2巻発売記念SS「トアの苦悩」
【お知らせ】
「無敵の万能要塞で快適スローライフをおくります ~フォートレス・ライフ~」ですが、本作の書籍第2巻が6月10日に発売されます!
8万文字以上の大改稿!
WEB版とは違った展開で描かれる要塞村の日常!
さらに!
2巻発売を記念し、カクヨムでは作品フォロワーへイラストの先行公開や限定SSなどが楽しめる「要塞村通信」を配信!
お楽しみに!
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ここ数日、日中の気温は上がり、徐々に夏の気配を漂わせつつあった。
そこで、村長トアは今年も要塞村プールを開くことを決定。さらに、今や要塞市場をまとめる商会のリーダーとなったナタリーからの提案を受けて、今年は他の町の人々も無料招待することにした。
一報を聞いたエノドア自警団の面々は大喜び。
ネリスとタマキは早速水着を新調しようと服屋へ直行していた。
村民たちもまたプールで遊べると大喜び。
今も夏のオープンに向けて清掃作業が行われていた。
「みなさんヤル気満々ですね、マスター」
「…………」
「? マスター?」
「!? あ、い、いや、なんでもないよ、フォル」
分かりやすく動揺するトアは、「ちょっと清掃作業の様子を見てくる」と言い残し、その場をあとにした。
「……怪しいですね」
当然、フォルに怪しまれる結果となったのだった。
◇◇◇
「はあ……」
エステルたちと一緒に暮らしている、広い村長室の中に設けられたトアの私室。
そこでは、いつも明るいトアが珍しく表情を曇らせていた。
原因は要塞村プール。
別に、泳ぐのが苦手というわけではないし、村民たちが喜んでくれるのなら、むしろそれはとても喜ばしい。ナタリーの呼びかけで、他の町の人たちも大勢訪れることが予想されるし、今年の夏はとても賑やかで楽しくなりそうだと思う。
では、何が彼をこんなに苦しめているのか。
原因は――目の前にある布きれにあった。
「……よし」
トアは頬をパチンと叩いて気合を注入。
そして――
「クラフト!」
《要塞職人》としての能力のひとつ――クラフト。
これは、要塞内にある物ならば、なんでもトアの思い通りに加工できるという能力。そのおかげで、村民たちの生活は大いに潤っていた。
そんなクラフトを駆使して、要塞内に放置されていた布をトアは何に加工したかというと、
「これなら……エステルに似合うかな?」
答えは水着だった。
要塞村プールでエステル、クラーラ、マフレナ、ジャネットの四人が着用する水着は、トアがクラフトで作りだしたオリジナルの物だった。
――それのどこに悩みの種があるのかというと、
「ダ、ダメだ……これじゃあ小さすぎる。これだと絶対に見えちゃうよなぁ……」
「何が見えるんですか? 新世界ですか?」
「うわあっ!?」
いつの間にか、作った水着を手にしていたトアの背後にフォルが立っていた。
「思いつめた顔をしていたのでどうしたのかと思いきや……水着なら以前も作ったじゃないですか」
「それはそうなんだけどさ……」
トアの反応から、以前とは事情が異なるらしい。
「何がそんなに深刻なんですか?」
「……笑うなよ?」
そう言って、トアはさっき作ったばかりの水着をフォルへ差し出す。
それはなんと、
「おぅ……」
あのフォルでさえドン引きするほどの超極小のマイクロビキニだった。
「マスター……さすがにこれはまずいですよ」
「だよなぁ……」
「エステル様やマフレナ様、それにジャネット様は問題ありませんよ? ……ただ、クラーラ様では少しサイズに問題があって、引っかからないのではないでしょうか」
「……誰の何が引っかからないって?」
「だから、クラーラ様の胸が――はっ!」
そこで、フォルは突然トアの目の前から消えた。
厳密に言うと、物凄い衝撃がサイドから襲い掛かり、その衝撃で窓が割れて外へと放り出されたのだ。
実行犯はもちろん――
「ク、クラーラ……」
引きつった笑顔で、トアは犯人の名を呼んだ。
呼ばれたクラーラは表情を崩さず、床に落ちた極小マイクロビキニを手に取った。
「……こういうのが好きなのね」
「そ、そういうわけじゃ……」
「別に、怒ってないわよ」
「で、でも、さっき――」
「あれはサイズに触れたからよ」
そこは重罪扱いらしかった。
――本音をいえば、クラーラとしては嬉しい兆候だった。
というのも、今までは普通の水着だったので、もしかしたらトアは自分たちを《そうした》目で一切見ていないのではないかという不安があったのだ。
しかし、今回、こうして自分たちの水着を作成する際、明らかにこちらを意識した水着を作った。それはつまり、トアの中で四人を《そうした》目で見ているという何よりの証拠と言えたのだ。
「今夜のご飯は豪華にしなくちゃね♪」
「へっ?」
なぜか上機嫌になるクラーラに、トアは戸惑いさえ感じていた。
その後、帰ってきたエステルたちにクラーラが今日の水着の件を報告すると、三人ともクラーラと同じように上機嫌となったのであった。
「あ、ジン様、いいところに通りかかってくれました。申し訳ありませんが、地面にめり込んだ僕のボディを掘り起こしてくれませんか?」
「君のその出会った頃から変わらない、ぶれない精神だけは見習いたいものだな」
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