第280話 高原の戦い
【お知らせ】
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8万文字以上の大改稿!
WEB版とは違った展開で描かれる要塞村の日常!
さらに!
第2巻発売を記念しまして、カクヨムの作品フォロワーの方々に、メルマガ形式の「要塞村通信」を配信していきます!
イラストの先行公開や、ここでしか読めない限定SSもあります!
お楽しみに!
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「早く子どもたちを避難させてください!」
「えっ!?」
「ここは俺がやります!」
グウィン族の戦士サージが、突如地中から姿を見せたアーストン・デス・ワームの巨体に圧倒されていると、自分よりもずっと年下の少年がそう叫んで、物怖じする気配を微塵もみせずに敵へ向かって突進していった。
「待て! おまえには無理だ!」
「ご心配――なくっ!!」
サージは止めるが、トアは聞かず。
無理もない。
これまで戦ってきた敵に比べれば、相手はただのデカい芋虫。
トアは全身に神樹の魔力をまとわせ、跳躍――その高さは明らかに人間の領域を超えた高さで、あっという間にアーストン・デス・ワームの頭部に迫った。
「! バ、バカな!? なぜあんなに高く飛べるんだ!?」
初めてトアの戦闘を目の当たりにする戦士サージは、その規格外の跳躍力に目を奪われていた。
「キシャア!」
アーストン・デス・ワームは、向かってくるトアに対し、口からドス黒い毒液を吐いて攻撃をする。空中では回避運動ができないため、このままでは直撃だ――と、思った次の瞬間、トアは、聖剣を振ってその毒液を薙ぎ払う。
さらに、
「はあっ!!」
お返しとばかりに、今度は敵目がけてトアが聖剣エンディバルを振る。すると、直接剣が触れているわけでもないのに、アーストン・デス・ワームの巨体がズタズタに傷ついていく。聖剣エンディバルの特性のひとつである《斬撃飛ばし》により、遠距離からでも攻撃が可能なのだ。
「ギシャアアアアアアアアア!!!!」
断末魔をあげ、その巨体を横たえるアーストン・デス・ワーム。トアはトドメとばかりに魔力を聖剣へ集中させ、巨体を両断する。敵の巨体に比べたら聖剣は小さいが、魔力をまとわせている分、その威力は何十倍にも膨れ上がっていたのだ。
「ふぅ……」
息を吐き、聖剣を鞘へとしまうトア。
「な、なんて少年だ……」
サージは開いた口が塞がらない。
これまで、村を守るためにモンスターと何度も戦ってきたサージには、自分が一族でもっとも強い男であるという自負があった。しかし、目の前にこれまで遭遇したことのない、超巨大なモンスターが現れると、足が思うように動けなかった。
しかし、あのトアとかいう少年は違った。
臆することなく、真っ先に敵へと立ち向かい、その強大な力で有無を言わさずねじ伏せる。
「やったあ!」
「すっげぇや、あの兄ちゃん!」
子どもたちはトアの活躍に拍手喝采。
その笑顔を見て、サージは理解する。
自分たちは――あの名も知らぬよそ者の少年に命を救われた、と。
「すみません。話の途中でちょっと邪魔が入ってしまって」
「あ、い、いや……」
「この土地で起きているさまざまな現象は、さっきのアーストン・デス・ワームが引き起こしたものだと考えられます。あれは地中に潜り、人の寝静まった深夜に家畜を襲い、土壌を荒らすので周辺では作物が育ちにくくなるという事例を書物で読みました」
戻ってきたトアはまるで何事もなかったように振る舞い、話の続きを始めるが、相手のサージはそれどころではなかった。
「おまえは……一体何者なんだ?」
最初は通りすがりの商人で通そうと思っていたが、先ほどの戦闘を目撃されては、その設定に無理が生じる。なので、トアは素直に名乗ることにした。
「俺の名前はトア・マクレイグ――屍の森にある要塞村の村長です」
「要塞村……」
遊牧民であり、他の種族との接触を避けてきたグウィン族の戦士であるサージにはピンと来ないワードだった。
それでも、トアがどう見ても十代半ばほどの年齢でありながら、自らを村の長だと名乗ることに違和感を覚えなかった。それが当たり前なのだとすんなり受け入れられるくらい、目の前にいるトアという少年の振る舞いは堂々たるものだったのだ。
戦士サージはココへ視線を移す。
村を出ていった数日が経つのに、彼女が健康体でいられる理由も、きっとこのトア・マクレイグという少年が深く関与しているのだろうと察した。
「……トアとやら」
「は、はい」
「この食料は君の村ので?」
「ええ。要塞村では農業や漁業が盛んなんです。あと、この水も特別製で、飲めば元気になりますよ」
「サージさん! この水は凄いんですよ! とっても大きくて綺麗な木の根元にある湖の水なんですけど――」
「大きくて綺麗な木?」
サージは聖水の効果より、神樹の存在そのものが気にかかったようだ。
「……トア村長」
「? なんでしょう?」
「是非――我々の長に会っていただきたい」
その申し出を、トアはふたつ返事でOKするのだった。
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