第279話 アーストン高原のグウィン族

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 他種族と接点を持つことに対して消極的なグウィン族を救うため、補給物資はココと、要塞村村長であるトアの二名で向かうことになった。

 その際、


「この子が君たちを追跡する。何かあったら、私がその気配を察知できるから安心したまえ」


 そう言って、シャウナは使い魔である蛇を五匹呼びだし、トアたちのあとをつけさせると伝えた。


「さて……じゃあ、行ってきます」

「ありがとうございました」

「気をつけていってきてね」

「わふっ! また会いましょうね!」

「要塞村はいつでも歓迎いたしますよ」


 エステル、マフレナ、フォルの三人にも見送られて、トアとココは一番手近にあるテントを目指して出発した。




 出発からおよそ三十分。

 ようやく、最初のテントが見えてきた。


「全部で三つか……」

「ここは合計で十七人の人が住んでいるはずです」

「よし、早速接触を試みてみよう」


 困窮しているというグウィン族のもとへ急ぐ――と、テントの前で遊んでいる四人の子どもたちが目に入った。すると、

 

「あっ! ココ様!」


 ひとりの女の子がココの存在に気づいて駆け寄ってくる。それを皮切りに、他の三人の子どもたちも集まってきた。

 

「みんな、ただいま!」

「今までどこにいたの?」

「長も心配していたよ!」

「ごめんね。……実は、食べ物を持ってきたの」

「「「「ええっ!?」」」」

 

 そこで、子どもたちは初めて荷車を押すトアの存在に気づく。さらに、その荷車いっぱいに食料が積まれていることを視認すると、瞳を輝かせてココに迫った。


「あ、あれ、食べていいの!?」

「ええ。お腹いっぱい食べてね」

「「「「やったあ!!!!」


 子どもたちは大喜びして跳ね回る。

 だが、その時、トアは見てしまった。

 長らく満足な食事をとれなかった子どもたちはひどく痩せこけ、中には骨が浮き出ている者もいる。唇や肌もガサガサで、食料だけでなく水も十分に摂取できていないようだった。


「この気候じゃ……無理もないか」


 少しずつ暖かくなってきているとはいえ、このアーストン高原は暑すぎる。そもそも、標高の高い位置にあるこの場所は、土地柄、涼しめの気候になるはずだ。それがなぜこうも気温が高いのか。それに、家畜の大量死というのも気にかかる。


「…………」


 ふと、トアは地面に手をつけてみる。

 アーストン高原で起きている現状――それに該当する事例があったことを、聖騎隊養成所の座学で学んだ記憶があった。


「雲に覆われて日差しがほとんどない状況で……妙に地面だけが熱を持っている……? 近くに火山があるわけでもないのに……そういえば、ココを追っていたあの地中鮫の群れ……もしかしたら――」


さまざまな角度から分析を行い、結論を構築していたら、



「その食べ物に口をつけるな!!!!」



 突然、怒鳴り声が轟いた。

 振り返ると、ココが子どもたちへ配った食べ物を、ひとりの男が奪い取っている。男は斧を手にしており、右半身はタトゥーで埋め尽くされていた。シロの背中で移動中に、シャウナから「グウィン族の戦士はタトゥーの数で強さが決められている」という話を聞いたが、その基準でいうなら、あの男は相当な手練れであることが窺える。


「やめてください、サージさん!」

「ココ! おまえ……これをどこで手に入れた!」

「親切な人に分けてもらったんです!」

「親切な人だと? ……ん?」


 サージと呼ばれたがトアの存在に気づく。


「貴様か! ココを欺き、我が一族に災厄をもたらす者は!」

「えっ!?」

「この食べ物に毒を仕込み、我が一族を葬り去ろうというのだな!?」

「い、いや、俺は――」

「問答無用!!」


 空腹と、一族が窮地に陥っていることに対しての危機感もあるのだろう。初対面で、普段の彼をまったく知らないトアだが、サージがまともな判断力を失っているということはすぐに分かった。


 だが、だからといってこのままあの斧の餌食になるわけにはいかない。


「くっ!」


 致し方なしと判断したトアは、聖剣エンディバルを抜き、素早い動作でサージの斧を弾き飛ばした。


「ぐうっ!?」


 彼もまた、満足に食事がとれていないのだろう。あまりにもあっさりと決着がつく。この結果は、近くにいた子どもたちにも大きな衝撃を与えていた。


「い、一族で一番強くて勇敢なサージ様が……」

「戦士長が負けるなんて……」


 特にショックを受けているのは男の子ふたりだった。

 恐らく、このサージという若者はふたりにとって師匠のような存在なのだろう。そのサージが、体調面が万全でないとはいえ、いとも簡単に、まだ十六歳のトア相手に完敗したことに驚きを隠せていなかった。


「落ち着いてください、サージさん。俺は敵じゃありません」

「ふん! よく言う……野菜が育たないのも、家畜が死んだのも、すべておまえたちが使う魔法とやらの力だろう!」

「魔法はそんなに都合のいいものじゃありませんよ。……それより、作物の成長不良と家畜の大量死――このふたつの原因が分かりました」

「なんだと!?」


 トアの言葉は、サージだけでなく、ココを含め、その場に居合わせたすべての者たちを驚かせた。


「し、信じられるものか!」

「でもこれは――あっ、まずい」

「なんだ!?」

「原因が来たみたいです」

「何? ――ぬおっ!?」


 トアが何かの気配を察知した瞬間、地面が大きく横揺れを始める。そして、地中鮫が出てきた時のように、テント群から百メートルほど離れた位置にある地面がボコッと盛り上がった。


「あそこです! あそこにすべての元凶が隠れています!」


 叫ぶトアが指差した先にある盛り上がった地面。

 それはやがて、風船が破裂するように弾けて――グウィン族を絶望の淵にまで追いやった者が姿を現す。


「キシャアアアアアアアアアアアア!!!!」


 それは体長十メートルを優に超える、巨大なワームだった。


「やっぱり……」

「な、なんだ、貴様! あのバケモノを知っているのか!?」

「あれはアーストン・デス・ワーム……数十年前、セリウス王国騎士団に駆逐されたはずが、どうやら生き残りがいたみたいです」


 トアは、静かにサージへと告げた。

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