましたよ!」


 叫び声を耳にしたトア、ジャネット、マフレナの三人が駆けつけ、


「「「わあああああああああああっ!?!?」」」


 うごめく大量の触手を目の当たりにし、同じように大絶叫した。



 


 その後、村長トアの命により、ビジュアル的に大きな問題がある触手マッサージについては禁止令が出されたのだった。


「はあ~……人間界での触手はご法度でありましたか」

「そうとも限りません。確かにリアルでの触手というのはいささか抵抗ありますが、こと創作に関していえば一部ファンにとってむしろ喜ばれる存在でもあり、特に近年の流行として広まりつつある――」

「ジャネット殿が怖いであります!」


 思わぬ二次被害を出しながらも、こうして要塞村触手騒動は鎮静化した――かに見えたのだが、


「凄い! まるで背中に翼が生えたかのように体が軽いわ!」

「それにお肌もツヤツヤ!」


 翌日。

 如実に現れた触手マッサージの効果に、エステルとクラーラは「封印するのは少し早まった判断だったかもしれない」と少し後悔するのだった。








 ちなみに、この魔界産触手の粘液クリームは美容品として要塞村市場でもトップクラスの人気商品となるが――それはもう少し先の話である。

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