第223話 乙女たちの戦い【出陣編】

「「「こ、これは!?」」」


 その日、要塞村図書館に呼び出されたエステル、クラーラ、マフレナの三人は、呼び出したジャネットから「何も言わず、まずは読んでほしい」と、ある本を読むよう進められた。

 それはジャネットが懇意にしているエノドアの本屋から仕入れた書物のひとつで、各大陸の珍しい風習などを紹介するものだった。

その中にあるひとつ衝撃を受けたジャネットは早速エステルたちにも読んでもらうことにしたのだ――結果、三人はその内容に愕然とした。


「まさか……そんな……」

「こんな風習があったなんて……」

「わふぅ……」


 呼び出された三人は顔を見合わせながら顔を強張らせる。

 ただひとり、事前にこの情報をキャッチしていたジャネットは落ち着いていた。


「ご存じの方もいるかと思いますが、このストリア大陸は元々西方にあるロッパ大陸からの移民が人口の大半を占めています。その際、こちらの文献に記載されているイベントも伝わっているはずなのですが……」

「長い年月の間に廃れてしまったのかしら?」

「まあ……帝国との戦争もあったりして、それどころじゃなかったのかもね」

「? ロッパ大陸ってどこですか?」


 獣人族であるマフレナ以外の三人は、大陸史について多少の知識はあるため、なんとなく流れが読めた。ジャネットが簡単に大陸の位置関係や歴史をマフレナに講義している間、エステルとクラーラはさらに文献を読み進めていく。


「ジャネットの話だと、これを作るために必要な原材料が屍の森の奥にあるらしいわ。しかも高級品種という話よ」

「それと同じヤツを要塞村の農場で栽培してもらうわけにはいかないの? 大地の精霊たちの力ならできそうなものだけど」

「その原材料だけど……モンスター化するらしいの」


 エステルの説明ですべて納得がいった。

 以前、大地の精霊たちが栽培していたモンスター植物の被害に遭っているクラーラにとっては、アレと同等クラスのものを要塞内で栽培する危険性を重々承知していたのだ。


「つまり、現地まで行って収穫しなくちゃいけないってわけね」

「あと、作り方の手順も載っているけど、専門用語もあって分かりづらいわね」

「この辺はメリッサも巻き込みましょう。そうなるとルイスにも協力してもらって……」

「アシュリーちゃんも誘ってみるわ。最近、ケイス先生を見る目がちょっと変わってきているみたいだし」

「あとうちで可能性がありそうなのは……」


 四人だけでなく、このイベントに興味を抱きそうな村民たちをピックアップし、早速四人はそれぞれ声をかけにいった。



  ◇◇◇



 翌日。


「うぅ……今日も冷えるなぁ」


 ブルブルと身震いしながら要塞の外へ出たトア。

 日課としている剣の鍛錬のため、新しく造った稽古場を目指していたのだが、


「あれ?」


 外へ出てすぐ異変に気づく。

 そこにはなぜか旅支度を整えた村民たちが集まっていた。総勢で十五人ほど。王虎族や銀狼族がメインだが、エステルやジャネット、クラーラにマフレナの姿もある。よく見ると、集まっているのは全員若い女性ばかりだ。

 

「え、えっと……」


 どこかへ行くのかと気軽に尋ねようとしたトアだったが、近づくと刺すような鋭い空気が漂っており、思わず口をつぐんだ。


「あら? どうかしたの、トア」


 トアの姿を発見したエステルが声をかける。

 いつもと変わらぬ調子のように思えるが、心なしか声が低い気がする。


「あ、その、今日は何かの集まりがあったのかなって」

「ちょっとある物を探しに森の奥へ行くだけよ」

「わふわふっ!」

「それほど距離もありませんし、夜までには戻ります」

「そ、そう……気をつけてね」


 そう声をかけるだけで精一杯だったトア。それほどまでに、話しかけた四人+参加するメリッサ、ルイス、アシュリーら女性陣の気迫は並々ならぬものだった。


 それから、森の奥へと向かって出発した女性陣を見送ったトアは、入れ違うようにやってきたフォルに事情を説明。心当たりがないか尋ねると、


「そうですね……あと六日後には分かるんじゃないですか?」

「ず、随分と具体的な数字だね」

 

 フォルとしては確信があるらしいが、詳細については女性陣の気持ちを考慮して控えておくという。

 結局、何も分からないまま、トアは女性陣が歩いていった方向を見つめることしかできなかった。




 要塞村女性陣が出発しておよそ一時間後。


「間もなくポイントに到着するはずです」


 地図を片手に先頭を進むジャネットが全員にそう告げた――その時、


「!」


 マフレナの耳がピンと立ち上がる。

 

「クラーラちゃん!」

「ん? 敵襲? しょうがないわね。ちょっとぶった斬ってくるわ」


 クラーラは手にした愛用の剣を構え、敵を迎え撃つ。

 屍の森にいるのはハイランクモンスターだが、日々の修行で《大剣豪》のジョブが持つ能力を鍛えまくっているクラーラならば、もはや相手にはならない。出てきたところで瞬殺されるだろう。


 ところが、クラーラたちの前に現れたのは意外な人物だった。


「む? おまえたちは要塞村の……」

「こ、こんなところで何をしているのよ!」


 茂みの向こうから現れたのはヘルミーナ、ネリス、タマキ、モニカ、そしてクレイブの五人だった。


「ヘルミーナさん? それにみんなまで……」


 剣を下ろしたクラーラはすぐに察する。

 彼女たちも例の物を手にするためこの森の奥地へ足を運んだのだと。

 ――が、


「ちょっと待って……なんであなたがいるのよ」

「ん? なんだ? いてはおかしなヤツがいるのか?」

「あんたよ! クレイブ!」


 わざとらしく辺りを見回すクレイブに、クラーラがツッコミを入れる。


「このメンツってことは、あの本屋にあった書物を読んだってことなんでしょうけど……だとしたらこの場にいるのはおかしいじゃない」

「なぜだ?」

「あれは女の子がす――男の子にチョコをあげるイベントでしょ!」


 一瞬、何かを言いかけたが寸止めし、イベントの趣旨について述べたクラーラ。それに対してクレイブは、


「…………俺はこの四人の護衛だ」

「物凄い間があったわよ!?」


 どうやらクレイブも手作りチョコを誰かに送るため、この先にある高級原材料を採りに向かうらしい。


「そういうわけだ。この先にある高級カカオは我らエノドア組がいただく」


 高らかに宣言するヘルミーナだが、要塞村組も黙ってはいられない。


「そうはいかないわ!」

「そうよ! ここまで来て引き下がるわけにはいかないんだから!」


 ヘルミーナ&クレイブVSエステル&クラーラ。


 両者の間には熱い火花が飛び散っていた。

 と、その時、


「エステルさん、クラーラさん、大変です!」

「何よ、ジャネット! こっちは今忙しいんだけど!」

「カカオの木が移動を始めています!」

「「「「えぇっ!?」」」」


 驚く四人。

 だが、周囲からはガサガサと大きな物体が木々をかき分けながら移動している音が鳴り響いていた。


「こんなところで争っている場合ではない! いくぞ、クレイブ!」

「はっ!」

「遅れてはダメよ、クラーラ!」

「分かっているわ!」

 

 こうして、カカオの身を巡る激戦の幕が上がった。








【 あとがき 】


いつも「無敵の万能要塞で快適スローライフをおくります ~フォートレス・ライフ~」をお読みいただき、ありがとうございます。


本作はカドカワBOOKS様より、2月10日に書籍第1巻が発売されます。これも読んでいただいたみなさんのおかげです。本当にありがとうございます。

現在、ツイッターにてキャライラストや予約情報などを掲載中です。

これからも要塞村の面々をよろしくお願いいたします。<(_ _)>


キャライラストや予約情報などはこちらから! 

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